~ ウサギ@年下視点 ~

 

あいつバカなの!?家じゃないんだよ!

なんであの連中の前で言うんだよ~!

 

(そりゃ、内容は嬉しいけどさぁ)

 

ベッドに仰向けにひっくり返る。

 

「はぁ~っ」

 

溜息もでるってもんだ。

 

『俺はこいつのなんだよっ!』

 

ただでさえ社内報の記事で理解できてないのに、追い打ちが酷すぎるだろ(笑)

しかも完全に無意識で心の声が口から出ちゃうとか、彼の癖ではあるけど、よりにもよってあのタイミングで、しかもあの内容じゃなくてもいいってやつ。

 

俺はこいつの、おれはこいつの、オレハコイツノ、俺は恋募る……いや、それは違う(笑)

つまり、彼は俺の、かれはおれの、カレハオレノ、彼は吾恋之……音は似てるけど違う(笑)

 

目を閉じてても、頭の中で彼のその声がぐるぐる回ってる。

 

「俺の、だから、やっぱり、彼は吾の恋……が一番、音も字も合うな」

「そうだね」

「うん」

 

えっ!?

 

目を開けたら彼が、枕元に立って俺を上から見ていた。

 

「そういう知識、凄いねおまえは」

「そう?自分だってよく知ってるじゃん」

「まぁね」

 

俺が起き上がると、彼はベッドに座って俺の足を膝にのせた。

 

なんか言いたいんだけどなぁ。

でも、思わず、それも無意識に出た言葉だし、内容も内容だから言いにくくて困る。

しかも事実だしね。

 

彼も何か言いたそうだけど、言わないねぇ。

 

きっと今、俺たちは同じようなことを考えて思ってるんだろう。

何か言いたいけど、何から何を、どう言えばいいのかわからない。

 

いろいろ考えてるうちに時間が過ぎていくのが、部屋の秒針の音でわかる。

 

「運転、どうしよう」

 

当たり障りないけど、大事なこと。

いつも送迎の運転は俺がしてるからね。

 

「運転手呼ぶ?」

「無駄に途中下車しないといけないから、一気に帰れるぶん、タクシーのが無難だけどね」

「そうだねぇ」

「うん。……それにしても、ここ、家じゃないからさぁ」

「そりゃまぁ(笑)」

 

彼は苦笑したけど

 

「何もないから」

「そう?水もお菓子もカップ麺もあるじゃん」

 

って、俺の言葉に不思議そうな顔をしたから、一言だけ説明する。

 

「ん~、浮袋がもしかしたら無いかもしれないから」

「魚の?もしかしたらってことは、あるかもしれないってこと?」

「うん」

「ハンドクリームなら、俺の机にいつもあるよ?」

「それは俺の机の引き出しにもある」

「ハハハ。そうだよね」

 

でもお互いにそれは、そこまで重要じゃない段階なのもわかってる。

 

なんとなくそこで言葉が途切れた。

そのかわり、彼は膝の上で手をつないできた。

 

(ねぇ、ねぇ)

 

彼の手をちょっとゆっくりめに2回ぎゅってすると。

 

(な・あ・に?)

 

同じように3回握り返されて、チラッと俺へ視線を投げたのがわかった。

 

「ん~」

 

俺はちょっと考えた挙句、

 

(か・え・り・た・い)

 

5回握ると一瞬、ドアへ目をやった。

 

「んじゃ、そうしよっか」

 

彼はそう言いながら片手でスマホを出すと何か打ち、ちょっとすると頷いて。

そして手をつないだまま立ち上がると、そのまま俺の手をひいて社長室へ戻った。

 

パソコンをシャットダウンして帰り支度をしながら、どうやって帰ろうか考える。

 

「途中下車も面倒だし、だからってタクシー呼ぶのも変だし、運転、俺がしようか?」

 

あ、彼も考えてたんだ。

 

「社長が運転してるのを誰かに見られたら、変に見えるんじゃない?」

 

