真アゲハ ~第19話 森口 絵麻6~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

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「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。



時間が過ぎて、午後19時になった

日奈子「ね~ぇ、茜さぁ~ん…」

アパートで日奈子が、猫なで声で茜にすり寄ってきた
何かを察したのか、茜はすぐ答えた

茜「いけません」

日奈子「まだ何も言ってないじゃん!」

茜「だいたい分かりますよ。もしかして、“休日に遊びに行っても良いか?”ですか?」

日奈子「う…正解です…(・・;」

的中され、日奈子はビクッとなる
だが茜の答えは変わらない

茜「日奈子様、もうすぐ中間テストが近いのですよ?それなのに遊びに行ってる場合じゃ無いでしょう?只でさえ成績は良くないのに」

日奈子「ち、千咲に誘われたんだよ!土曜日に名古屋製菓専門学校に行かないか?って!」

茜「え?どうしてですか?」

日奈子「千咲のお姉ちゃんの友達がその専門学校生で、作品を展示するから見に来て欲しいって!あと、色んなパティシエ達が、その日限定でケーキも出すって言うから…!」

茜「明らかに後者が目的なんですね、ダメです」

日奈子「えぇ~…でもどうせ探偵事務所に依頼来てるんでしょ?警備もやることになるかもだし…」

茜「その事ですが、心配ありませんよ?栗栖様に中間テストのご報告をしたところ、1週間はテスト勉強に励んで欲しいと言うことで、しばらくはアルバイトはお休みになりました。今度の土曜日もお休みして良いそうです」

日奈子「え!なんでそんなことするの!?」

茜「日奈子様、貴方は探偵以前に学生でしょう?学生の本業はお勉強ですよ。それに中間テストは平均75点以上じゃないと赤点だそうじゃないですか。追試をする事になったらどうするんです?最悪夏休み中も補習になるかもしれないんですよ?」

日奈子「う…っ、分かったよ…」

茜「分かりましたら、お風呂に入ってきてください」

茜に強く懇願してもダメだと分かった日奈子は、風呂へと向かった
フゥ…とため息をつき、茜は夕飯の片付けを続ける

茜(ケーキを出す…か。そう言えば絵麻さんもケーキを出すのでしょうか?その日限定で…?)

“ハーメルンの笛吹き男”からの脅迫状が届き、心配になって専門学校に行ったのだが、絵麻とは話すことは出来なかった

絵麻『もし私に何か用なら今日の夜お話出来ます。お店で待ってますので来てください。』

茜(お断りはしましたけど…もしかしたら、お店で待っていたり…?)

昼間は「大丈夫」の一言だけで片付けてしまった茜だが、思い出してみると、上手く伝わらなかったかもしれない
もしかすると、店で待っているかもしれない

茜(…行った方が良いですよね?日奈子様には申し訳ありませんが…)

不安になった茜は、日奈子に書き置きを残して、アパートを出て行った





甘利「お疲れ様でした」

名古屋製菓専門学校の入り口から甘利が出てきた
手には荷物を持っており、今から帰るところだ

城塚「甘利くん、遅くまで残ってもらってすまなかったね」

甘利「いえいえ、明日と明後日のコンテストのためですから!結果、楽しみにしてますね!」

城塚「うん、入賞してるといいね」

国生「甘利芽衣華さん、ですか?」

そこに愛知県警の国生が現れた
甘利に用があるため、ここに来たのだ

国生「愛知県警の国生です。お話があるのですがよろしいですか?」

甘利「警察の方…?」

城塚「一体何のご用ですか?」

突然の警察に驚き、警戒するが、国生は失踪事件の話をする
ほとんどの被害者が『HAPPY!Bombom!』を訪れている事を知って、甘利に事情を聞こうとして、ここに現れたのだ

甘利「…確かにその事件は私も新聞を読んでて分かりますよ?でも、うちの店を疑っているんですか?」

国生「ですが…被害者が出ているのは事実です」

城塚「証拠はあるんですか?甘利くん達が事件に関係していると言う証拠は?」

国生「それは…まだ…」

城塚「でしたら疑わないでください。甘利くんは今とても大事な時なんです。もういいでしょう」

甘利「し、城塚先生…」

甘利を庇いながら、城塚もその場を離れる
「参ったな…」と言う表情をして、国生は頭を掻く

浅川「……」

入り口の様子を、愛知県洋菓子協会会長の浅川は、静かに見ていたのだった





絵麻「…よし、今日の仕込みはここまで」

絵麻は自身の店に戻り、ドイツのケーキを仕込んでいた
これらは土曜日に出すケーキの分だ
仕込みを終わらせ、店の片付けを手早く終わらせた彼女は、コックコートを脱いで普段着になる

絵麻(茜ヶ久保さん、来るかなと思ったけど…やっぱり断ったって事で良かったのかしらね。連絡先交換しておけば良かったわ…)

その時、店の電話が鳴った
絵麻は受話器を取る

絵麻「はい、ドイツのケーキ『Traum』です。本日の営業は…」

茜『あ!絵麻さん!良かったです!繋がって…!』

絵麻「あ、茜ヶ久保さん?」

電話の相手は茜からだった
個人の連絡先は分からなくても、店のホームページから電話番号を調べて、かけてきたみたいだ

茜『すみません、お店に伺う話を思い出していたのですが…お店にいますか?』

絵麻「えぇ、丁度仕事も終わりましたので待ってますよ」

茜『はい、ありがとうございます!もうすぐ着きますから!』

そう言うと茜は電話を切る
茜からの連絡に安堵した絵麻は、店で待つことにする
店内で話そうと思い、紅茶のお湯を沸かす

絵麻(話って何かしら?もしかして土曜日の事とか…?)

ワクワクしながら茜を待つ
ところが

バァンッ!

絵麻「え!?」

突然、店の扉が勢い良く倒れ込んだのだ
金具も外れ、壊れてしまった
入り口前に、人影がある

絵麻「だ、誰…?」

炎「…森口絵麻…だな?」

そこにいたのは、中国剣を抜いた炎だった