● ロートレック展 パリ、美しき時代を生きて | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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突然ではありますが、先日、横浜美術館でイベントを行ってきました。


そのページがこちら↓
http://www.yaf.or.jp/yma/detail.php?num=5

(2008/02/24現在、掲載は終了しています)


この “大山敦士” というのが、僕です。はい。
このblogがきっかけになって、このようなイベントをやらせて頂きました。


「終わってから、言うなよ…」という皆様、ご安心を。
おかげさまでイベントは成功。

また近いうちにやりますので、その時は告知いたします。


というわけで、この “とに~の美術展へ行こう!” blogも、多少パワーアップさせようかと。
ますます面白い美術エンタメガイドをお届けいたします!




そんなリニューアル1発目にお届けするのは、
こちらも去年リニューアルしたばかりのサントリー美術館で、現在開催されている美術展。
3月9日まで開催中の “ロートレック展 パリ、美しき時代を生きて” です。


この美術展には、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの作品が国内外から集められています。
その中には、本邦初公開となるオルセー美術館所蔵の油彩画もあります。



そのうちの1枚がこちらの 《黒いボアの女》


ボアの女


厚紙に描かれているのに、この存在感。これは見逃せません。



ロートレックは、 『ベル・エポック(良き時代)』 と言われた19世紀末のフランスで活躍した画家です。



ロートレック


この写真からもわかるように、彼はちょっと小柄な人物。
というのも、これは彼が13歳の時に左の大腿骨を、
14歳の時には今度は右の大腿骨を骨折するという何とも不運な出来事により、
足の成長が止まってしまったため。


裕福な貴族の家に生まれたロートレックですが、
このことが原因で、名門貴族の跡取りとしての資格を失ってしまうのです。
あぁ、不運なロートレック。


そして、上流階級での居場所を失った彼は、
庶民の街・モンマルトルで画家として生きていくことを決意するのです。
いやはや、波乱万丈な人生ですね



さて、この美術展をより楽しむためには、
さらにロートレックについて、いくつか知っておく必要があります。
(←これは、もう毎回お決まりの流れですね)


僕は今回その 【キーワード】 を、ある映画に見出しました。
その映画とは、2003年に日本で公開されたこの映画です。

http://www.youtube.com/watch?v=AjDKhqW5vGg



そう。クエンティン・タランティーノ監督の映画 【キル・ビル】 です。



ちなみに、簡単に映画の内容を説明いたしますと…、

主人公は、ユマ・サーマン演じる女殺し屋ザ・ブライド。
彼女の人生もまたロートレックと同じく、波乱に満ちたもの。


殺し屋家業から足を洗ったザ・ブライドは、自身の結婚式の最中に、
属していた殺し屋組織のボスであるビルとその配下である4人の殺し屋から襲撃を受けるのである。

昏睡状態に陥ること4年。

ついに目覚めた彼女は、殺された夫やお腹の中にいた赤ちゃんの復讐を誓い、動き始める―。


映画を見たことがないという人でも、テレビCMを目にしたことや、
【キル・ビル】 テーマ曲として使われている
布袋寅泰の印象的なギターのメロディは耳にしたことはあるのではないでしょうか。


そんな映画 【キル・ビル】 の魅力を紐解くことで、
ロートレック作品の魅力もわかってしまうというのが、今回のお話。
では、一つずつお話して参りましょう。



【キル・ビル】の魅力その1 個性豊かな女性の登場人物


映画に出てくる女性というのは、えてして綺麗な人たちが多いものです。
それは、 “女優は綺麗でナンボ” という昔からの不文律があるからでしょう。


ところが、この 【キル・ビル】 には女性らしい女性が全く登場しません。
主人公の女殺し屋ザ・ブライドは、もちろんのこと。
そのライバルである、ヤクザの女親分であるオーレン・イシイ(ルーシー・リュー)。
そして、栗山千明演じるその用心棒GOGO夕張。
ブライドと犬猿の仲である隻眼の女殺し屋エル・ドライバー。
…と、登場するのは、かなりアウトローな女性たちばかり。


常に死と隣り合わせに生きる彼女たちは、
従来のハリウッド映画に登場する女性キャラにはない、
“美” ではない “生” という魅力を放っているのです。



そして、ロートレックが描いたのもまたアウトローな女性たちばかり。
と言っても、もちろん 【キル・ビル】 の登場人物のように殺し屋ではありません。


彼が描いたのは、踊り子や娼婦といった夜に生きる女性たち。
特に娼婦は、当時もっともいかがわしいとされた職業。
“描かれる女性は、綺麗でナンボ” という時代に、
ロートレックはそのような娼婦たちの絵を描いたのです。



