長編小説「思春期白書」 60~純粋と不純~ | 「空虚ノスタルジア」

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告白。

 

噂話の中じゃこの学校内だけでも日常茶飯事的に行われているようだが、実際はそんな軽々しいものでは…って、何を分かったようなことをほざいてんだ…ロクに経験も無い僕が。

 

 

「なあ、昨日の返事訊かせてくれねぇか?」

「だから無理っすよ。1人でしてください」

「おいおい、やる前から諦めちまうのか?どうせ砕けるなら当たって砕けようぜ」

 

どうして僕まで「砕ける」のが前提なのかはともかく、正直、断り切れない優柔不断な部分があった。逃げ道と言われればそれまでだが、ある「可能性」が燃え尽きに抗う線香花火のように体内に燻っていたからだ。

 

「同性愛者」じゃなく「両性愛者」

 

確か、男も女も恋愛対象になるのは「バイセクシャル」という通称だ。「ホモ」や「ゲイ」も一体どこで覚えたのか、恐らくテレビの影響だとは思うが、学校じゃ習わずとも僕らは無意識的に様々な言葉を習得している。「ホモ」に比べりゃ「ゲイ」や「バイセクシャル」の認知度は低いが、まあ、それは置いとくとして、一晩考えた結果、キシモンの提案もあながち悪くない気がした。

 

大人の世界じゃ「前向きな検討」、まさにそれだ。

 

実際、ユリちゃんと居る時間は幸せの絶頂と言っても過言では無く、ドリカムの「LOVE LOVE LOVE」をカラオケで披露した際はドキドキする場面もあった。別に僕に向けたわけじゃなくても「アイシテル」などと非日常的な大人な歌詞、隣のキシモンなんか、鼻の下を伸ばして間抜け面を見せたし、公平においては完全に俯いていた。歌詞の世界じゃありきたりなフレーズかもしれないが、アップテンポならともかく、この曲の場合はユリちゃん自身さえ頬を赤く染めていた。けど、そういうところも可愛らしい。これが桑原だったら座布団でも投げたくなるだろう。

 

 

「っていうか、どうやって告白するつもりなんですか?放課後に呼び出すとか?」

「…どうすりゃいいと思う?」

「知りませんよ」

 

 

何のプランも無いのかよ…呆れ果てながらトイレを出ると、「つめてーな」とキシモンのボヤキが背中を伝う。大柄なくせに小心者、モジモジする辺りは鳥肌が立つほど気持ち悪い。

 

 

「随分と長かったわね。何してたの?」

「先輩が腹痛いって言うから」

 

「お、おい…」と狼狽えるキシモンをよそに僕はしれっと大富豪に加わった。映画館のときの仕返し+足止め料だ。

 

「お腹痛いの?保健室行く?」

「べ、別に大丈夫だって」

 

告白を決意したせいか、クリリンに対するあまりにぎこちない態度、それは痛快な光景だった。こちらは今まで相当な迷惑を被っているのだ。少しは手綱を握らせてもらってもバチはあたらない。

 

 

「ほい、革命」

「マジかー!瀬川くん、カード運強過ぎ」

「へへん」

 

しかし、どちらの意味においても遊んでばかりじゃいられない。

 

「ダメだー。私、パス」

 

斜め前の悔しさを滲ませた表情をトランプ越しに眺め、自分に問い掛ける。

 

 

僕は一体どうしたいのか?

 

彼女と付き合いたいのか?

 

ヒロやいっくんに対する感情は恋じゃないのか?

 

移ろう想いなら伝えてはいけないんじゃないのか?

 

 

まだ腹の具合を心配され頭を掻くキシモンに妙な羨望が湧いた。彼はクリリンだけを見ており、その想いにブレなどというものは一切無い。いや…それが「普通」なんだろうけど、恋かどうかすら見極められない僕からすれば、その一途さは実に純粋だ。もしかしたら、意地悪な部分を見せたのは下卑た嫉妬かもしれない。

 

 

「先輩、さっきはすみませんでした」

「いいけど、誰にもチクんなよ。俺、本気なんだからな」

 

「じゃあな」と手を振り渡り廊下を行くキシモンの背中は図体より大きく映り、僕は断罪されたように思えた。彼の提案に乗り、ユリちゃんに告白すれば、それが広まり板橋の耳に入れば…そのような打算が渦巻いたのは確かだ。こんな不純な動機を抱えたまま告白に踏み切れない。

 

諦めるしか無いと思った…

 

 

「ねえ、放課後さ、家に来ない?」

 

5時限目の終わり、公平の何気ない誘いの傍に板橋が居た。それは偶然に過ぎないものだが、背筋を伝う恐怖感に「ごめん、今日はちょっと…」と、僕は思わず言葉を濁した。

 

堕落。

 

底辺の更なる底辺に墜ちた。まさか底があるなんて知らなかったけど、僕の思惑も言動も逃避も…全部が最低だ。寂しげに微笑む公平に罪悪感を抱きながら、席に戻る板橋に神経を注ぐ。このような日々が今後も続くのかと思えば、やはり気は抜けない。

 

 

だけど、所詮は脆い盾。僕の抵抗は逆に板橋の格好の餌食となった。

堕落した僕に相応しい。そんな風にはとてもじゃないが割り切れないほどの日常が待ち受けていたのだ。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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