♪♪
…あ、喉乾いた。
「てて~」
キッチンへ歩きながら呼ぶ。
「ん~?」
ちょっと遠くから返事が聞こえる。
キッチンを覗くとてては、コップに氷を入れてるところだった。
「どした?」
言いながら僕を見て、にこって笑う。
「喉乾いた」
「あ~、やっぱり。何飲む?あ、俺、コーヒーは飲まないから無いよ」
「だからいつもお紅茶なの?」
「ご名答」
嬉しそうに笑うなぁ。
てての笑顔って、相手や周りも笑顔にさせる気がする。
てての横に立って冷蔵庫を開けると、水のペットボトルを出す。
蓋を捻って飲もうとしたら、腕を掴まれた。
「?」
顔を見ると
「コップに氷入れてあるんだから、入れて飲め」
だって。
「でも…」
そう言った俺の視線を、てても辿る。
「あぁ、コップが違い過ぎるって?」
うんうん、と頷くと。
てては自分と僕のコップを持って、ソファーへ行く。
僕の前には繊細緻密なカットも美しいガラスのコップ。
てての前には普通のシンプルな、なんてことない、ただのガラスのコップ。
「ぐぅのはお客用のだからな」
「江戸切子?」
「そ。さすがぐぅ」
腐っても直参の若殿様だな、とてては笑った。
「自分だってそうなくせに」
「まぁね」
ちょっと面倒だけどな、と微妙な顔をする。
「で、てては何飲もうとしてんの?」
「俺?あ、入れるの忘れた」
「ハハハ、ばっかでぇ~~!」
「るさいなー」
「いいよいいよ、俺が持ってくるから。何がいい?」
立ち上がろうとするのを制す。
「ぐぅと一緒~」
「じゃ、水だよ?」
「うん~」
なんか急にてて、子供っぽくなった気がするんだけど。気のせいかなぁ。
ペットボトルを持ってきて注いであげると、すぐ手を伸ばした。
「ててってさぁ」
「うん?」
向かいからコップ越しに、ちろっと視線寄越すのやめてくんないかなぁ。
見られて妙に落ち着かないんですけど(笑)
「本当は普段、そうやって話すの?」
「そうやって?あ、語尾伸ばすのかってこと?」
「うん」
「いや、違うよ」
てては笑うとコップを置いた。
あれ?なんかまたいつものててに戻ってる…気が、する。
さっきのは何だったのかな。一瞬、絶対子供に戻ってた感じするんだけどな~。
「ぐぅだって、家っていうか屋敷で、家臣たちの前でそんなふうには言わないでしょ?」
「もちろん」
「同じじゃん。じゃあ、ぐぅは俺の家臣なの?」
いいや、と首を振る。
「うん。お前は家臣じゃなくて、『俺の弟』だろ?」
そういうとニヤッと笑って立ち上がる。
「朝ごはんどうする?まさか俺以外の人間が泊まるなんてありえないから、
コーンフレークしかないんだけど。あと、インスタントのカップ麺」
「ん~。とりあえず僕はまだいいや。だって今日、休むから」
「そっか。じゃ、あとでお腹すいたらキッチン、適当に物色してていいから」
「物色!?」
「じゃ、盗み食い?(笑)」
「なんで『盗み』なんだよ!(笑)」
「だって俺のものを俺がいない間に勝手に食べるんだから、似たようなもんじゃん」
「ちがっ!聞こえに語弊があるよ。ハハハ、てて可笑しい」
「そう?お前もたいがいに可笑しいよ」
「いーえ、僕はいたって普通ですぅ~」
わざと口を尖らせると、てては「可愛いなぁ!」って言って、手を叩いて笑った。
「てて?」
「ん?」
「そろそろパジャマから着替えて、ちょっと仕事する?」
「うん。6時だもんね。さ、俺は今日は何を着るかな~。あ、ぐぅは俺の部屋着でいい?」
ててはクローゼットの方へ消えた。
僕も着替えなきゃ。
(つづく)