「知恵は知識に勝る」
どのくらい前のことか、もうすっかり忘れてしまったけど、とにかくキャベツを作らなくてはならなくなった。
相手の希望は800玉(笑)。僕がギリギリできるのは200玉。
そもそも無肥料無農薬栽培で、納品に耐えられるキャベツを数百作るなど無茶もいいところである。
まずは低窒素なのか結球しない。つまりキャベツの姿にはならず葉牡丹のように広がる。芯まで青く、硬くて調理に向かない。
せっかく結球しかけても、青虫の餌食になり可食分が無くなる。調理中に、いつ何時青虫に出会うか分からない品質では、安心して納品などできない。
正直、数十玉の出荷なら難しくはない。しかし800玉となると、農薬肥料に頼らなければ無理だろうと当時は思った。
契約書は交わしていないが、約束は約束。どう考えても50個出来ればいいかなと思われる現状を憂いて、畑で寝泊まりする決意をした。青虫退治のためにである。
人は追い詰められると、パニックになり目の前の物が全く見えなくなるか、もしくは唐突に知恵が生まれるもので、当時の僕には知恵が生まれた。
その知恵とは、蝶と蛾ではテリトリー争いをするのではないかということ(笑)。
何故そう思ったかと言うと、蝶の幼虫と蛾の幼虫では、キャベツの食べる場所が違っているのを、観察していて気がついたから。
蝶の幼虫である大きめの青虫は外葉の青い部分をよく食べている。ところが蛾の幼虫は成長点である内葉をムシャムシャと食べている。
もしかして、キャベツを枯らすのは蝶の幼虫ではなく蛾の幼虫ではなかろうかと気づく。
蝶と蛾にテリトリーがあるとするなら、蝶の幼虫を残しておけば、蛾の幼虫からキャベツを守れる可能性はある。
そんなことは普通思いつかないと思うが、必死だった僕はそんな妄想をしたのである。
虫を研究している人に質問したところ、蝶によっては占有行動を取ると教えられ、モンシロチョウやモンキチョウがそうかは分からないが、とりあえず蝶の幼虫を外葉に1、2匹残すという暴挙に出てみた。
答えは直ぐには出なかったが、実際に収穫期になって驚いた。
蝶の幼虫を残したキャベツは、外葉はボロボロだが、中葉は虫食いはほとんど無く、綺麗に巻かれていたのである。
いや、そんなに明確に結果が出たわけでもないが、少なくとも蝶と蛾にはテリトリーらしきものがあり、また、蝶の幼虫はある程度育ったキャベツの芯は食わない。(小さな苗は除く)
なるほど、面白いものだ。そんなことはどんな専門書にも書いてはいないし、農業界でも非常識な結論だろう。だが、僕は確実にそれを経験した。
残念ながらその年は百玉程度しか収穫できなかったが、方法が分かればなんとかなるもので、翌年はそこそこ約束を守ることができた。
さて、長々とキャベツの虫の経験を書いたが、要は「知恵は知識に勝る(パスカルの言葉)」という話である。
困難にぶつかった時、知識があれば乗り越えられることは多い。それは間違いないのだが、知識がなくても知恵を出せばなんとかなる。
僕が無肥料栽培講師として成り立つのは知識が豊富だからと言われることがあるが、そうではない。
僕は常に知恵を大事にするように心がけている。「もしかしてこう言うことじゃないかな、であればこうしたらどうだろうか」と考えて実行する。
その時は全く知識などないが、突拍子もないアイデアであっても思いついたら実行してみれば、それがやがて知識にもなるのである。
生きていると色んな困難に出会うが、経験と知識では乗り越えられない問題であっても、知恵で乗り越えようとすればなんとかなる。
そのための訓練として、僕は難なくこなせる仕事は早めに卒業し、次のステップに向かうよう心がけている。
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