目次はこちらTOC(制約理論)は革新的なのか?


まずボトルネック工程前にバッファを設けることについて。実務を行っていらっしゃる方は日常のこととしてお分かりだろうが、ボトルネック工程前には意図しなくても仕掛在庫が溜まる。「The Goal」でも描写されている。ボトルネック工程だからこそ、処理が遅れて、その前に仕掛在庫が溜まる。このような単なる事実を「改良案」として提起した意味が今ひとつ不明であるように思われるかもしれない。が、これはスケジューリングのことを考えれば理解できる。後述する。

ボトルネック工程以外の工程が保護能力を必要とすることについて。これはまったくその通りである。しかし、これはそもそも生産管理の理論の範疇なのかという疑問がある。生産管理とは「部品リードタイムや稼働能力など、所与の資源の中でいかにうまく生産をまわしていくか」という問題であると捉えたとき、これは範疇外だということができる。そしてこのような見識はTOC(制約理論)の理論によらなくても得ることはできる。また前述のトラブルだろうが効率のバラツキだろうがボトルネック工程に影響を与えることは同じなので、保護能力とバッファを敢えて区別する必然性はないように感じる。

ボトルネック工程の能力に合わせた先頭工程への部品の投入について。これも有効である。しかしこれはTOC(制約理論)のみが実現できること、実現していることだろうか。むしろこのあたりはカンバン方式やJITなど日本企業の方が得意であるが、それは措いておこう。MRPでは実現できないのだろうか。(若干精度は悪いが)MRPでも、これができている。

ここはスケジューリングの部分を読んだ後、再度読んでいただきたいが、簡単に言うとMRPは部品と生産プロセス(←注、「工程の」ではない)のリードタイムを考慮して部品の発注時期と生産プロセスの着手時期を決める。その後CRPで山積み・山崩しを行って各工程の能力を満足すればそれでOK。満足しなければ条件を変えて再度MRPから実行する。MRP ではボトルネック工程と言う認識は当然ないのだが、このループでボトルネック工程に合わせた部品の投入スケジューリング、すなわち先頭工程のスケジューリングができる。

しかしこれは「ボトルネックを何とか通過する」レベルのスケジューリングである。TOC(制約理論)の優位点は先頭工程のスケジューリングを「意図的に」行うことにある。

ロットサイズの調整について。セル生産などではロットサイズは柔軟に変更する。がしかしMRPでは固定のロットサイズで取り扱うので、この点においては TOC(制約理論)の柔軟性を評価したい。実際上の問題としては「生産ラインの途中の管理をするのか」という問題が大きく絡んでくるのだが、本稿は理論的な話に限定することにしているの省略する。しかし視点としては、生産システムと生産管理システムの両輪で考えたとき、どこまで生産管理が管理するのかという問題があり、近年の生産方式の大きな発展を考えると、「生産管理システムは、大枠をきちんと管理する」方向で考えるべきだ。結論を言えば、ロットサイズの調整の問題は、私は生産管理システムではなく、生産システムに任せるべきものと考える。注、ロットサイズを可変にすることは、現場にとって大きな障害となることがある。

TOC(制約理論)は工程を固定化したものとして捉えている。工程とは何か。それは例えば一つの部品を取り付けることである。ある工程があって次の工程がある。ある工程はある作業者がある設備を使って作業し、次の工程は別の作業者が別の設備を使って作業する。TOC(制約理論)は、このように考えるので、逆にボトルネック工程についての洞察を導き出すことができた。

日本では、現在生産方式の革新が進んでいる。その一つであるセル生産を見てみると、U字型などのセルの中で作業者がその場で柔軟に状況を判断しつつ作業を行っている。一つのロットを終える間にも担当はくるくる変化する。そこには工程の担当という概念がない。このシステムは、TOC(制約理論)で言うボトルネック工程であれば、(予めそのように決めているではなく)状況を判断して自然に稼働時間を多くしてボトルネックを解消するように動作する。TOC(制約理論)のようにボトルネック工程を判断してスケジューリングしておく必要がない。

ここでセル生産のことを説明するのは無理があるので書籍などを参照していただきたい。本題とは関係ないが、混流生産、モジュール生産、セル生産などの新しい生産方式、特にセル生産は、真剣に研究する価値がある。