Film:51 『サバイビング・ピカソ』 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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■サバイビング・ピカソ

  監督:ジェームズ・アイヴォリー
  出演:アンソニー・ホプキンス、ナターシャ・マケルホーン
  1996年/125分/アメリカ

1943年。大戦下のパリ。
22歳の画学生フランソワーズ・ジローは、
61歳の天才画家パヴロ・ピカソと運命の出会いを果たす。
38歳の年齢差を越えてピカソを愛するようになるフランソワーズ。
ピカソには長く別居中の妻オルガ、
2人の愛人マリー=テレーズ・ワルテルと芸術家であるドラ・マールがいた。
かつてドラと暮らした南仏の家にフランソワーズを連れて行き、
母性的なマリー=テレーズから毎日送られて来るラヴレターを彼女に読んで聞かせるピカソ。
彼の女に対する倣慢さを知り、
恥辱を感じて家を去るが、ピカソは彼女を連れ戻し、永遠の愛を誓わせた。
愛の苦しみは感じつつも、芸術家としては啓発されるピカソとの生活。
長男クロードと長女パロマが生まれてからは、南仏の陶器工房が生活拠点になっていた。
ピカソの知己のアンリ・マチスとの交際も始まったが、
ピカソは新しい愛人ジャクリーヌの元へ通い始め、2人の仲は急速に冷えていく。
祖母が亡くなり、葬儀のためパリへ赴いた彼女は、
浮かれ騒ぐピカソの姿を見て、彼との別居を決心する。
子供たちだけとパリで暮らすという訣別宣言に幼児のように泣きわめくピカソ。
数カ月後。ジャクリーヌと暮らし始めたピカソを訪ねたフランソワーズ。
「君は戦士のように私の人生から去って欲しい」 と彼女に願うピカソ。
ピカソを称えた闘牛の開会式。
フランソワーズは白馬にまたがって姿を現し、
身をもって彼への失いがたい尊敬と自身への誇りを示すのだった。
(「映画.com」より)


「↑とりあえず、映画.comのストーリー紹介を引用しましたが、
 紹介というレベルを超えて、映画全体の要約となっています。
 これだけ読めば、もはや映画を観る必要はほぼ無いような気がします (笑)


 と、それはさておき。
 この映画には、ピカソが愛した5人の女性が登場します。
 ピカソに愛想をつかされ、追い払われながらも、
 「私はピカソの唯一の妻なの!」 と喚き散らすロシア人元バレリーナのオルガ
 ピカソと会えるのは毎週日曜だけ、
 それ以外の日は、毎日ピカソに手紙を書いて送り続けるマリー・テレーズ
 芸術家としての才能を発揮しながらも、
 ピカソとの恋愛生活に悩み、次第に精神を病んでいくドラ・マール
 ピカソのことを 「閣下」 と呼び、
 彼の死後まで、文字通り身を捧げた2番目の妻ジャクリーヌ
 そして、画学生であった21歳の時に40歳上のピカソと出逢い、恋に落ち、
 ピカソとの間に2人の子ども (私生児) を産んだフランソワーズ・ジロー

 果たして、どの女性が最後の一人になるまで勝ち残り、
 富と名声を兼ね備えたピカソのパートナーとなるのか?
 『サバイビング・ピカソ』 というタイトルから、
 『The Bachelor』 のようなストーリー展開を予想していたのですが。
 まったくもって、そんな映画ではありませんでした。

 ピカソを愛したせいで、人生が狂わされてしまった他の4人の女性とは違い、
 いかにしてフランソワーズは、ピカソとの恋愛生活に終止符を打つことが出来たのか。
 いかにしてフランソワーズは、ピカソの呪縛から逃れられることができたのか。
 そういう面に焦点が当てられていました。
 なるほど、そっちの意味での “サバイビング” だったのですね。

 つまり、主役はピカソではなく、フランソワーズ。
 一種のマインドコントロール回避マニュアルのような映画でした。
 正直なところ、アートの映画としてはほとんど見どころはないですが、
 ダメンズ (ダメージョ) と付き合っていて、お悩み中の方にはオススメの一作です。

 しかし、まぁ、ピカソのダメっぷりがスゴい!
 アンソニー・ホプキンスの演技力の高さゆえでしょうか。
 ダメが過ぎて、だんだん面白くさえ感じます。
 『痛快TVスカッとジャパン』 を観ているかのよう。
 とりわけ名シーン (?) だったのは、
 愛人であるマリーとドラの2人が、アトリエで鉢合わせしてしまったシーン。
 「どちらを選ぶのか?」 と問われたピカソは平然と、
 「同じくらい好きだから、戦って決めてくれ」 と答えるのです。
 2人が取っ組み合いのバトルをしていても、
 気にすることなく絵を描き続ける姿は、まさにサイコパス。
 ハンニバル・レクターよりも、サイコパスでした。


 さてさて、やはり何と言っても、物語のクライマックスは、
 フランソワーズが、ピカソに決別を突き付けるシーンでしょうか。
 あまりのショックで泣くピカソ。
 ピカソのせいで、ドラ・マールが 「泣く女」 と化したのは有名な話ですが。
 まさか、そのピカソもまた、一人の女性によって 「泣く男」 になっていたとは!
 それほどまでにフランソワーズ・ジローに虜になっていたのですね。
 ピカソは、ジロリアン。
スター スター ほし ほし ほし (星2つ)」


~映画に登場する名画~


パブロ・ピカソ 《花の女》