● コロー 光と追憶の変奏曲 展 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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次回の横浜美術館でのイベント “とに~の美術展へようこそ!” の日にちが決定いたしました!


時刻はまだ未定ですが(わかり次第、報告いたします)、8月9日と10日の二日間。
“茂木健一郎・はな・角田光代・荒木経惟 4人が創る『わたしの美術館』展

-とっておきの横浜美術館コレクション-” を、ネタにいたします。


http://www.jiu.ac.jp/yma/2008/fourviews/


もう見させて頂いたのですが、いつになくエンタメな美術展です。
“…正直、僕の必要性はないような(笑)”
いえいえ、エンタメな美術展を、さらにエンタメなものにするべく頑張りますので、

一人でも多くの皆様にお越し頂けたらと思います!




と、いつもながらの告知が終わったところで、本篇に移って参りましょう。
今回ご紹介する美術展は、国立西洋美術館にて8月31日まで開催中の

“コロー 光と追憶の変奏曲” です。
この美術展の一番の目玉は、何といっても、彼の代表作中の代表作 《真珠の女》



真珠の女


この絵は、何と日本初公開の作品。
これを貸し出してくれたのは、あの天下のルーブル美術館。
しかも、 《真珠の女》 だけでなく、

他にも珠玉のコロー作品を30数点も貸し出して下さっているというから、何とも有難い話です。


また、“コロー 光と追憶の変奏曲” では、コローを取り上げた美術展では初の試みとして、

コローに影響を受けた画家たちの作品も合わせて展示されております。
セザンヌ、ゴーギャン、ルノワールにピカソ…etc
それは、もうそうそうたる顔触れです。


こんなにも多くの巨匠たちに影響を与えたコローですが、

悲しいかな、日本では意外と知名度がありません。
“コローって、どんな画家だかわからないから、この美術展はパスしよう…”
そう思っていた皆様、どうぞご安心くださいませ。



今回、僕はコロー作品のポイントを、いとも簡単に抑えてしまう方法を発見してしまいました。
それは、日本人の誰もが一度は手に取ったことがある、このゲームで紐解いてしまおうというもの。



花札



そう。そのゲームとは 【花札】 です。

お正月に、座布団の上が戦場となるこの 【花札】
そのデザインには、コローの作品のポイントがすべて詰まっていたのです!


…信じていませんね?
まぁ、それは仕方がないことでしょう。

僕も最初にこの 【キーワード】 を閃いた時は、自分で苦笑してしまったくらいです。



では、まずはコローがどんな画家だったのか。
その辺りから、今回のお話を始めてまいりましょう。
ジャン=バティスト・カミーユ・コローは、19世紀のフランスの画家です。



コロー


自然をこよなく愛した彼が多く描いたのは、もちろん風景画。
コローの描く風景画は、ただ写実的なのではなく、叙情的。


見た目は、完全に西洋画なのですが、どこか日本的な “わび・さび” が感じられるのです。
その独特の叙情的な自然描写は、

花鳥風月を叙情的にデザインした 【花札】 の図案を彷彿とさせます。



また、コローは美術史において、

「最後の古典主義者にして最初の近代主義者」と位置づけられているほどの人物。


フランスの絵画の伝統を受け継ぎつつ、その後に続く印象派の先駆けでもあった彼は、

2つの時代を繋ぐ、まさに架け橋のような存在。
コローがいなければ、近代絵画の発展はなかったのかも知れません。


これを、ゲームの歴史に置き換えてみるならば。
“古典主義的なゲーム=テーブルゲーム” と “近代主義的なゲーム=テレビゲーム” 。

この2つを繋ぐ架け橋のような存在が 【花札】


テレビゲームの発展の礎を築いた任天堂は、

もともとはテーブルゲームの一種 【花札】 の製造会社。
つまり、 【花札】 がなければ、テレビゲームの発展はなかったのかも知れません(…たぶん)。


いまだ 【花札】 の国内シェア第1位の任天堂。
おそらく皆さんの家にある 【花札】 の12月の桐の札には、

『任天堂』と書かれているはずです。  

12月の桐の札

ちなみに、12月の桐のもう1枚の札に書かれている

『別製張貫』 という謎の言葉。

12月の桐のもう1枚の札


これは、別の紙で札を裏から包むという任天堂独自の製法のこと。
【花札】 の札が、シャッフルしづらくて困った経験は誰にでもあるはず。

それは、この独特の厚みにこだわったの製法ゆえなのです。



と、余談はさておき。
ここからは、コローの風景画のポイントについてお話していきましょう。
彼の絵の一番の特徴は、その葉っぱの描き方にあります。
それまでの伝統的で写実的な風景画では、

一枚一枚丁寧に描かれていた木々の葉を、彼は独特のスタイルで表現したのです。


一体、どんな描き方をしたのか?