そうは言ったけど、俺の本心は違うんだけどね。

 

「ほんとに?」

「え?」

 

ソファーから声がして顔を上げると、支度を終えたらしく、彼は鞄を持って座ってる。

 

「いつもなら、俺が運転するのを嫌がる理由が『荒いからやだ』なのに」

「……」

 

なんでそこに気付くんだよ。

まぁ、気付くような人だから好きなんだけど。

 

「……運転してる姿を今日は、あんまり目にしたくないと思って」

 

別に悪いことや失礼なことを言ってるわけじゃないのに、

なんとなく言葉が良くない気がして視線を落としてしまう。

 

「今日は?」

「……うん……」

 

言いにくそうにしてる俺に何か感じ取ったのか、彼は視線をちょっと泳がせた。

 

「じゃあ、後ろに座ってなよ。今日はその感じだと俺が運転したほうが良さそうだからね」

「わかった」

「よし。じゃあ、帰ろう!でも、早く帰るのはもう、今日だけだからね」

「うん……」

「おまえ~、なんかどうした元気ないよ?」

「うん……」

「ほら、行くよ!」

 

俺の顔を一瞬覗き込んで頭ヨシヨシ!ってすると、彼はドアのほうへ行ってしまった。

 

 

車の後部座席に座ると、運転してる彼が微妙によく見える。

 

『俺はこいつのなんだよっ!』か。

喋らないで静かに座ってると、さっきの彼の声が頭を駆け巡る。

 

あそこで言う!?

って言うか、普通、それは言わないよね。「こいつは俺のもの」は言ってもさ。

ドラマでも自分の所属先を言ってるのは見たことない。

 

俺が彼に所属してるのはちっともかまわない。

頭のてっぺんからつま先まで、どうぞどうぞって感じ(笑)

彼はそれに足る人だからね。

 

対して俺はどうだろうか。

彼はそう思ってくれてるとしても、それに足るほどの人間なのか、ちょっと自分ではわからない。

 

体格や器用不器用はどうしようもないとしても、能力でもなんでも、彼のほうが優れている。

 

一度見たり聞いたことは忘れないし、よく覚えてるし、頭の回転は速すぎるほど。

言い換えたりうまい言い方するのも上手だし、博識で、文章力もある。

沈着冷静だし、忍耐力もあるし、観察力や注意力も高く、気遣いもできる。

決断力もあるし、正義感が強いにも関わらず柔軟性も高く、誠実で優しくて、遊び心もある。

体だって、筋や筋肉が出てない、なめらかな手足をしてるけど、実は物凄い力持ちだし……。

鼻も俺より高くてまっすぐで、男らしい顔つきをしている。ハンサムすぎて羨ましい。

 

(……そこいくと、俺はどうなのかなぁ……)

 

なんか自分がここにいるのが気恥ずかしくて、彼が見えないように、運転席の後ろにずれて座りなおす。

 

窓に寄り掛かると、なんかいつもと座り心地が違う気がして思い出す。

 

「ね、ね、信号で止まったら、助手席のクッションちょうだい」

「はいよ~。あ、ちょっと遠回りして帰る?」

「なんか用あるの?」

「無いけどさ。たまには違う景色もいいんじゃない?」

「いいねぇ~!」

 

手を伸ばしてひょいと後ろへ出してくれる。

 

「ありがと。あ、毛布も?」

 

一緒にでてきた、小さめの畳まれた毛布にビックリする。

 

「うん。ときどき俺が使ってるのだけど、膝やお腹にかけときな」

「うん~」

 

クッションを敷いて毛布を広げたら案外大きくて、膝から顔にまで届く。

 

(ふわふわで、おっつすると気持ちいいなぁ♪)

 

と喜んだのはいいけど、お腹にかけたとき、少し後悔した。

 

「……」

 

ふわっと彼の香りがして、いろいろさっきまでの思いと相まって、

ちょっと心が切なくなっちゃったから……。

 

 

 

 

 

 

(続く)