そんなある日,私に「名誉」挽回できるチャンスが訪れた。
幼稚園の学芸会で劇をやることになったのである。
母は,さぞかし当たり前のことのように言った。
「どうせやるなら主役やないと。ほかはいてもいなくても一緒やで」
母の言うことは正しいかどうかはわからなかった。
ただ、主役になれば母はほめてくれるに違いない……それだけは確かだった。
母にほめられるチャンスだ!
たったそれだけで,私は主役をやってみることにした。
本当に,それだけで。
主人公の役決めで私が手を挙げた時,先生を含む,その場にいた全ての人が驚きの目で私を見た。
先生は何度も「本当にこの役でいいの?」と訊いてきた。
「うん,これがいいねん!」
「・・・でもこの役は・・・男の子の方がぴったりだと思うんやけどなぁ」
先生がそう言うのも無理はなかった。
その劇は『おむすびころりん』――主役といえば、おじいさん役だったのだ。
結局,最後まで自分の意志を曲げることなく私はおじいさん役を快く引き受けた。
主役は4人いたが,私以外の3人はもちろん男の子がやることとなった。
その日,私は幸せいっぱいで家に帰った。
これでお母さんにほめてもらえるんだ!!!
…しかしそんな希望は、母の一言によって打ち砕かれた。
「お前女やろ? なんでおじいさん役なんか・・・」
いつもと違ったのは,母は怒るのではなく爆笑し始めたのだ。
げらげら笑う母を見て,私は怒りが込み上げてきた。
なんで笑うの?
私,お母さんの言う通り,主役になったんだよ・・・なのになんでほめてくれないの?
悔しくて悲しくて仕方なかった。
この気持ちをいったいどこにぶつければいいのかわからなかった。
しばらく泣いたあと,私は自分の本当の気持ちに気づいた。
仲のいい子たちは,りす役やうさぎ役に決まって,それが羨ましかったのだ。
それでも私は主役を選んだ。
母に喜んでもらえるのなら,本当に何でもよかった。
これが私の「認められたがり屋」の人生の幕開けだった。
劇は無事成功し,私はいろんな人から主役なりにほめられた。
しかし数日後,先生は母にこう言った。
「ありめちゃん,ほかの子よりちょっと変わったところがあるみたいですね」
悪びれた様子もなく,本当にさりげなくだった。
先生はどれだけ大変なことを口にしたのかわかっていないだろう。
結果的に,私は母に嫌な思いをさせてしまった。