真アゲハ ~第69話 綾部 希7~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

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「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。



ナルミ「…」

名古屋港水族館
サンゴ礁の大水槽の前では、『アクアリウム』の“館長”ことナルミは、サンゴ礁の海を優雅に泳ぐ個性豊かな海の生き物達を見ていた
その中でも、大きなヒレをヒラヒラとなびかせながら泳ぐエイをよく見ていた

炎「館長」

そこにネクロハンターの炎(イェン)が現れる
声をかけられ、ナルミは振り返る

ナルミ「…珍しいね、君から報告があるなんて」

炎「この前の事でな」

炎がここにやってきたのは、先日の“石化”のアビリティを持つネクロを倒した時の報告だ
あの時、別のネクロも現れた
しかもそれが、死んだと思われた兄の帝(ディー)だった

炎「…以前見た松房の身体から出てきたあの目玉の怪物、あれは奴のアビリティだったんだ。しかもそれをまた、鮫津の身体に打ち込んだ。この眼で見たから、間違いない」

ナルミ「なるほど…」

炎「…3ヶ月前に、“龍の一族”が崩壊し、俺を苦しめた兄弟の大半が犠牲になった。その中に帝もいたはずだ。だがネクロになるとは思ってもいなかった」

ナルミ「ネクロになるには“REBORN”を射ち込まなければならない。“龍の一族”の人間は、予防接種とかはどうしていた?」

炎「いや、そもそも外部の人間は一切受け付けない村なんだ。医者だって、その村に住む者が、薬を調合していた。注射などは使ったことはない」

ナルミ「これまで、何か重い病気にかかったりとかは?」

炎「それもないな、あっても風邪をひいたくらいだ。他の兄弟もそうだ。元々軟弱に育てられてない」

ナルミ「言われてみればそうだね。“龍の一族”は古来から暗殺術程の拳術を習得する。鍛え方は半端じゃないか」

炎「となると、“羅刹天ーラクシャーサー”が乗り込んできた時に…?」

心当たりがあるとしたら、“龍の一族”が崩壊する時に乗り込んできた中国マフィアの“羅刹天ーラクシャーサー”の仕業かも、と思ったがすぐ否定した
ボスの劉は、“龍の一族”を憎んでいる
特に最強である帝を潰しにかかっていた
そんな男が、“龍の一族”の人間を蘇らせる様な真似をするはずがない

炎(となると誰なんだ?“アルルカン”か“クロノス”……まさか…!)

闇の商人達も考えたが、1人心当たりがある人物がいた
それは、輝人の兄貴のアサギだ
この間の事件に絡んでいたからあの場にいたのは理解するが、まだ底が知れてない
調べてみる価値はありそうだ

ナルミ「…?炎?」

炎「……いや、なんでもない」

ナルミ「それで、どうするんだい?お兄さんを、殺すのかい?」

炎「…当たり前だ」

輝人の時とは違って、即答だ

昔から兄に虐げられて、辛い想いをし、いつかは越えたいと思っていた
あの時殺られて死んでしまったのなら、諦めが着くのかもしれない
だが生きていると分かり、ネクロだと知って、許せない気持ちがさらに込み上がった
“龍の一族”最強と呼ばれた男が、獣人術だけでは飽きたらず、ネクロのアビリティまで手にしてしまうなんて…

炎「“龍の一族”は俺にとって許されない存在だが、ネクロになるなんて、泥を塗ったも同じだ。必ず見つけ出して、今度こそ息の根を止めてやる。今度は、誰にも譲るつもりはない」

ナルミ「……そうか、それなら良いよ。こちらでも少し情報を共有しよう。それにネクロのアビリティも調べておくよ」

炎「助かる」

炎の話を聞いて、ナルミは頷く
帝のアビリティは、それほど危険と判断したのだろう

ナルミ「他のネクロハンターには…伝えない方が良いよね?君が狙っている訳だから」

炎「そうだな、他の奴に横取りされたくもない。もちろん“シャーク”にもだ」

ナルミ「分かったよ。そう言えば、ナイルがようやく到着したことは、耳にしているかい?」

炎「ナイル?…ハッ、ようやく来たのか」

同じネクロハンターのナイルが到着した事を知り、鼻で笑った

ナルミ「早速だが、トールと共にネクロの元へと向かったよ」

炎「トールが気の毒だな」

ナルミ「そうは言ってはいけないよ。ナイルは名古屋に来る前に、ほとんどのネクロを倒したからね。灰も回収してくれた。ナイルは強い」

そう言い、再び大水槽のエイを見る
炎もエイを見る

炎「…笑っている顔か、呑気なところはあいつにそっくりだな」

ナルミ「勘違いしているみたいだが、あれは鼻と口だよ。エイの目は上にある」

炎「……知っている。あんたに初めて水族館を案内された時、教わったからな」

ナルミ「5年前まで山で過ごしていたから、海の生き物を見たことがなかったよね。初めてシャチを見せた時の事、今でも覚えているよ」

炎「俺は忘れた」

ナルミ「…さっきの話の続きだが、ナイルの名前はエイから取った。通称“マンタ”。何故だか分かる?」

炎「呑気だからか?」

ナルミ「教えたハズだけど、もう1度言おう。エイは大人しそうに見えるが、尾に毒針があるんだ。尾棘(びきょく)と言って、これが刺さると毒が注入されて、酷く痛む。しかもよく見るとノコギリ状になっていて“返し”になっているから、そう簡単には抜けない。それを持ってるのがエイだ。特にアカエイは数本の尾棘と猛毒を持っているため、死亡例が絶たない」

炎「……まさか…」

ナルミ「ナイルを侮ってはいけないよ?ヒレを大きく揺らして優雅に泳ぐエイにも、毒はあるんだ。ナイルはそれと同じように、毒レベルの強さがある」