小さな喜び | Moose Nose ~スウェーデンから日本へ~

Moose Nose ~スウェーデンから日本へ~

8年のスウェーデン生活を終え、家族で日本に引っ越して来ました。

先日、相方とトラムに乗っていたときのこと。
↓トラム


途中の駅で、缶ビールを片手に、酔っ払いの学生集団が乗ってきた。
基本トラムの中では飲食禁止。
特にアルコールなんてもってのほか。
運転手がその光景を見つければ、強制的に降ろされてしまう。
たまに、勇気ある乗客が酔っ払いを追い出す光景も見られる。
そのときは必ず、お互い怒鳴り合いの喧嘩にはなるのだが・・・。
そんな酔っ払いたちは追い出されずにアルコールを飲むために、必ず運転手の死角の席に座る。


その学生集団もまた運転手の死角に座ったのであった。
そこがまさしく私たちが座っていた席周辺。
ビールのニオイが車両に漂う。
乗客たちは怪訝な顔で学生たちを見ていたが、
追い出そうと立ち上がる人たちもいない。
そう、基本的にこの行為は危ないからである。
日本でもマナーの悪さを注意したら殺された、という事件が相次いでいるが、
ここでも同じである。
相手は何を持っているかもわからない。
基本的には見て見ぬフリをすることが賢明。


そんなこんなで
「どこの国もこーゆう人たちはいるもんなんだなぁ・・・。」
と思いながら、相方と色々おしゃべりしていると、
どこからともなく、


スムマセン。


と声が。


ん?日本語?気のせいかな?
と思い、気にせず相方と会話を続けてた。
するとまたしても


スムマセン。


ふと前を見ると、酔っ払い集団の一人が私の方を見ている。
やばい!!絡まれた!?!?
と一瞬焦った私と相方。
しかし彼はこう続けた。

ニホゴ(日本語)ワ、ワ、ワ、ワ、ワカリ・・・わかり、ます・・・か?


はい、わかります
(^o^;)
と、答えると、彼はまたこう続けた。


「ワタシは、Joel(仮名)デス。ニホゴ(日本語)、す、スコシ、ハナセマス。」


おぉ~~~~~~
(*^▽^*)
すごいね~!
と誉めると、彼は照れながらまた続けた。


「ワ、ワタシ、ガ、ガ、ガク・・・shit!!(くそ!!)
(英語で)studentってなんて言うんだっけ?
え?ガク・・・何?
あ~、そうそうガクセ(学生)!!
(再び日本語で)ガクセです。ニホゴ(日本語)べ、べ、べ、damn!!(くそ!!)
あ、それそれ、ベンキョ(勉強)!!
ベンキョ、シテマス。」


再び私からの拍手喝采。
Joel(仮名)再び照れる。
そして言い訳。
「普段はもっとマシなんだ!!今は酔っぱらってるから、記憶がぶっ飛んでる。」

「じゃあ、酔っぱらってなければもうちょっと日本語話せてたの?」
と私。
「うん、そうだと思う~
(*^▽^*)」
とJoel(仮名)。


「君を見て、日本人っぽいな~と思ったから、話しかけてみたんだ。
京都にも行ったことがあって~。」
と無邪気に話す彼。
そしてその横に、つまらなさそうにしている酔っ払いの彼女らしき女・・・。
しまいには彼に相手にされないので怒って席を立ってしまった。
私が彼氏付でなければ、この女に殺されていたかもしれない・・・。


私たちの駅に着くまでJoel(仮名)とずっと話していた。
その間わずか5分ほど。
十分には会話を楽しめなかったが、彼は私に小さな喜びをくれた。


「アジア人」とひとくくりにされる。
「ニーハオ」
と勝手に中国人だと決めつけられる。
アジア人なんてどれも一緒でしょ、というような態度。
日本でもオーストラリアでも味合わなかった、「凝視」されることへの不快感。
いつもここで味わってきた。
いつもストレスを感じていた。
最近ではそれにストレスを感じるのはバカバカしくなっていたため、


はいはい、一緒ですよ。
私はアジア人ですよ、それが何か?


と開き直っていた。


そんな中、彼は私を
「日本人っぽいな~」
と思ってくれたのである。
私のnationalityは何なのか、考えてくれたのである。
そして私と話したいと思ってくれた、日本人として。
私は嬉しかった。
それがすごく嬉しかった。
何の望みもなかったこの地であった。

人と接するのも避けるようになってしまった。
しかし、彼と話したことによって、
ここも捨てたもんじゃないかな・・・と思えたのだ。


彼にとってこんな小さな一言が、なんでもない一言が、
私の心を喜びに満たしてくれた。
Joel(仮名)。
実際の名前は忘れてしまった・・・。
しかし、彼には心から感謝している。
たった5分の間ではあったが、忘れられないひと時を過ごすことができた。


彼は今も頑張って日本語を勉強しているだろうか。
願わくば、酔っぱらっていない彼と、マシであろう日本語でまた一緒に話してみたい。
そしてさらに、彼がこれ以上トラム内や公共の場でビールを飲むことのない大人になることも、願わずにはいられないのであった。