~ 社長@年上視点 ~

 

今日は小さいホールを借りてあって、初めて全社員へ「意思伝達ツールとしてのぬいぐるみの使い方とシステム」について伝達する。

 

後方座席の社員たちのために大きい液晶画面を2つ用意して、見えるようにした。

一番後ろの席に座って画面を見てみたけど、ちゃんと大きく見えるから大丈夫だろう。

 

俺と秘書殿、幹部数名はステージ上の、板で前面を覆った長机に着席している。

そしてこれについては一番わかっている人間なので、秘書殿がメインで進行させていく。

 

社員たちの様子を見ていると、どうも好感触なようで安心する。

 

休憩を挟んで、ウサギと再びホールへの廊下を歩いていたら、「キャ~~~~!!!!」っていう黄色い声たちと、

「うぉおおおお~~~!!!!」っていう男どもの声が聞こえてきて俺たちは顔を見合わせる。

 

「え?うちってこんなに女性社員いたっけ?」

「社長のくせに把握してないの!?」

「俺はほら、すんごく優秀な秘書殿がいるから」

「もう!」

 

って言いながら、お前嬉しそうだし、耳赤くなっちゃったな~(笑)

「耳赤いよ」って小声で言ったら、背中を思いっきりぶっ叩かれた。

 

「痛っ!(笑)」

 

笑いながら痛いふりしたら、「社長!室長殿!ちょうどお時間です」とちょうど幹部が現れ、

真面目な顔でステージへ戻った。

 

 

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翌日、出社すると、俺とウサギの前がバッ!と社員たちが左右に分かれ、目の前に誰もいなくなったんでビックリする。

 

「皆どうした?十戒じゃあるまいし」と聞いたら、「いえいえ、とんでもございません」しか言わない。

 

そしてエレベーターまで彼らはぞろぞろと俺たちの後ろについてきた。

 

(なんか皆ニヤニヤしてる気がするんだけど、気のせいかな)

 

内心首をかしげる。

 

エレベーターが来たので乗ると、どういうわけか俺とウサギしか乗らない。

いいのかな、と思ったけど誰も乗ろうとしないので、閉じるボタンを押す。

扉が閉まるなり、

 

「キャ~~~~~!!!!」

「ギャ~~~~~!!!!」

「うぉぉぉぉぉ~~~!!」

 

っていうのが聞こえてきて、2人で困惑する。

 

「ね、ね、昨日もあんな声してなかった?」

「うん、してたよね」

「どうしたの?」

「それは俺がみんなに聞きたいよ。社長は意味がわかりません(笑)」

「俺も(笑)」

「秘書殿がわからないなら、俺もわかんない可能性が高いよな」

「だねぇ」

 

社長室に入って椅子に座ってパソコンをつけてると、頬がヒヤッとする。

 

「冷たっ!」

「ふふふ」

「小部屋の冷蔵庫の水?」

「そう。ちゃんと冷たいね」

「うん」

 

もう1本も机に置いてくれたから、手に取ってあいつを見る。

俺を見た瞬間にほいっ!と投げたら、パシッてちゃんと掴んだ。

 

「びっくりしたぁ(笑)」

「ハハ、ほんと、運動神経というか反射神経いいねぇ。おまえも飲みな」

「うん」

 

お昼近くになって、社長室に幹部たちが突然やってきた。

いつもの連中なので、あいかわらず騒がしいことこの上ない(笑)

 

「急にどうした、何があった?」

 

俺の前に全員、雁首揃えて立ってるのはなかなかだ。

 

「どうしたもこうしたもありませんって!」

「そうですよ!これ、誰が書いたんですか!?」

「社長は何かご存知ですか?」

「室長殿はご存知ですか?」

 

くちぐちに喚くし、室長殿はとか言ってるから、ウサギを隣に来させる。

 

「俺や彼に何か関係あることなのか?」

 

この様子は絶対そうなんだろうけど、一応ね。

 

そしたら、ハイフン1番が何かをバインダーから取り出して俺の前に置いた。

 

「これは?」

 

こっち2人は思わず覗き込む。

 

「社内報?」

 

顔を上げると、詐欺野郎が頷く。

 

「臨時も臨時、昨日のことが載ってます!」

 

ハイフン1番が手で社内報をそっと示した。

 

「とにかく、開いて中を見てみてください」

 

「?」

 

ウサギと顔を見合わせると、右手で開いた。

中は昨日のホールのことが書いてあって、そのときの写真なども載っている。

 

「これがどうした」

 

拍子抜けして声がやや、きつめになる。

 

表紙と見開き両ページは普通。最後に背表紙というか、ひっくり返して後ろのページを見た。

すると、ページ上部に昨日のホールでの画面の写真が載っていて、その下の部分いっぱいになにか一覧があるから、

よく読むと……

 

≪画面に映し出された内容全部≫

 

社長は秘書の言うことしか「まともには」考えない(聞いてはいる)。

社長は秘書にしか会社の「全ての鍵&パスワード」を任せない。

社長は同じ内容でも「秘書の言い方」にしか反応しない。

社長は秘書がいないときは会議を開かない。

社長は会議で秘書を自分より後、最後に座らせる。

社長は秘書をちょっとでも蔑ろにしたり、秘書の前を歩く社員を許さない。

社長は秘書に舌打ちした幹部を「忘れた頃、一時的に左遷」したことがある。

社長は秘書をじろじろ見た他社の社長に意趣返しをしたことがある。

社長は秘書の発言を遮った社員を理詰めで叱責したことがある。

社長は秘書に色目を使った女性社員たちは「すぐ」出向させて、2度と戻さない。

社長は秘書に敬意を払わない相手だとわかれば、契約はしない。

社長は社長室に秘書しか入れない秘密の小部屋を設けている(使ったことはない)。

 

