先に「カレンダーに惹かれて鑑賞決定!プーシキン美術館展」にも書いたとおり、
カレンダーにオマケがついてくる、という情報により
急きょ行くことを決めた東京都美術館の「プーシキン美術館展 旅するフランス風景画」展。
 
 
当初本展に行かないつもりだった理由は、単にあおきゅーさんのコメントゆえだけでなく、
●●美術館展という類の展覧会のが曲者だからです。
 
 
統一性がないとか、お蔵入りの冴えない絵までいっしょくたで貸し出されるとか、
油断も隙もありません。
 
ただ、最近学芸員さんのコネや交渉力が高まり、さらには
修復を代行する代わりにというバーター条件で貸してもらうという裏技を覚えたおかげで
以前よりはぐっと良品がくるようになったとは思います。
 
 
西洋美術館の「プラド美術館展」などは、よくぞここまで貸してくれたものだ
と唖然とするぐらい、ここ数年で一番気に入った展覧会でした。
 

とはいえ、プーシキン美術館からくるフランス風景画というのは
ややインパクトに欠けます。

さらに、私自身、小学生時代から印象派展覧会に足を運んでいたため、
もう印象派で感動することがあまりできなくなっています。
 

なのでカレンダーにつられていくことにしたものの、それほど期待はしていませんでした。
 

でも冒頭に色合いの美しさや繊細さが際立つクロード・ロランの「エウロペの略奪」があって、
一気に盛り上がりました。
 
 
以前フランス語学校でアートのクラスをとったとき、
フランス絵画におけるヒエラルキー
(宗教画・神話画がたっとばれ、風景画は下層にみられていた)意識はなかなか強く、
なかなか打破できなかった話をとことん聞かされました。
 
それだけに、ヒエラルキーのトップに君臨した神話画を、
下層である風景画が凌駕してしまった
=エウロペの略奪という神話のテーマはささやかに描かれているのみ=
ロランの大胆さが妙に痛快でした。
 
 
 

そして普段好きではないロココ派のブーシェの「農場」の絵にも惹かれました。
屋根の上の白い鳩、朽ち果てた橋の質感は絶妙

女性が2階から水をこぼすシーンを眼で追えば、細く零れ落ちる水の描き方ひとつにも
味を感じたり。
 
 
ユベール・ロベールのローマの廃墟画「水に囲まれた神殿」は、
単眼鏡で見るのがお勧め。

私は・・・泳ぐ犬の姿を見つけてしまいました。カワイイ!
神殿の階段で、すべってこけた風の男性もいます。
左手の高台にいる学者風の2人連れも気になります。
 

モネの「草上の昼食」も、印象派になりきる前の堅い筆致が新鮮で
絵のパネル解説も充実していて、事情を知って眺めると、
また味わいも深まります。
 

そのほか、滅多に見ることのできない画家の絵も
マンネリの印象派展とは一線を画していました。

以下気に入ったものたち:
クロード=ジョセフ・ヴェルネ(「日没」:夕闇の色がノスタルジック!)
ジャン・フランソワ・ラファエリ(「サン=ミシェル大通り」:画面いっぱいに漂うパリのざわめきに心躍った)
エドゥアール・レオン・コルテス(「夜のパリ」:きらめく街灯と闇の激しいコントラストが印象的)
 
 

せっかくチケットを買ったので、三浦篤先生の講演会も拝聴。
 
前半は展示されている作品説明、後半は「草上の昼食」のみの解説でした。
以下に先生の話のポイントを記します。

これから展覧会に行かれる方は、このあたりを要チェックです:
 

・今回モネ以外だと、シスレーが特に名品である。3点きている。(「オシュデの庭、モンジュロン」には、とくに空の画家シスレーの特色が出ている。)

・セザンヌのサントヴィクトワール山の絵が初期・後期の違う画風2枚の対比でみられるのが素晴らしい。後期の絵は抽象画に近い。

・ロワールという画家は無名でノーチェックだったが、本展では人気が高いようだ。

・クールベの晩年の履歴が暗い。(無政府主義で身を堕とした話が披露されましたが、解説に書かれているので会場でどうぞ)。

・レルミットの「刈り入れをする人」はバルビゾン派の農民画と共通するものの、女性を配置していて、ある意味理想化も念頭に入っている。

・「草上の昼食」はオルセー版が未完成だったので、習作のはずのプーシキン版が最終版になった(その経緯について長々説明がありましたが、解説パネルにすべて網羅されているので、それをじっくり読むとためになります)。

・「草上の昼食」の背景の木に彫られたハートマークの意味は不明(私もこれが気になっていましたが・・)