歌と物語の絵―雅やかなやまと絵の世界 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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昨年秋、東京国立博物館にて、

史上最大規模となるやまと絵の展覧会が開催されましたが、

今年は、泉屋博古館東京にて、やまと絵の展覧会が開催されます。

その名も、“歌と物語の絵―雅やかなやまと絵の世界”

 

(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)

 

 

江戸から明治にかけて描かれたやまと絵を中心に、

「うたうたう絵」「ものかたる絵」「れきし画」の3つのジャンルで紹介する展覧会です。

 

 

 

本展の一番の見どころは何と言っても、

三大物語屏風が一堂に会していることでしょう。

まず1つ目は、《平家物語・大原御幸図屏風》

 

 

 

描かれているのは、『平家物語』のラストシーン。

京都・大原に隠棲する建礼門院徳子のもとを、

突如として後白河法皇が訪ねる場面が描かれています。

一般的には、2人が出会った様子が描かれるそうですが、

この屏風絵では、2人が出会う直前の緊迫の瞬間が描かれているそう。

もし、これがドキュメンタリー番組ならば(←?)、

『CMの後 まさかの展開が!!』的なテロップが出ているはずです。

 

そして、2つ目が《伊勢物語図屏風》

 

 

 

『伊勢物語』のいろんな場面がダイジェストのように描かれています。

それらの中には、「高安の女」のエピソードも。

 

 

 

主人公の在原業平は河内国の高安の女(=愛人)のもとへ何度も通っていたが、
ある日、なにげなくその家の中を覗いたところ、女自らがご飯を茶碗によそっていました。

当時、高貴な女性が自ら茶碗によそうのは、

はしたなきこととされていたため、恋心は一気に醒め、

以来、在原業平は二度と、女のもとに通うことがなかったとか。

そんな理由で破局するなんて!

・・・とも思いましたが、そう言えば、

蕎麦のすする音が理由で破局したケースもありましたっけ。

「高安の女」は、元祖“蛙化現象”と言えるのかも知れません。

 

三大物語屏風の3つ目は、《源氏物語図屏風》

 

 

 

一般的に《源氏物語図屏風》は、

上品なテイストで描かれるものですが、

岩佐又兵衛工房が描いたと目されるこの屏風絵は、

どこか俗っぽく描かれているのが最大の特徴なのだとか。

例えば、左下の光源氏の姿にご注目。

 

 

 

のちに妻となる若紫を覗き見る場面が描かれているのですが、

その覗き方といい、浮かべた表情といい、イケメン感は皆無です。

単なる覗き野郎です。

『光る君へ』とは真逆のテイストで、『源氏物語』が描かれていました。

 

そうそう、『光る君へ』といえば、

本展では重要文化財の《上畳本三十六歌仙絵切 藤原兼輔》が出展されています。

 

 

 

描かれている藤原兼輔は、紫式部の曽祖父にあたる人物。

この絵に対して、泉屋博古館東京の野地耕一郎館長は、こんな発言をしていました。

 

「心なしか、描かれてる藤原兼輔の目元が、

 『光る君へ』の主演女優に似ている気がします」

 

 

 

・・・・・・・・・・信じるか信じないかはあなた次第です(笑)。

 

 

ちなみに。

出展作品の中で、個人的に一番印象に残っているのは、

本阿弥光悦の作と伝わる《葛下絵扇面 散屏風》でしょうか。

 

 

 

パッと見、カモフラージュ柄のよう。

一瞬、チェリオのエナジー系炭酸飲料ライフガードかと思いました。

 

それからもう一つ印象に残っているのが、

室町時代の絵巻で重要文化財の《是害房絵巻》です。

 

 

 

この鳥の被り物をしているようなのが、是害房(ぜがいぼう)

こう見えて、中国の天狗です。

そんな是害房が日本にやってきて、

叡山の僧と法力競べをするも、結果は惨敗。

ボロボロにされたため、日本の天狗に介抱されているようです。

その絵巻の中には、こんな一場面も。

 

 

 

是害房がお風呂で傷や疲れを癒している姿が描かれています。

実は、この場面こそ日本で最も古い入浴シーンとのこと!

しずかちゃんのお風呂のシーンや由美かおるの入浴シーン、

土ワイの混浴露天風呂連続殺人シリーズの定番お色気シーンなど、

日本のエンタメ史上にはさまざまな入浴シーンがありますが。

まさかその第一号が、天狗の入浴シーンだったとは!!

その意外過ぎる事実に衝撃を隠せませんでした。

星星

 

 

ちなみに。

現在、泉屋博古館東京の第4展示室では、

特集展示として“没後100年 黒田清輝と住友”も同時開催中です。

今年没後100年を向かる“日本近代洋画家界のドン”黒田清輝。

その彼が住友家第15代当主・住友吉左衛門友純の資金援助により、

2年の月日をかけて全身全霊をかけて打ち込んだ大作が《昔語り》です。

完成後、須磨海岸の住友家の別邸に飾られていましたが、

昭和20年の神戸大空襲により、すべて焼失してしまいました。
(余談ですが、芦屋にあったゴッホの《ひまわり》も同じ空襲で焼失しています)

本展は、その幻の作品の貴重な下絵や画稿を紹介するものです。

 

 

 

かつて《昔語り》という黒田清輝の傑作があった。

そんな風に《昔語り》が昔語りされることになろうとは、

まさか、黒田清輝も想像だにしていなかったことでしょう。

 

 

 

 

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