ウィリアム・ケントリッジ 歩きながら歴史を考える そして歴史は動き始めた…… | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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アートの仕事に携わっているマイミクさんから、こんな情報が。
 
  ・東京国立近代美術館のウィリアム・ケントリッジ展はかなり人が入っているらしい。
  ・しかも、図録も沢山売れているらしい。
  ・かなりマイナーな部類に入るこの南アフリカ出身の現代アーティストの展覧会が、若者で盛況らしい。
  ・何故こんなに盛況なのか、企画者もわからないらしい


要約すると、大体こういうことらしい

その噂の美術展のタイトルは、
“ウィリアム・ケントリッジ 歩きながら歴史を考える そして歴史は動き始めた……”
やたらと、長い…。


というわけで、
実際に、 “ウィリアム・ケントリッジ 歩き(ry” を観賞しながら、
その人気の秘密を考えるべく、そして、とに~は東京国立近代美術館へと向かい始めた……



さて、いざ会場に入ってみて。
かなり空いていました。
若者は、そういませんでした。
平日ということもあったからでしょうか?
マイミクさんには、大変申し訳ないですが、

「あれっ、ガセ情報??」

と、まずは疑ってしまいました。
ごめんなさい。

「予想していたより、空いている
  ⇒ということは、この美術展自体、特に面白くない。」


そんな方程式が頭をよぎったのですが、
こちらは、展示を通じて、大きな間違いであることに気が付きました。
今回の美術展で初めて、その名を知ったウィリアム・ケントリッジ。
彼の作品は、かなり面白かったです!
そして、若者受けするのも、納得しました。
その理由は、おいおい。


ウィリアム・ケントリッジ
1955年南アフリカ共和国生まれ。
いま世界で最も注目を集める美術家の一人だそうで。
2009年3月のサンフランシスコ近代美術館を皮切りに、
テキサス、フロリダ、ニューヨーク、ウィーン、エルサレム、アムステルダムを会場に、
大規模な世界巡回展が進行しています。
かなりワールドワイド。
そして、2010年1月待望の日本初となる個展が、今回の展示なのです。

彼の作品は、映像作品。
なので、僕がいろいろ説明するよりも、
実際にその作品を見てもらった方が早いです。


南アフリカの歴史を扱った代表作 《プロジェクションのための9つのドローイング》 より一作。




今回の展示でも、もちろんこの作品は観れますが、
このように彼の作品の多くは、YouTube上でも観ることが出来ます。
ということは、その作品の時間は、10分以内。
映像作品は長い作品の方が多いので、
このYouTubeにピッタリな尺の長さが、ケントリッジ作品が、若者受けする理由なのでは?

さらにもう一つ理由として考えられるのは、
ウィリアム・ケントリッジ流の映像の作り方。
精緻なセル画アニメやCGが主流である、この現代において、
彼は、木炭とパステルで描いたドローイングを部分的に描き直しながら、
1コマ毎に撮影しているというアナクロさ。
それが逆に新しいと、若いクリエイターに人気なのだとか。
(ウィリアム自身は、55歳です)


ちなみに、 下の映像も、
《プロジェクションのための9つのドローイング》 の一作。





今回の展示会場には、これらの映像作品が流れているだけでなく、
この映像作品のために実際に描かれたドローイングも展示されています。

「映像作品のための一枚」 と侮るなかれ。
これ一枚でも十分に美術作品として成立していました。
それだけに、

“これらを何十枚何百枚も描いて、映像作品に仕立てるなんて・・・”

想像するだけでも、壮絶な作業です。




さてさて、ウィリアムさん。
ドローイングアニメーション作品以外の映像作品も作っております。

例えば、




この映像の前半部のような影絵を利用した作品。


そして、僕が一番今回の作品の中で楽しいと感じたのが、
ウィリアムさんご本人登場の映像作品シリーズ。

《ジョルジュ・メルエスに捧げる7つの断片》 より。




これは、カメラの逆回しを利用した映像作品。
アーティストっぽくない普通のオッサンにしか見えない彼 (←失礼なのは十分承知ですが) が、
演じているというのが、この作品の面白さに一役を買っている気がします。


そして、もう一作品。
8つのプロジェクションによるインスタレーション 《あの馬も俺のではない》 より(抜粋)




映像の後半から登場した “網タイツを履いた鼻” は、
ゴーゴリの 「鼻」 から着想を得た、この作品の重要なモチーフ。
こいつが音楽に合わせて、歩いたり、踊ったり。
この鼻を観ているだけで、楽しかったです。

影絵のようなキャラクターが、音楽に合わせて動いたり、踊ったり…
はて、どこかで、見たような…あっ!




「iPodのCMだ!」

どうりで、ウィリアム・ケントリッジの作品が、若者に人気のはずです。
勝手に一人で納得しました (笑)



映像作品を、全てきちんと観ると、約2時間は必要だそうです。
実際、普段は映像作品を飛ばしがちな僕も、
1時間半以上、この美術展を堪能してしまいました。
星星
2ツ星。
「映像作品はちょっと…」 という方でも、きっと楽しめるはず。