そのヒントは、 【花札】 の8月と11月の札にあります。


8月の “ススキに名月” と、


ススキに名月



11月の “柳に小野道風”


柳に小野道風


一見何の植物だかわからないデザインですが、ススキと柳だったのですね…


さて、このススキも柳も、どちらも葉が一枚一枚描かれていません。
灰色で周囲を塗りつぶすことで、葉が鬱蒼と茂る様を、実に巧みに表わしています。



そして、コローが辿り着いた独特の葉の表現も、これと同じもの。
早速、それを踏まえた上で、彼の描いた絵をご覧くださいませ。


まずは、 《葉むら越しのヴィル=ダブレーの池》

葉むら越しのヴィル=ダブレーの池

葉が生い茂っている様子を、まるで水墨画のようなタッチで再現しています。



それから、 《ヴィル=ダヴレーのカバスュ邸》


ヴィル=ダヴレーのカバスュ邸


こちらの1枚でも、やはり同じような手法が使われているのが、見てとれます。

この葉を描くのに用いられた “銀灰色” こそが、コローの風景画の代名詞。


それだけに、この “銀灰色” は “コロー色” とも呼ばれるそうで。
ちなみに、19世紀当時には、この “コロー色” が一大ブームになりました。

ファッションにも使われるなど、まさに流行色だったのです。



さて、コローの風景画を観る上での、二番目のポイントです。
それは、これらの札にあります。

2月の “梅に赤短” と、3月の “桜に赤短” です。


梅に赤短 桜に赤短


ちなみに、梅の赤短に書かれている言葉は、

“あのよろし” ではなく “あかよろし” (意味:明らかによろしい)
桜の赤短に書かれている言葉は、“みなしの” ではなく

“みよしの” (意味:み吉野。桜の名所)だそうです。
と、これらはまたも余談。



さらに、もう1枚。

4月の “藤にホトトギス” 。

藤にホトトギス


これらの 【花札】 の図案に共通するのは、風を感じるデザインという点。
短冊や藤の花を真っ直ぐに配置しないことによって、目に見えない “風” を表現しているのです。
【花札】 の図案には、このようなものが多くあります。

コローの絵にも、全く同じことが言えます。


はい、では、例によって、また絵を観て頂きましょう。


《傾いた木》


傾いた木


そして、ルーブル美術館から来た見逃せない一枚


《モルトフォンテーヌの想い出》


モルトフォンテーヌの想い出



どちらの絵も、木や枝がナナメに描かれていますね。
コローは、このように描くことで、木や枝が風にそよぐさまを表現しようとしたのです。


自然を愛するコローは、ただ写真のように自然を切り取って描くのではなく、

自然の中にいる感覚になれるように、

今にも動き出しそうな自然を意識して描いたのです。
実際には風が吹いていない場合でも、

わざわざ、風が吹いた状況を想像しながら描いたのだとか。



と、ここまでは、風景画家としてのコローのお話しかしていませんが、

今回の “コロー 光と追憶の変奏曲” には、彼の人物画も多く出展されています。


例えば、 《本を読む花冠の女》


本を読む花冠の女


ポスターにも使われている晩年の傑作 《青い服の婦人》 や、


青い服の婦人


《マンドリンを手に夢想する女》


マンドリンを手に夢想する女



…等々。
これらのコローの人物画を観ていて、僕は一つの共通点を発見いたしました。

皆様、その共通点が何かおわかりになりましたか??

そのヒントもまた 【花札】 にありました。


今回のカギとなる札は、こちら。



紅葉に鹿


この鹿、そっぽを向いていて、見ているこちらを気にしていないように見えますよね。

まるで無視しているかのようです。


そのことから、人を無視することを、

この札の別名 “鹿の十(鹿の10点札の意)” に引っかけて、


「鹿の十→しかのとう→しかとう→しかと→シカト バンザーイ!!」


と、“シカト” と言うようになったのです。



それでは、もう一度、コローの人物画をご覧くださいませ。
何だか、皆が皆、 “紅葉に鹿” の鹿のように、こちらを「シカト」しています。
それぞれ思い思いに、夢想の世界に耽っているのでしょうか。
もはや 《マンドリンを手に夢想する女》 に関しては、完全にイっちゃってる気がします。

“お~い、こっちに戻って来~い!”



では、最後に。

今回の展示の目玉 《真珠の女》 についてです。

真珠の女


この絵を初めて見たという方でも、きっとどこかで見たことがある気がしたことでしょう。
おそらく、多くの方がこの絵にデジャ・ヴュを感じたのではないでしょうか。
それもそのはず、 《真珠の女》 は、あの有名な絵をモチーフにして描かれた絵なのです。


そう、その絵とは、ご存じ 《モナ・リザ》


モナ・リザ



セピア色の画面。
上半身だけ描かれた女性像。
右手を上にした手の組み方。
眉の薄さ。
前髪をなくして、額をアピール。

まぁ、探せば、似ている点が出るわ出るわ。
ここまで、意識して構図を似せた作品というのも珍しいです。



このように、コローが構図を真似るという一つの道を堂々と切り開いたからこそ、
伝統的な 【花札】 の図案の構図をモチーフにした鬼太郎の 【花札】 や、



鬼太郎の花札



ウルトラマンの 【花札】



ウルトラマンの花札


が、作られたと言っても過言ではないのです(…やっぱり、過言でしょうか)。


さぁ、 “あかよろし” なこの美術展。
“コロー 光と追憶の変奏曲” へ行こう!



030.コロー Illust by.yukimone

★ from yukimone ★


木製の机の上に花札がのっているように描いてみました。

花札の「和」な雰囲気に

そのままコローを描くのはどうなのかと思っていたら…

和装にしたわけでもないのに、

こんなにも違和感なく仕上がるとはびっくりです!!!

柳がたそがれ気分をうまく演出してるように見えます♪


<<CM>>


私からもお知らせです♪


昨年に引き続き、今年も

はがき印刷 専門サイト「挨拶状ドットコム(Designer's)」にて
2008年度暑中見舞いハガキをデザインさせていただきました。

今年は11種類あります(新作は5点です)
新作は、動物シリーズになっております。

他にもたくさんのステキなデザインハガキがあるので
是非是非覗いてみてくださ~い (^▽^)


【挨拶状ドットコム 暑中見舞いサイト】 
http://shochu.aisatsujo.jp/

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■国立西洋美術館 URL

http://www.nmwa.go.jp/jp/index.html



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