ててはまた椅子を動かして僕を座らせると、自分も執務机の椅子に座る。

すると、「あ、こっち来て」と、僕を横に来させた。

 

「ぐぅ、パソコンできる?」

「うん、一応」

「ブラインドタッチは?」

「できるよ」

「マジで!?」

「うん。僕ピアノ弾けるから、指は動くんだよ」

 

すんごく驚いてるててへ、ちょっとドヤ顔しちゃう。

 

「へぇ~!俺と一緒じゃん!」

「そうなの!?」

「そ。俺もピアノ弾ける~♪」

 

てても得意気な顔で、驚いてる僕を見た。

 

「…っ」

 

か、可愛すぎて死にそう…☆

これ、漫画とかだと鼻血吹き出して、仰け反って倒れるやつじゃないの?(笑)

 

心臓が跳ね上がるのを、必死に瞬きしてこらえる。

 

僕は立ってて、右隣に、座ってるスーツ姿のててを見下ろして。

この超綺麗で超可愛い顔を至近距離で見れるって…

ほんとにマジで、魂抜けそう。

 

気がついたらてての顎に右手をやって、人差し指でちょいちょい☆ってしてて、

我ながら自分の行動にびっくりする。

しかもてても嬉しそうな顔して顎上げちゃってるし…。

 

てても僕も「これでいい」のかよっ!(叫)

あ~もうほんと、何してんの僕達(汗)

 

「今日はパソコン使うの?」

「うん」

「どのパソコン?あ、これ?」

「そうそう」

 

てての大きい執務机にはパソコンが2台並んでて、僕はその左側を使うらしい。

 

「椅子持ってこなきゃ」

 

机を回ろうとしたら、「いや、ここで平気だから」って言うんだけど、どういうこと?

 

てては立ち上がると、座ってた椅子の左下に手をやった。

そしてそのまま左に手を動かすと…

 

「!?」

 

下から椅子の部分が引き出され、引き出した部分の下に折りたたまれてる脚を出し、

支えると、あっというまに長い椅子が登場した。

 

てての左に1人半は座れる感じかな。

つまり、てての椅子は実は2.5人用の椅子になるってことか~!

 

で、てては左手でそこをぽんぽん、って叩いた。

素直に座りながら、一応聞いてみる。

 

「これ、座ったら脚折れて転ぶとかじゃないよね」

「んなわけあるか。毎日俺が使ってんのに」

「あ、そっか」

「そうだよ。これ特注でさ。隣にずれればいいだけだから、楽なんだよ」

 

待てよ?

…ってことは、ててと一つの椅子で一緒に仕事するってことだよね。

なによりも、近い。同じ椅子でやってんだから当然だけど、いくらなんでも近すぎるだろ。

 

「あ、これどかすね」

 

てては自分の左側のひじかけを上にあげた。

 

「いいの?」

「あぁ。いい、いい。これあるとぐぅが狭いでしょ」

「ありがと」

 

とは言ったものの、実は困ってるんだよ俺は~!

なぜなら、ひじ掛けという仕切りが無くなり、体がくっつくことおびただしいからだ。

 

今日はグレーのスーツかぁ。

ほんと、何着ても似合い過ぎるんじゃないの?

 

隣でファイルを数冊、俺の目の前に積んでるのを黙って見る。

あんまり見るとバレるから、さりげなく、さりげなく。

できてるかはわかんないけど(笑)

 

「じゃ、今日のお昼までに、このファイルの最初からここまで、入力しておいてくれる?」

「いいよ~」

「で、終わったら俺の会社のほうのアドレスにメールで送って」

「わかった。…てては今、何すんの?」

「俺?俺は俺でやることあるよ」

 

だろうね。

 

ファイルを開いて僕は目が点になった。

 

「ね、ね、てて?」

「…」

 

およっ?無視?

 

今度は右手でてての左腕を軽く叩くけど、無反応。

しょうがない、奥の手使うか。

 

「ててぇ~☆」

「ふっ(吹き出した)。なに?」

 

今度は瞬時に反応して、吹き出しながらこっち見た。

やっぱね~。これで反応しなかったら、てては体調悪いだろうからな。

 

「なんでこんなに字が小さくてびっしりなの?(泣)

 虫眼鏡じゃなきゃ見えないぐらい、小さいじゃん」

「知らない(笑)それ作ったの俺じゃないし。そこまで小さくないじゃん。

 …でも確かに凄く小さいな。目こらさないと判読しにくいっていうか…。

 俺はそんな小さくして人になんか渡さないよ」

「うん」

「…なに?そのおめめは(笑)」

 

僕はやりたくなくて、きゅるきゅるおめめをしてみた。

 

「ダメだよ、そんな目ぇしても(笑)」

「えぇ~」

「えーじゃない。俺だって好きでやってもらうんじゃないんだから」

「そうなの?」

「そうだよ。俺はお前が楽しく笑ってりゃいいんだからさ。

 こんなことさせたくないに決まってんじゃん」

「……」

 

このひとさ…。今、自分が何言ったかわかってんのかな…。

 

「楽しく笑ってるって、いつどこで?」

「いつどこで?いつも、俺の前か隣に決まってんじゃん」

「そっかぁ」

「?」

 

そっかぁとは言ったものの、あの言葉ならお決まりというか、セットみたいなもんだからね。

予想通りの答え。もし違ったら、むしろそっちのほうが驚きっていう。

 

ま、一応、ね。あくまでも確認のため。

そう、確認のために聞いただけ。

わかっちゃいたけど、一応、確認して聞きました…ってね。

 

そして、それが例えわかってたとしても、そうじゃなかったとしても…

ちゃんと答えてくれるててと、その優しさが好きだなぁ。

 

それから暫くお互い、やることに没頭した。

 

それにしてもまぁ、ほんっとーに、俺のやつは字がちっこすぎる!

誰だよこれ書いた奴!ふざけんな!見るほうの身にもなれ!!

冗談じゃない。見えるけど、目が血走るっての。

 

1ページ終わったから、う~ん、と伸びをする。

そのとき、ちら、と隣人の鼻が目に入って…

ついそのまま顔を見た。

そして自然と視線は唇に流れるわけで。

今朝っていうか、昨夜からついさっきまでのことを思い出してしまい、唾をのむ。

 

はぁ~ってちょっと溜息ついたら、さすがに気付かれた。

 

「疲れた?」

「ちょっとね」

「字、小さいもんね。休憩してして」

「うん」

 

広くて大きいソファーにもたれると気持ちよくて、そのまま横になる。

 

「なに、お前寝たの(笑)」

「うん」

 

声に目を開けると、ててがかがんで僕の顔を覗き込んでいた。

 

「ありゃ~。目疲れたか。ちょっと寝たらいいかもね」

「うん」

 

ててが立ち上がろうとしてやめたので不思議に思うと、「この甘えんぼ」って言われた。

なんだと思ったら、僕の手がてての服を掴んでいた。

 

「まぁ、まだ7時ぐらいだからいいか」

 

そういうとしゃがんで僕の頬を軽く摘まみ、頭をぽんぽんってすると立ち上がった。

と思ったらちょっとして、ふわっと何か体にかけられた。毛布を持ってきてくれたらしい。

 

「ありがと」

「どういたしまして。疲れさせてごめんな」

 

僕の頭を数回撫でると戻っていった。

 

 

 

 

(続く)