新アゲハ ~第70話 リブラ9~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

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「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。



15年前、イタリアのミラノへ修学旅行中のバスが途中のモンブラン山で事故が発生した
フランスの高校生1クラスを乗せたバスが崖から墜落したのだ
正面から崖に落ちたバスは大きく凹み、フロントガラスが粉々に割れた
そして他のガラスも割れて、立っているかの様な状態になった

フェリックス「う……ううっ……」

フェリックスが目を覚ますと、頭の上から赤い液体が流れていた
鉄の匂いがする
見ると、同じクラスの生徒の死体があった

フェリックス「う、うわっ!」

この時、閉じ込めていた昔の記憶を思い出してしまった
目の前で血が飛び出す光景、子供達のたくさんの死体、まさにゾディアックの研究施設と同じだ
昔の記憶をフラッシュバッグしてしまい、フェリックスは吐きそうになる
すぐ外に出ようと、人1人が出れる窓を見つけ、外へ上半身を出す
その時だった

ゴゴゴゴ…!

フェリックス「!」

フェリックスが上半身をバスから出してしまったため、バランスが崩れてバスが傾いてしまった
急に動きだし、このまま倒れてしまえば鋭い岩の下敷きだ

フェリックス「っ…!」

フェリックスが目をつぶったその時だった

バッ!

フェリックス「え!?」

ヘレナ「逃げて!」

フェリックスの後ろの首をヘレナが掴んだ
ヘレナはこの時、“まだ”生きていた
そして自分とフェリックスの位置を入れ替え、自分がバスの外へ身体を出す

フェリックス「!やめっ…!」

ガシャーンッ!
グシャッ!

フェリックス「ー!」

バスが横転し、フェリックスが再びバスの中で跳ねてしまった
その結果、足を骨折してしまった
足に痛みが出来るが、それどころではない
目の前でヘレナが死んだ
横転したバスがヘレナを下敷きに鋭い岩がヘレナの身体を貫通し、挟み撃ちで潰されてしまった
彼女の血がフェリックスにかかる

フェリックス「う……うわぁぁぁあっ!」

一気にたくさんの友達を亡くしてしまい、フェリックスは絶望する
骨折した足を使って、上手く移動しながら、バスの非常口を開け、外に出た
這いずりながら、潰れたヘレナを見る
腹部と胸部を潰され、息をしていない
腹部に岩が貫いているんだろう、血が流れている

フェリックス「ヘレナ…!」

何故自分はここまで不幸なんだろう
5年前に誘拐され、酷い人体実験を受けられ、味覚を狂わせられ、祖父も死んで、友人達を失った
何も悪いことなんてしていないのに、何故ここまで酷い思いをしなければならないのか…

……フワッ

フェリックス「…?」

ふと、フェリックスの鼻に何やら香りがついた
嗅いだこともない匂いで、表現は出来ないが、何故かよだれが出てくる
どこから匂いが流れてくるのか分からない
だがこの香りは、すぐそばからだ

フェリックス「!……え?」

それは、死んだヘレナからだった
ヘレナから妙な香りが漂う
何故こんな香りが出て来ているのか分からない

だがこれは、思いっきりかぶり付きたい程の香りだ
まるで、目の前に大きな丸焼きの骨付き肉があるような感じだ

フェリックス「……ゴクッ…!」

大きく唾を飲み込むフェリックス
目の前にあるのがヘレナの死体だと分かっていても、フェリックスは這って近付く
そして

……ガブッ!

フェリックスは、ヘレナの顔に思いっきりかぶり付いた
頬の肉は柔らかいため、強く引っ張るように食いちぎる
ブシャッ!と血しぶきが制服にかかるが、フェリックスは頬の肉を食べた

初めて、人間の肉を食べたのだ

フェリックス「…………うまい。」

初めて食べた人間の肉は、美味かった
ゾディアックの人体実験で味覚が狂ったかと思ったが、人間の肉だけは旨味を感じられた
久し振りに旨味を感じ、さらに肉にかぶり付く

こんなに人間の肉が旨いとは思わなかった

3日後、救助隊が現れた
到着した時、フェリックスは肉を食べるのを止めていた
人間の肉を食べていた事を知られたら、色々警察に聞かれるのが面倒だと思ったからだ
だが幸いにも、救助隊が到着した時には、山の動物達がヘレナの顔を食べていた
最初はフェリックスが食べていたが、この動物達が食べたと思われ、足を骨折しているフェリックスへの疑いは消えた
ヘレナの方は、フェリックスが顔の半分を食べてしまって、頬の肉が無くなり、歯茎がむき出しになっている状態だ

フェリックス(……ありがとうヘレナ、おかげで“助かった”…!)

ヘレナには感謝をした
人体実験のせいで今まで食べた肉は旨味を感じられなかったが、人肉は旨味を感じる物だと分かった
それに食べたおかげでこうして生きている
あの時助けてくれなかったら、今頃どうなっていたか分からない

フランスに帰ってきたフェリックスは、人肉について研究をし出した
どんな肉が旨いのか?病気にならないのかを図書館で調べて勉強し、実際に女性を殺して食べたのだ
あの人肉を研究するためなら、人殺しをしても構わなかった
どの部位が食べられるのか?どんな調理法が向いているのか?
実際に解体もして、調理して、肉の旨味が分かるようになってきた

だがそれでも、人肉以外の肉はまだ旨味が分からないため、人前での外食では魚を食べるようにした
そして誰も見ていないところで人肉を食べた

人肉はもちろん、調理の研究もしたいと思って、フェリックスはこの事をきっかけに、シェフになることを決めたのだ