まばらなバスターミナルを抜けながらコートの襟を立てた。コンビニの脇にたむろする風邪ひき予備軍に口元を緩め、薄紫に染まる空に目をやる。何の変哲もない日常に何の変哲もない空が映る。
世界は意外と公平なのかもしれない。
明日僕が風邪を引いたら、やはり不公平ってことなのだろう。
役割をほぼ終えた商店街の坂を下りながら君がいた風景を思い出す。賑やかとまではいかなくてもそれなりの活気があって、休日はいつも君と食べ歩きをした。ソースのいらないコロッケとかチョコの分量が若干少なめなクレープとか見切り品を「アウトレット」と称して売るたこ焼きとか。
あの頃も何の変哲もない日常で何の変哲もない空だった。
なのにどうして今と違って映るのか?
「さよなら」
空耳に振り返ると坂道に伸びる一つの影。
なるほど、と思いながら僕は家路に急ぐ。
寂しげな影が微かに揺れるのがどうにもいたたまれない。公平な感傷の中、何の変哲もない夜へダイブする。
(完)