ショートショート「アナタハダレニモアイサレナイ」 | 「空虚ノスタルジア」

「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詞や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。

 

 

 

 

 夕闇の雑踏で掌が踊る。誰かの温度を待つような踊りは空振りを続け、記憶の中の君が下卑た笑みを零す。

 

「アナタハダレニモアイサレナイ」

 

 君の呪いは確かだった。ふらりふらりとよろけながら雑音の群れを物憂げに眺める。たったひとつの嘘が招いた代償。この浮浪の日々が延々と続くのなら、それは死より過酷で凄惨だ。立ち籠る夕闇は君の飛沫。ああ、僕は何という罪を犯してしまったのか。生温かい風が責め立てるようにシャツの中を擦り抜ける。次から次へと罵声を浴びせる。

 

「アナタハダレニモアイサレナイ」

 

 君に靡かれ、僕は闇色に染まった雲を見上げた。分かってるさ、そんなこと。君以外に僕を愛する人は居ない。そして、君以外に僕が愛せる人は居ない。

 

「ボクハダレモアイセナイ」

 

 

(完)

 

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村