赤毛の女(身づくろい)


しかも、この 《赤毛の女(身づくろい)》 という一枚。
描かれている娼婦の、デーンと足を広げて、まぁ寛いでいること寛いでいること。
決して美しくはない姿ですが、しかし、存在感・生命感は十分すぎるほど伝わってきます。
これこそ、まさにロートレックの描く人物画の魅力なのです。



【キル・ビル】 の魅力その2 ちょっとおかしな日本観


Vol.1とVol.2がある 【キル・ビル】 ですが、 【キル・ビル】 Vol.1の舞台は、ここ日本。
ところが、日本人からすると、間違った日本の様子に違和感を拭えません。
というか、あまりに変なので、もうここまで来たら、ギャグなのではないかと思ってしまうほど。


例えば、主人公のザ・ブライドが日本刀を飛行機に、

当たり前のように持ち込んでいるシーンがあります。
またバイクには、専用の日本刀ホルダーが。
恐るべし、“日本=日本刀” の図式。


また映画の随所で、日本語のセリフがあるのですが、その日本語センスが凄いのです。
ユマ・サーマン演じるブライドは、こう言います。

「噂ガ一人歩キシテルミタイダネー」と。


ルーシー・リュー演じるオーレン・イシイは、こう言います。
「田中ノ親分ハ、胸ニ一物オアリノゴ様子」と。
僕は日本人ですが、これらの言葉を使ったことはありません。はい。



ロートレックは、非常にジャポニズム(日本)の影響を受けた画家です。
ですから、今回のロートレック展でも、ロートレックのちょっとおかしな日本観が見てとれます。


例えば、「侍」に扮装したというロートレックの写真が展示してあるのですが、
その恰好がどう見ても神主…。何をどう間違えたのか。

さらには、いくつものロートレック作品の中に見つけることが出来るこれ↓



ロートレックのモノグラム


これは、自分の名前の頭文字であるHRTを図案化してある彼のサイン。
実は、日本の絵には欠かせない落款を、ロートレックなりに解釈したもの。
ハンコではなく、手書きなところが、面白い。



【キル・ビル】 の魅力その3 構図


ストーリー的には賛否両論わかれる 【キル・ビル】 ですが、
こと構図に関しては非を唱える者がいないくらいに抜群に素晴らしい映画です。
とにかく計算されつくしています。


どのシーンを取っても秀逸なのですが、中でも有名なのが、
先ほどのyoutubeでの予告編の画像でも使われている、

シルエットを効果的に取り入れた殺陣のシーン。
ちなみに、1998年に公開された日本映画 “サムライ・フィクション” の影響を受けたもの。



構図に関しては、ロートレックも負けてはいられません。
ロートレックの作品の一番の魅力は、何といってもその構図力。


彼は、当時、全く芸術として認められていなかったポスターに、
斬新な構図を取り入れることで、ポスターを芸術の域まで高めたのです。
その代表作中の代表作の1枚が、この 《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》



ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ


浮世絵の影響を受けて、近景と遠景を取り入れ、
それまでのヨーロッパにはなかったスタイリッシュな構図で描いています。
そして、 【キル・ビル】 と同様に、シルエットを巧みに取り入れたのが何よりも特徴的。
ローレックはこれに味をしめたのか、実に多くの作品にシルエットを取り入れているのです。



最後に、 【キル・ビル】 と言えば、
黄色と黒という色の組み合わせを効果的に取り入れているのが特徴的。


ポスターに使われているだけでなく、
本編でも主人公ブライドが黄色と黒のコスチュームを着用しています。
実は、今回、このロートレック展でも、

この 【キル・ビル】 カラーを効果的に使用した作品を見つけてしまいました!



女道化師シャ・ユ・カオ

《女道化師シャ・ユ・カオ》



ディヴァン・ジャポネ

《ディヴァン・ジャポネ》


これらから推測するに、 【キル・ビル】 は、日本映画の影響だけでなく、
ロートレックの影響も大きく受けていたと言えそうです。



ちょっとでもこの美術展が気になった方は、
さぁ、 “ロートレック展 パリ、美しき時代を生きて” に、行ッチマイナー!



025.ロートレック Illust bu.yukimone


★ from yukimone ★


今月でこのBlogも1周年を迎えました!!

これからも頑張っていこうと思いますので、よろしくお願いします♪


今回は好きな作品がキーワードだったので

ワッペンという、細かい部分を凝ってしまいました(笑)


毎回、このBlog更新後に

私のBlogにて制作時の様子などを書いてたりします。

そちらも合わせて見て下さるとうれしいです♪



■サントリー美術館 URL

http://www.suntory.co.jp/sma/



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