「要するに、僕等は死んでもいいと、そう言っているんだよあの団体は」
冷たい鉄の扉に背を預け、君は吐き捨てるように言う。赤いネクタイが、強風に煽らればたばたと君の胸元で暴れていた。
俺の目の前に広がる世界は、色濃い灰色をしている。重苦しくのしかかる曇天は世界の色を奪い、モノクロ写真よりも尚色の無い世界を形成していた。耳元には吹き荒れる風の轟音が鳴り響き、音が聞き取りづらい。だが、君の声は妙にはっきりと、俺の耳に届いていた。
「普段『僕等のため』となんだかんだ言いながら強制と束縛を強いる癖に、こういう状況となると彼等は……いや、彼女等はと言う方が良いか。ともかくあの団体はこういう状況となると僕等を外に出したがる。こんな強風の中では何が起こるかわからない。もしかしたらトタンが飛んでくるかもしれないし、木が倒れるかもしれない。その中僕等を外に出す。これはきっと僕等に死ねといいたいんだろう。ならばここで死んでやってもいいと思うんだ、僕は」
腕を組み、目の前の曇天を君は睨みつける。黒く、少し長めの髪で縁どられた整った顔は決意の色を浮かべていて、その瞳は目の前にある曇天を睨みつけている。濡れた白いワイシャツが、君の白い肌を透かしていた。
「……要するに、何が言いたいんだお前は」
「くたばれ、PTA。だよ」
吐き捨てられた言葉に、苦笑せざるを得ない。「まったくその通りだな」と相槌を打てば、俺は濡れた髪を軽くかきあげた。
「PTAはなんだかんだと叫び僕等のためを謳うが、僕等のために何をすべきかなんてわかっちゃいないんだ。だからやる気のない教員たちと共に僕等の『個性』を『異端』と呼び平らに均す。一般論を強く信じ僕らの主張を無視する。PTAはモンスターペアレントが団体化したただの脅威でしかない。僕等の自由で喜びに満ちた青春時代を邪魔する、ただの敵だ」
君はゆっくりと歩を進める。屋根の下から身を躍らせ、『バケツをひっくり返したような』なんていう常用句では言い表しきれないほどの雨粒と風を一身に浴びた。微かな遮りさえもない強風にその小さな体を吹き飛ばされそうになりながら、君は俺を振り返った。
「だから僕はここに宣言する。――――PTAを皆殺しだ」
「…………とんでもないことを言うな、お前は」
俺は呆れかえってそう言った。だが、君の表情は決意の色に満ちていて、誇らしそうに輝いている。君は強気に笑うと、「これはもう決めたことなんだ」とはっきり言い放った。
「強制と束縛。それこそが少年たちを非行と犯罪に駆り立てるのだと、PTAに思い知らせてやるのだよ。その証拠に、僕は文学作品やクラシック音楽ばかりを好み、成績だって優秀だ。それは君だって同じ。そう、君と僕とでこの犯罪を完成させれば、PTAだって考え直すはずなのだ。僕等はそろそろ声高らかに主張し、この手に再び取り戻すべきなのだ」
君は後ろを振り向くと、曇天に向かって両手を広げる。そして、耳元に吹き付ける風の轟音にも、アスファルトを打つ雨音にも負けないほどのはっきりとした声で言った。
「自由に満ち輝いた、僕等の青春を!!」
君は俺の方を再び振り向く。その笑顔は、先ほどまでの表情をは打って変わって、輝かしいばかりの無邪気な笑顔だった。だから、俺は何も言えなくなる。
授業の終わりを告げるチャイムが、風の音にかき消されながら、耳に届いた。