時間が過ぎて、午後19時になった
日奈子「ね~ぇ、茜さぁ~ん…」
アパートで日奈子が、猫なで声で茜にすり寄ってきた
何かを察したのか、茜はすぐ答えた
茜「いけません」
日奈子「まだ何も言ってないじゃん!」
茜「だいたい分かりますよ。もしかして、“休日に遊びに行っても良いか?”ですか?」
日奈子「う…正解です…(・・;」
的中され、日奈子はビクッとなる
だが茜の答えは変わらない
茜「日奈子様、もうすぐ中間テストが近いのですよ?それなのに遊びに行ってる場合じゃ無いでしょう?只でさえ成績は良くないのに」
日奈子「ち、千咲に誘われたんだよ!土曜日に名古屋製菓専門学校に行かないか?って!」
茜「え?どうしてですか?」
日奈子「千咲のお姉ちゃんの友達がその専門学校生で、作品を展示するから見に来て欲しいって!あと、色んなパティシエ達が、その日限定でケーキも出すって言うから…!」
茜「明らかに後者が目的なんですね、ダメです」
日奈子「えぇ~…でもどうせ探偵事務所に依頼来てるんでしょ?警備もやることになるかもだし…」
茜「その事ですが、心配ありませんよ?栗栖様に中間テストのご報告をしたところ、1週間はテスト勉強に励んで欲しいと言うことで、しばらくはアルバイトはお休みになりました。今度の土曜日もお休みして良いそうです」
日奈子「え!なんでそんなことするの!?」
茜「日奈子様、貴方は探偵以前に学生でしょう?学生の本業はお勉強ですよ。それに中間テストは平均75点以上じゃないと赤点だそうじゃないですか。追試をする事になったらどうするんです?最悪夏休み中も補習になるかもしれないんですよ?」
日奈子「う…っ、分かったよ…」
茜「分かりましたら、お風呂に入ってきてください」
茜に強く懇願してもダメだと分かった日奈子は、風呂へと向かった
フゥ…とため息をつき、茜は夕飯の片付けを続ける
茜(ケーキを出す…か。そう言えば絵麻さんもケーキを出すのでしょうか?その日限定で…?)
“ハーメルンの笛吹き男”からの脅迫状が届き、心配になって専門学校に行ったのだが、絵麻とは話すことは出来なかった
絵麻『もし私に何か用なら今日の夜お話出来ます。お店で待ってますので来てください。』
茜(お断りはしましたけど…もしかしたら、お店で待っていたり…?)
昼間は「大丈夫」の一言だけで片付けてしまった茜だが、思い出してみると、上手く伝わらなかったかもしれない
もしかすると、店で待っているかもしれない
茜(…行った方が良いですよね?日奈子様には申し訳ありませんが…)
不安になった茜は、日奈子に書き置きを残して、アパートを出て行った
甘利「お疲れ様でした」
名古屋製菓専門学校の入り口から甘利が出てきた
手には荷物を持っており、今から帰るところだ
城塚「甘利くん、遅くまで残ってもらってすまなかったね」
甘利「いえいえ、明日と明後日のコンテストのためですから!結果、楽しみにしてますね!」
城塚「うん、入賞してるといいね」
国生「甘利芽衣華さん、ですか?」
そこに愛知県警の国生が現れた
甘利に用があるため、ここに来たのだ
国生「愛知県警の国生です。お話があるのですがよろしいですか?」
甘利「警察の方…?」
城塚「一体何のご用ですか?」
突然の警察に驚き、警戒するが、国生は失踪事件の話をする
ほとんどの被害者が『HAPPY!Bombom!』を訪れている事を知って、甘利に事情を聞こうとして、ここに現れたのだ
甘利「…確かにその事件は私も新聞を読んでて分かりますよ?でも、うちの店を疑っているんですか?」
国生「ですが…被害者が出ているのは事実です」
城塚「証拠はあるんですか?甘利くん達が事件に関係していると言う証拠は?」
国生「それは…まだ…」
城塚「でしたら疑わないでください。甘利くんは今とても大事な時なんです。もういいでしょう」
甘利「し、城塚先生…」
甘利を庇いながら、城塚もその場を離れる
「参ったな…」と言う表情をして、国生は頭を掻く
浅川「……」
入り口の様子を、愛知県洋菓子協会会長の浅川は、静かに見ていたのだった
絵麻「…よし、今日の仕込みはここまで」
絵麻は自身の店に戻り、ドイツのケーキを仕込んでいた
これらは土曜日に出すケーキの分だ
仕込みを終わらせ、店の片付けを手早く終わらせた彼女は、コックコートを脱いで普段着になる
絵麻(茜ヶ久保さん、来るかなと思ったけど…やっぱり断ったって事で良かったのかしらね。連絡先交換しておけば良かったわ…)
その時、店の電話が鳴った
絵麻は受話器を取る
絵麻「はい、ドイツのケーキ『Traum』です。本日の営業は…」
茜『あ!絵麻さん!良かったです!繋がって…!』
絵麻「あ、茜ヶ久保さん?」
電話の相手は茜からだった
個人の連絡先は分からなくても、店のホームページから電話番号を調べて、かけてきたみたいだ
茜『すみません、お店に伺う話を思い出していたのですが…お店にいますか?』
絵麻「えぇ、丁度仕事も終わりましたので待ってますよ」
茜『はい、ありがとうございます!もうすぐ着きますから!』
そう言うと茜は電話を切る
茜からの連絡に安堵した絵麻は、店で待つことにする
店内で話そうと思い、紅茶のお湯を沸かす
絵麻(話って何かしら?もしかして土曜日の事とか…?)
ワクワクしながら茜を待つ
ところが
バァンッ!
絵麻「え!?」
突然、店の扉が勢い良く倒れ込んだのだ
金具も外れ、壊れてしまった
入り口前に、人影がある
絵麻「だ、誰…?」
炎「…森口絵麻…だな?」
そこにいたのは、中国剣を抜いた炎だった