結論:社長は秘書を警護&守ることで、不審者や異分子から社員と会社をも護っている。

 

 

「……」

 

読んだ瞬間、眩暈しそうな気がした。

……が、黙ってるわけにもいかないので、無理やり口を開く。

 

「これはいったいなんだ?」

 

どうにか声を出すと、幹部たちも「それは俺たちも同じです」と声を揃える。

 

「お二人なら、なにかご存知なんじゃないかと思って」

「本人だからな」

「はい」

「……なんでこれが昨日、画面に映し出されてるんだ?」

「それは俺たちにもわかりません」

 

隣人に手を伸ばしたらお腹のあたりだったが、かまわず軽く叩く。

 

「秘書殿は昨日、進行をしてくれてたけど?知らない?」

「知ってたら瞬時に社長に言ってますよ」

「あぁ、そうだよな」

 

手をパン、と叩いて空気を変え、また幹部たちに聞く。

 

「これを書いた人間は?」

「わかりません」

「これを見て知ってる人間は?」

「おそらく全ての社員かと」

「この内容に、お前さんたちが見て、引っかかったり問題がありそうなところはあるか?」

「最後の部分は、いわゆる休憩室のことでしょうか?」

「そうだ。社長と秘書が皆と同じ休憩室を使おうとしたら、皆がビックリしたり遠慮したりして、

 気楽に使えなくなるだろうと思ってな」

「では、むしろ明文化して、準社則として徹底周知したほうがいい内容だと思います」

「そうか?」

「はい」

 

はぁ~~~~っと長い溜息をつく。

 

「そうか。……秘書殿」

「はい」

「これ、加筆修正は必要だと思う?」

「ありがたくも『私に敬意を払わない連中とは契約しない』というところを、

 先日のエロ社長どものような場合もありますし、もう少し加筆したほうがいい気がします」

「そうだな」

 

すると、幹部たちはとたんに笑って喜んだ。

 

「あぁ~!あのバカジジイ!」

「たしかに。それは極めて大事な加筆部分ですよ!」

 

うん。俺も大賛成だ。

 

「よし、じゃあこの文章たちは秘書殿にもう少し加筆修正してもらってから、明文化しよう」

 

そう言ったら皆、拍手して大喜びだ。

 

「いえ~い!」

「よっしゃ、そうこなくっちゃ!!」

「俺たちの室長殿は俺たちが守るぞ!」

「相変わらず室長殿派は声がうるせぇなあ」

「社長派が大人しいだけだろ」

「ふん、俺たちは社長を見習って沈着冷静でいるんだ。大人しいのではなく、大人なのだよ」

「なんだよ、うちの室長殿は子供だってのか?」

「なんでそうなるんだ。子供はお前たちだろ?室長殿は落ち着いてるからお前たちとは違う」

「社長のサイン貰ったことがあるからって、偉そうにすんな」

「してないって。欲しいならお願いしてみたらいいじゃん」

「え、でも、社長がいつも隣にいるから無理だって」

「それを言うなら、社長だっていつも隣に室長殿がいるけど?」

「うちの室長殿は神様みたいなもんだから無理!」

「現人神?」

「そうそう!お前いいこと言うなぁ!」

「この単細胞が」

「あんだと?」

 

(お前たち……!)

 

俺は立ち上がりながら、バン!と机に両手をつく。

 

「いい加減にしろ!おまえたち!」

「しゃ、社長」

「うるさくして申し訳ありません」

「しかも『うちの』とはなんだ!『こいつは俺の』で、俺はこいつのなんだよっ!」

 

思わず怒鳴った瞬間、なぜか全員、シーンとなった。

 

「?」

 

どうしたのかと皆を見渡すと、隣で秘書殿が真っ赤になってるのが見えた。

 

「社長のバカ!!」

「え?」

「なに言ってんだよ~~~っ!!!」

 

秘書殿は俺のネクタイを思いっきり引っ張ってきた。

 

「なにってなに?」

「今、自分が何言ったかわかってないの!?」

「????」

 

意味わかんない顔をして黙って頷くと、

 

「あとで覚えてなさいっ!!!」

「え?」

 

秘書殿は叫ぶなり奥へ消えてしまった。

 

「あいつどうしたの?」

 

幹部たちに聞くと、全員が俺を憐れむような目で見てくる。

 

「な、なに?」

 

いささか警戒してたじろぐと、

 

「今ですね……。社長、思いっきり大声で『こいつは俺ので、俺はこいつのなんだよっ!』って怒鳴ったんですよ」

 

と言われ、頭が真っ白になる。

 

「な、なんだって!?」

「ひとまず今日は奥でお休みください」

「お呼びの連絡が来るまで、誰も邪魔しませんので」

「まずは室長殿のご機嫌を直してあげてください」

「我が社員一同、なんだかんだ言ってもお二人の大ファンですから、大丈夫です」

「そうです。お二人が大事にしているものや好きなものは、私たちも全員同じです」

「今後、警備体制も含め、社内システムの全てを見直してみます」

「しっかり全員でお二人と会社を護るから大丈夫です!」

「お二人が仲良しでいて下さらないと、むしろ我々社員一同悲しみますので、末永く仲良しでいてください」

「それこそが、我が社の礎ですからね!お二人は全員の自慢の社長たちですから」

「そうそう。全社員の誇りなんです!だからひとまず、室長殿のご機嫌を直してあげてください」

「照れてるだけだと思うので、大丈夫ですよ~」

 

じゃあ、社長頑張って!と彼らはウィンクしたり握りこぶししたりして、帰っていった。

 

 

 

 

 

 

(続く)