前方後円墳は古墳時代に盛んに築かれましたが、その形の意味にはいまだ謎が多く残されています。特に「鍵穴形」がいつ頃から人々に意識され、用いられるようになったのかは明確ではありません。古墳時代に突如出現したのか、それ以前から形の原型が意識されていたのか、議論が続いています。
鍵穴形は、〇と△の結合、太陽と山の重なり、壺の形、イスラエルの「マナの壺」、ギリシャ文字のΩ(オメガ)とΑ(アルファ)の結合など、さまざまな象徴と関連づけて考えられています。私はこの形に、死者の安寧、再生、復活の願いが込められていると捉えています。
大仙古墳の前方後円墳はこの種の中ではとびぬけて規模が大きく築造には緻密な計算と意匠を表現したと私は考えています。
前方後円墳の成立
初期の墳墓は円墳が主流で、古墳時代初期(3世紀後半頃)にも大小さまざまな円墳が築かれました。やがて円墳の周濠に残された「陸橋部分」が大型化し、円墳と結合して前方部を形成。円(天)と方(地)の結合は宇宙秩序を体現し、王権の象徴となりました。私は初期の前方後円墳は「〇━」形から始まりこの形は霊魂、神霊、魂を表し、やがて「〇に末広がり」が加わり、鍵穴形へと変化したと考えています。
同心円と三角形の象徴
一般的には後円部を円墳と説明しますが、私は「同心円墳」と捉えています。古墳時代の壁画には同心円が多く描かれており、この形が意識的に用いられたと考えられます。方形は三角形を象徴すると考えられます。壁画には〇(同心円)と△の組み合わせが多く描かれているからです。
同心円はトーラス構造を表し、エネルギーの循環を象徴します。△はそのトーラスの中心に流れ込む力を表現していると考えられます。日暈や卵の黄身と白身の関係のように、同心円は再生・復活を示し、△は新しい生命やエネルギーが生まれ出る場を象徴しているのです。
トーラス
地球の磁力線
壺の象徴
世界的に壺や甕から神や生命が生まれるという思想があります。
• 古代エジプト:天空神ヌトは水瓶を頭上に載せ、オシリスは壺の形で表現されました
• イスラエル:マナの壺
• 中国:壺中天の思想では壺の中に天地や仙人の世界が広がるとされました
• ギリシャ:パンドラの箱は本来壺でした
• 日本:甕主日子神、天之甕主神など甕にまつわる神名があり、甕は神霊の力を宿す器とされました
これらの思想から、前方後円墳は「壺」を表現していると考えられます。つまり同心円と三角形の結合で壺を象徴し、生命の根源である水を間接的に表現しているのです。
縄文からの継承
秋田県大湯環状列石の野中堂・万座環状列石は、同心円のストーンサークルに「ハ」の字形が付属しています。これは出入口と考えられ、前方後円墳の鍵穴形に似ています。東北から北陸にかけて出土する複式炉も同様で、丸い土器の下方に「ハ」の字形の石組みがあり、祭祀用であった可能性があります。
ストーンサークル
複式炉
日暈(ひがさ)
この形は日暈に由来すると考えられます。日暈は雨の前兆であり、水と太陽の融合を示すものです。生命は水と太陽なくして存続できず、この形は壺として表現されたのでしょう。
三段構造と結び
前方後円墳は三段築成が多く見られます。これは構造的安定のためだけでなく、「天・地・人」「父・母・子」「過去・現在・未来」といった三位一体の象徴を表すものです。三三九度の盃や正月の鏡餅とも共鳴し、重ねることで「結び」を表現しています。
円墳と方形墳の接合部には「造出(つくりだし)」と呼ばれる張り出しがあります。壺の取っ手と解釈されることもありますが、私は蝶結びを象徴すると考えています。縄文土器の縄目文様や水引など、日本文化は古来より結びを重視してきました。
イシス
アヌビス
古代エジプトでもイシスやオシリス、アヌビスの神像に「ティエト」という結び紐が表され、冥界と現世を結ぶ重要な象徴とされました。ファラオの棺にも添えられたこの結びは、再生・復活・変容を祈るものです。日本の前方後円墳の造出(つくりだし)も同様に、蝶結びの形と垂れた紐がハの形を表現し死者の復活を願ったと考えられます。
結論
前方後円墳は単なる墓ではなく、同心円トーラスと三角形のエネルギー表現、壺、結びといった象徴を重ね合わせ、宇宙秩序と生命の再生を表現した巨大な祭祀的モニュメントであると考えられます。
※ 写真はegiptologyさんの投稿、ウィキぺェデアからお借りしました。









