『…昨晩愛知県警察署に刃物を持った男が現れ、警察官1人を傷害した事件が…』
「マジかよ、怖くね?」
「警察に恨みあるのかなー?」
「犯人逃亡中とか…」
カンナ「…犯人が誰かなんて、分かりますよ…(・・;」
同期の噂話を聞きながら、カンナは呟いた
手にはスマホがあり、メッセージアプリ画面に『茉莉花さんがネクロハンターのアホに襲われた』と輝人から連絡が入っていた
ここは名古屋の『4大高校』の1つである風城大学附属高等学校の風城大学
『4大高校』の中で唯一大学附属高校で、附属高校の卒業生はもちろん、花巻女子学園、千鳥工業高校、月見山高等学校の卒業生のほとんどはこの大学に入る
大学では、俳優、女優、声優などの芸能関係の授業やファッション、メイク、ヘアアレンジなどの美容系関係の授業も行っている
四十住始と森久保カンナがこの大学に入っている
始は『俳優育成科』、カンナは『被服・デザイン科』に所属しているため、ほとんど学校で会うことはない
ーカンナの友達①
野田 真希(18)ー
真希「…はぁ~~~……」
カンナ「あれ?真希、どうしたの?」
真希「…カンナちゃん、自分はショックなのだ…」
お昼時、食堂に到着すると、同じ『被服・デザイン科』の野田真希と出会った
真希はいつもと違ってすごく落ち込んでいた
だがカンナは理由は知っていた
カンナ「…まさか、まだ立ち直れていないの?前に辞めちゃった地下アイドルの事」
真希「“まだ”とは何なのだ?自分は自分の人生をかけてお金を惜し気もなく突っ込んでいたくらい大好きだったのに、それが突然辞めてしまって、すぐファンを諦めようなんて鋼のメンタルでは無いのだから、すぐ立ち直れるなんて無理なのだぁー…(|||´Д`」
カンナ「ご、ごめん…(・・;」
真希は女の子だが、女子アイドルのファンをしている
最近も推しの子が出来たとかで、カンナや他の同期の子に紹介したり、ライブによく行っていたりしたのだが、その推しの子が突然引退してしまい、真希はショックを隠せないでいた
真希「…でもいいのだ、また新しいアイドルを見つけたのだ(笑)」
カンナ「え?(・・;」
そう言って真希はすぐ笑顔になる
カンナに見せようと、自身のスマホを立ち上げる
真希「名古屋で新しいアイドルが出てきたのだ!“次世代おもちゃ系アイドルユニット”『TOY Doll』!個性豊かな4人組の地下アイドルで、ライブも可愛い夢の国に案内されるのだ!」
カンナ「あ、え…そ、そうなんだ…良かったね(・・;」
落ち込んでいたと思ったら、また元気になった真希の様子を見て、安堵する
真希が見せてくれた『TOY Doll』の写真を見ると、いかにも個性的だと分かる4人組の女の子の写真が載っている
真希「今日はなんと、アウトストアイベントってことで、セントラルパークで握手会とサイン会があるのだ。カンナちゃんにも紹介してあげるのだ~!」
カンナ「え?えっと…ごめん、私は今日バイトがあるから…」
斑目探偵事務所のバイトを伝えると、真希はすぐ諦める
そこにカンナのもう1人の友達が通り過ぎる
真希「あ、奈緒ちゃんなのだ~」
奈緒「えっ…?あ、ま、真希ちゃん。カンナちゃんも…」
ーカンナの友達② 本堂千咲の姉
本堂 奈緒(19)ー
真希「奈緒ちゃん、今日は私とイベントに参戦してほしいのだ。新しいアイドルを紹介するのだ~」
カンナ「またハマったみたいなんだ。私は今日バイトだから行けなくて…」
奈緒「あ、ご、ごめんね…っ。今日もちょっと予定があって…」
そう言うと奈緒はすぐ2人に背中を向ける
スマホの画面を見ながら、ぶつぶつ話し出す
奈緒「…だ、大丈夫…!20万くらいなら、すぐ返せるから…っ」
カンナ「?…奈緒、最近付き合い悪いけどどうしたの?」
真希「分からないのだ。でもなんかどこかに電話をしているところをこっそり聞いたのだ。何を話していたかは知らないけど…“教祖様”とか言ってたのだ」
カンナ「教祖様…?」
真希「多分誰かのアダ名だと思うのだ。しかし奈緒ちゃんもカンナちゃんも参戦しないとなると、また自分だけになってしまったのだ。残念なのだー」
カンナ「…」
館長『炎、どうやら公になってしまったみたいだね』
一方、炎は自分の上司の“館長”から連絡をもらっていた
ニュースを確認して、電話をしたのだろう
館長『君の事は出ていなかったが、愛知県警は君を指名手配するだろう。鬼頭茉莉花は確かにネクロだが、人前で殺すことでも無いだろう』
炎「…まさかメディア関係者が近くにいるとは思ってもいなかった。ただそれだけだ」
館長『…どうやら斑目輝人を仕留めなかったから、焦っているのだろうね』
炎「!…焦ってなどいない」
館長『そうか?…まぁいいよ。これまでのネクロとはレベルが違うと名古屋に向かう前にも忠告したからね。先日も“呼出(コール)”を回収したし、その分の報酬は振り込んでおくよ』
炎「あぁ、分かった」
館長『あと…これは別件で調べて欲しいことなんだが頼めるかな?』
炎「なんだ?」
館長『実は名古屋に他のネクロが潜んでるかもしれないと思って、うちの情報屋を送り込んでおいたんだよ。追加でネクロの始末を任せようかと思ってね。ところが、突然連絡がつかなくなってしまったんだ』
炎「なんだと…?」
炎が所属している『アクアリウム』は、専属の情報屋がネクロの情報を掴み、資料を作成して、ネクロハンターに情報を提供している
しかし先日、名古屋に送ったハズの情報屋から連絡が途絶えてしまったと言う
炎「まさかバレて殺されたとか…?」
館長『そこの調査も君に任せるよ。すぐで無くても良いが、もし死亡が確認されたなら、新しい情報屋を送らなければならないからね。頼んだよ』
そう言って館長は、電話を切る
炎は館長からの依頼に、ハァ…とため息をつく
炎「人使いが荒いな。まぁ殺されたとしたら並大抵の人間ではない事は確かか……うっ!」
突然炎の身体に痛みが走る
昨日多々良にやられたばかりの傷が、痛み出す
応急処置なので、ちゃんとした手当てではない
炎「…あの男、ネクロではないがネクロの武器を持っていた…。となると、闇の商人の噂は本当みたいだな…」