真アゲハ ~第71話 星浦 綺堂2~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

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「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。



彩耶華の脳に、あの日の記憶が蘇る
あの日、それは彩耶華の両親が亡くなった日だ
全身が炎で焼かれ、酷い焼死体となってしまった

その焼死体を彩耶華は覚えていた
だから、今回の資料の写真を見て、気持ち悪くなってしまったのだ

彩耶華「はぁ…はぁ……っ」

会議を飛び出し、1人になった彩耶華は呼吸を整える
涙が眼に溜まっているため、落ち着いてから戻ろうとする

彩耶華(…どうしてこの様な資料が?)

千晴「…彩耶華?どうした?」

彩耶華「…!」

そこに現れたのは、“サーディン”の1人で、風城大学附属高等学校の先輩の鏑木千晴だ
普段とは違い、前髪を下ろして、動きやすい服装になっている

彩耶華「…いえ、な、なんでも…ありませんわ…」

千晴に見られたのを恥ずかしくなったのか、その場をまた去ろうとする
だが千晴は止めた

千晴「…もしかして、戻るの辛い?」

彩耶華「え?」

千晴「さっき他のネクロハンターの人見たよ。もしかして会議か何か?」

彩耶華「え、えぇ…」

千晴「…俺が代わりに参加してくる」

彩耶華「え!?」

突然の千晴の思い付きに、彩耶華は驚く
ネクロハンターが受けなければならないのに、情報部隊の“サーディン”が受ける必要はない
それに先輩だ、手を煩わせるような事はしたくない

彩耶華「だ、大丈夫ですわ…!私…!」

千晴「そう言ってるけど、顔青いよ。話聞くくらいなら俺だって出来るし、俺が参加して後で内容を彩耶華に説明するよ。情報をネクロハンターに与えるのが、俺達“サーディン”だから」

彩耶華「!…そう、ですわね」

提案に納得し、彩耶華は戻ることを諦める
代わりに千晴が彩耶華の代理として会議に参加し、漆島から情報を聞いた
そして数分後、彩耶華の元へ戻り、会議の内容を話した
念のため、焼死体の写真は見せない

千晴「…今回の会議の内容は、不思議な変死体の事だったんだけど…」

彩耶華「不思議な…変死体?」

千晴「うん。まだ冬でもないのに全身を氷漬けにされたり、車の中で溺死したり、木のてっぺんに逆さまにされて刺さっていたり、あとは電柱の下で感電死」

彩耶華「確かに…妙ですわね」

資料に載っていたのは普通ではあり得ない死に方ばかりだった
先程見てしまった焼死体も、目の前に海が広がっていたのにも関わらず、船の上で丸焦げにされている
しかもあり得ないのはそれだけではない

千晴「今回亡くなったのは8人だけど、全員中国で発見されて…その8人の正体が、中国警察と、イギリスのFBIやアメリカのCIA、日本の公安警察だったんだ」

彩耶華「え…!?すべて、警察の関係者…!?」

すべての死体が、各国の警察関係者だと言うことに驚いた
しかも全員が中国で発見されるなんて、不思議と名付けるだけある

千晴「死体の顔写真をオクトパスが照らし合わせてみたら、機密情報が出てきたんだ。どうやら全員、潜入捜査官だったみたい」

彩耶華「潜入捜査官?…全員が中国で発見されたってことは…何か中国で調べものをしていたとかですか?」

千晴「“館長”も同じことを言っていたよ。だけどそこから先はオクトパスが調べるって言ってた。時間がかかりそうだ」

彩耶華「一気に警察官がこんなに亡くなるなんて…それも全員が潜入捜査官、中国で何かを調べていた時に、全員が変死体で発見された。これは人間の犯行ではありませんわね。間違いなく…」

千晴「ネクロだ」

答えはすぐに出た
変死体の死因や場所も照らし合わせれば、不可解な物ばかりだ

千晴「…だけどそれぞれの死体を見ても、死因がバラバラだ。ネクロのアビリティであることは間違いないけど、もしかしたら複数犯の可能性があるかもしれない」

彩耶華「つまりその複数犯が知られてはまずい事を調べられたため、捜査官全員を殺した…。ネクロの複数犯が中国にいたなんて…」

千晴「心当たりはあるよ。前に炎さんが、実家に帰った時に出くわしたって言ってたよね?」

彩耶華「…!」

夏の頃、炎が実家に帰った後で、炎から報告を受けた事を思い出した
実家が中国マフィア“羅刹天ーラクシャーサー”によって壊滅し、逃げるように生き残った兄弟達は名古屋に来た

その“羅刹天ーラクシャーサー”は、1人を除いて、全員がネクロだ

彩耶華「それじゃあまさか…殺したのは…!」

千晴「俺もそう考えた。だけどコバルトさんにすぐ論破された」

彩耶華「え?論破?」

千晴「“前に聞いたアビリティで殺したとしても、全部当てはまらなくない?仮に木の上の死体は動物のアビリティを使えば出来なくないけど、他はどう説明するの?”って」

彩耶華「…正論ではありますわね」

千晴「もしかしたら奴らがまた新たなメンバーを雇ったのかもしれない。だがそうなると動機も分からないんだ」

彩耶華「動機?」

千晴「なんで殺すのか、だよ。殺してしまえばそれこそ的にされる可能性は大きくなる訳じゃん?炎さんの話だと、“龍の一族”には怨みがあったから襲撃したのに、何の意味もなく警察関係者を殺すなんてあり得ないからね」

彩耶華「そう…ですわね」

ここに来て“羅刹天ーラクシャーサー”の存在が浮上したが、本当に彼らがやったのだろうか?
それに彩耶華が見た焼死体の写真、あれは両親が死んだ時と全く同じだ
もしかしたら、“羅刹天ーラクシャーサー”の中に、両親を殺した犯人がいるかもしれない

彩耶華(…もし、それが分かった時は必ず…!)