美男におわす | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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皆さま、突然ですが、「美人画」 と聞くと、どんな絵画をイメージしますか?

 

おそらく、ほとんどの方が、美しい女性、

つまり美女が描かれた絵画を思い浮かべたことでしょう。

必ずしも、「美しい人=女性」 ではないはずなのに。

美女を描いた絵があるなら、

美男を描いた絵=美男画としてもいいのでは?

そんな発想から生まれたのが、現在、

埼玉県立近代美術館で開催されている展覧会です。

その名も、”美男におわす”

 

 

 

ちなみに。

この意味深なタイトルは、与謝野晶子が鎌倉の大仏について詠んだ短歌、

「かまくらや みほとけなれど 釈迦牟尼は 美男におわす 夏木立かな」 に由来するそうです。

・・・・・まぁ、鎌倉の大仏が、美男かどうかは、深く考えないでおきましょう。

 

 

さてさて。

こちらは、おそらく日本初となる美男をフィーチャーした展覧会。

埼玉県立近代美術館と島根県立石見美術館の学芸員が3年をかけて準備したもので、

江戸時代から現代に至るまで、日本の視覚文化で描かれてきた美男が紹介されています。

 

(注:展覧会は一部撮影可。展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)

 

 

一口に、美男と言っても、その系統はさまざま。

美少年系もいれば、セクシー系やキラキラ系、ヒーロー系など、

乙女ゲームばりに、幅広いタイプの美男が取り揃えられています。

 

 

 

ただ、女性の学芸員さんだけで選ばれているので、

『仁義なき戦い』 のような仁侠映画や矢沢永吉、長渕剛のような、

いわゆる 「男が惚れる男」 は、対象外になっていた印象を受けました。

個人的には、男性が選ぶ美男もあって欲しかったです。

 

また、イケメンのタイプだけではなく、

アートのジャンルも幅広く取り揃えられていました。

浮世絵もあれば、日本画や洋画、雑誌の挿絵も。

 

 

 

さらには、女性が男性キャラにハマった初期のアニメとして、

ハリウッドで実写映画化されることで話題の 『聖闘士星矢』 も紹介されています。

 

 

 

『聖闘士星矢』 と浮世絵が、同じ空間で紹介されるだなんて。

この展覧会が最初で最後の機会ではないでしょうか。

 

また、竹宮惠子さんやよしながふみさん、

山岸凉子さんらの漫画の原画も紹介されていました。

 

 

 

それらの中には、魔夜峰央さんの漫画の原画も。

 

 

 

もちろん 『翔んで埼玉』 の原画も展示されています。

埼玉での展覧会だけに。

 

 

また、山口晃さんや舟越桂さん、入江明日香さんら、

現代美術家による現代の美男画も数多く出展されています。

 

 

 

それらの中には、2005年より一貫して、

「イケメン」 をテーマに描き続けている日本画家・木村了子さんの作品も。

 

 

 

内覧会の会場で、木村さんご本人にお会いして、

いろいろお話を伺ったのですが、特に印象的だったのが、こんな発言でした。

「自分が生きているうちに、美男をテーマにした展覧会が開催されるとは思わなかった」 とのこと。

↑上で紹介した 《男子楽園図屏風 − EAST & WEST》 を2011年に発表した際も、

M字開脚風に描かれた人物を目にした男性の美術関係者 (評論家、学芸員など) 複数人から、

「男性モデルを性の対象としているなんて、けしからん!」 とお𠮟りを受けたのだとか。

 

・・・・・・・いやいやいや。

もちろん全員が全員でないですが、

美術界は長いこと、男性が女性モデルに対して、そんな扱いをしてましたから。

それを誰よりもわかっている美術関係者が、

立場が逆になった作品を目にして、拒絶反応を起こすだなんて。

そういう人がセクハラなり、パワハラなりを、

無自覚に行っているんだろうなァと思いました。

決して誰か特定の人間を思い浮かべて、発言しているわけではないのですが。

 

ともあれ、当事者である木村さんが、

そうした発言をしていたのが何よりもの真実。

それだけに、美男をテーマにした展覧会が開催できたのは、

昨今のジェンダー問題、社会状況も大きく影響しているのでしょう。

そういう意味でも、今観ておくべき展覧会の一つです。

星星

 

なお、そんな木村さんの出展作品の中には、こんなものも。

素っ裸のダンディな中年男性が、

牛乳瓶を片手に佇む 《月下美人図》 です。

 

 

 

どういうシチュエーションなのかは、いまいちよくわかりませんが。

中年にしては、引き締まった身体であることはわかります。

お尻もきれいですし。

美尻におわす。

 

 

他にも現代美術家の作品は多数紹介されていましたが、

個人的に印象に残っているのは、市川真也さんの作品群です。

 


 

 

美男をテーマにしている今展ではありますが、

「美男=イケメン」 を謳っているわけではありません。

決して、ルッキズムを推奨するわけではなく、

むしろ、美男の多様性を提唱する展覧会となっています。

市川さんは街中やインターネットで目にした男性を、

自然豊かな光景や美術館と組み合わせて描くアーティスト。

彼が描くのは、ジャニーズ系でもLDH系でもなく、

いわゆる一般的にイメージされるイケメンではありません。

恋愛ドラマでいえば、3番手4番手のポジションです (←?)。

若い頃にヤンチャしていて、それが抜けないまま30代になってしまったような。

特定の誰とは言えないけれども、こういう人は、

学年に一人はいるよなァという謎の説得力がありました。

何人組かのユーチューバーの中にいそうな感じです。

 

 

もう一人印象的だったのは、唐仁原希さん。

今年の岡本太郎現代芸術賞(TARO賞) で特別賞を受賞されていた方です。

西洋の古典絵画の技法を用いながらも、

その中にさりげなく日本のカルチャーも描き込むのが、彼女のスタイル。

こちらの 《キミを知らない》 という絵画の中にも・・・・。

 

 

 

さりげなくミルキーが描き込まれていました。

 

 

 

さらには、『ドラゴンボール』 の28巻もさりげなく。

 

 

 

28巻には、フリーザが未来から来たという謎の少年に、

あっという間に粉々にされてしまう回が収録されています。

ということは!

タイトルの 《キミを知らない》の 「キミ」 とは、

トランクスのことを指しているのかもしれません。





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