真アゲハ ~第67話 白浜 恵介6~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

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「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。



恵介「……」

瀬戸組の金を盗んでいたことがバレた白浜は、事務所の外に立ち、海を眺めていた
いや正確には、向こうにある大きな岩を見ていた
そこは鮫津組のアジトで、嫁の凪が捕らえられている

恵介「…ハァ…どうすりゃ良かったんだろう……」

凪を助けたいために、瀬戸組を裏切ってしまった
今更謝っても、どんな償いをしても許してはくれないだろう
もしかしたら、自分の命を差し出せとか言うかもしれない
それほどの大罪を犯してしまったのだ

恵介「凪……」

輝人「…あそこに、凪さんがいるのか?」

恵介「!」

そこに輝人が現れる
輝人も大岩を見る
月の光が照らされ、よく見える

輝人「…ただの岩かと思ったが、まさかアジトとはなぁ」

恵介「気付いていたのか?」

輝人「一応探偵だからな。そんで?どーするんだあんたは」

恵介「……俺はもうダメだよ。組を裏切ったんだ。今更どう足掻いても許してくれないよ」

諦めたのか、恵介はその場に座り込む
項垂れるように顔を下に向けて、話す

恵介「…凪はさ、昔家族に酷い扱いを受けられていてさ、自殺をしたんだと。最初はリスカして、生き返ったと思ったら次は海で死のうとしてたんだ。そこを…俺が助けた」

輝人「…」

恵介「凪はずっと、あの家にいて苦しかったって。実の家族に捨てられて、居場所が無かったって泣いていた。俺も、親がクズで…施設に入れられたから気持ちはスゲー分かるんだ。だから…そんな思いをさせないために、凪を幸せにしたかった。俺がヤクザだから、別居とか旧姓とか、望みたく無かったんだろうけど、あいつは受け入れてくれた。あいつなりに、気を遣ったんだと思う。だから、俺が離れていても繋がっていると思わせたかった。なのに……っ」

ギュッ…!と腕を強く掴む
凪と出掛けて油断していたせいで、凪は鮫津組の人質になってしまった
自分がもっとちゃんとしっかりしていたら、凪は絶対に捕まることなんて無かった
勝手に行動せずに兄貴や舎弟、組長の三船に話していればもっと早く凪を助けに行けたかもしれない

もう何もかも、行動が遅すぎた
絶望しかない

輝人「……そう思うなら、なんで助けに行かねぇんだよ」

恵介「…!」

輝人の口が開く
その言葉にハッと顔を上げる

輝人「あの人を…凪さんを助けられるのはあんたしかいないんだろ?そんなあんたが、諦めてどーするんだよ?助けられなかったら、今助けに行けばいいじゃねぇか。凪さんは、あんたが助けに来るの、ずっと待ってるんだぞ?それも裏切るのかよ」

恵介「!……だけど、あっちには組員を石化した奴が…」

伊能「だから俺らにどうしたら良いか、話せって言ってるんだ」

恵介「!」

輝人と白浜の後ろに、瀬戸組全員と日奈子達がいた
全員話を聞いていたみたいだ

三船「白浜、お前の良いところはすぐに行動に移せる所だが、誰にも相談せずに行うから余計に心配だ。自分で考えて動くのは良いことだが、お前には兄貴や舎弟がいる。お前と違う人間がたくさんいる。そいつらから、たくさん話を聞くのも、1つの手だぞ?」

恵介「親っさん……」

義丸「ったく、いつまで座ってんだよ!ほら立て!」

日向が白浜の腕を引っ張って立ち上がらせる
急な行動に白浜は驚くが、すぐに分かった

重明「兄貴!これ!」

舎弟の伊倉が鉄櫂を渡す
白浜の武器だ

鬼嶋「これから奥さん、助けに行くぞ!」

恵介「え?えぇ?」

影山「ついでに鮫津組を壊滅させる!もうこれ以上は我慢ならねぇ!」

三好「仲間を石にされ、兄貴を利用されて、兄貴の奥さん人質にして…いい加減堪忍袋の緒が切れましたね」

三船「居場所が掴めなくて行けなかったが、ようやく乗り込める!船を出せ!」

瀬戸組全員が動き出した
先程まで自分を責めていたと言うのに、白浜のために動いている
その行動には感動する

恵介「皆っ…!」

輝人「…分かっただろ?瀬戸組はあんたと同じだよ。石化した仲間を助けるために、こうして動いてくれるんだよ」

三船「白浜、お前も行け。凪さんを助けられるのはお前だけだ。ちゃんとケジメつけてこい」

恵介「…!はい!」

伊能(…やっぱり三船の親父は見る目がある。あの人が瀬戸組の新しい組長で良かった…!)

三船に背中を押され、白浜も船へと走り出す
その様子を見て安心したのか、輝人は日奈子達の元へと戻る
全員鮫津組のアジトへ乗り込む準備は出来ている

日奈子「輝人、私達も」

栗栖「あぁ、船に乗って助けに…」

輝人「……いや、俺らは残る」

栗栖「え?」

輝人が珍しく乗り気じゃない事に全員は驚く

航平「どうしたんですか?俺らも行けばあいつらに…」

輝人「確かに。あっちにはネクロがいるし、俺らが行った方がいい。だかそれは…炎と彩耶華に任せるよ」

炎「!」

彩耶華「え……?」

ゆに「え、輝人さんが……」

カンナ「譲った…?」

輝人達はここに残るが、鮫津組のアジト向かうのは炎と彩耶華を指名した事にさらに驚く

輝人「ネクロハンターが2人もいるし、あっちのアビリティはもう理解している、だろ?これ以上無い好条件じゃねぇか。違うか?」

炎「フッ、まさかお前に譲られるとはな」

彩耶華「ですが、どうして急に?」

輝人「あのクソ兄貴の事だ、俺らの情報をあいつらに話しているかも知れねぇ。だったら裏をかいた方がいいかと思ってな」

茜「なるほど、確かに一理ありますね」

日奈子「じゃあ…私達はここで待ってるの?」

始「悔しいけど…それがいいかも」

輝人「だけど殺るのは…」

炎「鮫津海若だけ、だろ?女ネクロの方は見逃す。まぁ、お前のクソ兄貴の思い通りになるのがムカつくだけだ」

彩耶華「私もですわ。それに、大切な家族を失う気持ちは、分かりますので」

最初は凪を狙ってきた2人だったが、鮫津の存在とアサギの登場で気が変わった
2人も船へと乗り込む

三船「よし、伊能はここに残れ。他の者もここには残るが、影山も向こうに行ってるし、万が一奴らが攻めてきたりでもしたら、お前も戦って欲しい」

伊能「はい、分かりました」

日奈子「ねーねー!私達はどーするの?」

残った日奈子達はどうするのか輝人に質問する
輝人は答える

輝人「俺に作戦がある。まずお前らは…」

栗栖「俺達は?」

輝人「工作をしてもらう」

全員「「「「は???????」」」」

輝人「なぁに、ちょっと試したいものがあるんだよ。伊能さん、あれの作り方教えていただけます?」

伊能「あれ…?」