SE120を入手したのでレビューします。 赤道儀とのセットなども販売されていますが、今回は「鏡筒のみ」を購入しました。

主な付属品としては、アイピース PL10mm、PL25mm、9X50ファインダー、2インチ天頂ミラーが付いています。アイピース2つとファインダーはシンタ社(*1)の同等品と思われるものが、それぞれ9,000円、9,000円、10,000円ぐらいで売られています。2インチ天頂ミラーもしっかりしたつくりで、単独で購入すると7,000円はします。また、鏡筒と天頂ミラーそれぞれに2インチ(50.8mm)→アメリカンサイズ(31.7mm)変換アダプターが付いています(2個もいらないですが)。この変換アダプターも別途買うと3,000円ぐらいはします。付属品だけでモトがとれそうなぐらい、非常に高コスパなセット内容です。特に、9X50ファインダーは視野が広くて探しやすく、このクラスの鏡筒の付属品としては贅沢すぎるのではと思ってしまいます。 

SE120は電視観望で活用することを目的に購入しましたが、短焦点アクロマートなので、一般には「低倍率での眼視観望用」となります(*2)。そこで今回は、眼視における実力をレビューをしたいと思います。 

まずは、付属品のアイピース PL10mm、PL25mmを使って眼視観望してみます。 
PL10mm(60倍)で土星を見てみました。もう土星の見ごろは終わっており、日の入り後すぐに西の空に沈みかけの土星を見ました。薄曇りでシーイングも最悪でしたが、環があるのがはっきりわかりました。条件が良い時なら、カッシーニの間隙も見えるのでは?と思います。次に、PL25mm(24倍)でオリオン大星雲を見てみました。120㎜と大口径のおかげか、羽を広げた鳥ような形がよく見えました。

次に、性能の限界を確認すべく、最高倍率と最低倍率で観望してみます。

最高倍率は、口径の2倍といわれており、この鏡筒は口径120mmなので、240倍が最高倍率となります。SE120の焦点距離が600mmなので、600÷240=2.5より、240倍で観望するには、焦点距離2.5mmのアイピースを使うことになります。 
最低倍率は、射出瞳径が6mmとなる倍率(*3)が目安となります。鏡筒の焦点距離600mm、F値5、射出瞳径6mmより、600÷(5×6)=20 となり、20倍が最低倍率です。この倍率にするには、600÷20=30で、焦点距離30mmのアイピースを使います。 

まとめると以下の通りです。 

 ・最高倍率:240倍、アイピース焦点距離2.5mm 
 ・最低倍率:20倍、アイピース焦点距離30mm 

計算してみて思ったのですが、一般的に入手しやすい焦点距離のアイピース(だいたい2.5mm~40mm)の範囲内で、最低倍率から最高倍率までを出すことができます。最高倍率を出すためにバローレンズを使用したり、最低倍率を出すためにフォーカルレデューサーを使用したりということがよくありますが、この鏡筒の場合はそれらの補助レンズが不要です。これは、口径120mm、焦点距離600mmというバランスからくるものであり、この鏡筒の利点の一つといえそうです。 

では、最高倍率、最低倍率に対応できるアイピースを準備します。 

最高倍率用のアイピースは、以前から持っていたビクセンのSLV 2.5mmを使います。その他の選択肢はあまりなく、あえて挙げるならビクセンのHR2.4mmやHR1.6mmがあります(過剰倍率となってしまいますが、過剰倍率でも観望できることが売りの商品ですので大丈夫?かと思います)。 

最低倍率用のアイピースはビクセンのNLVW 30mmを準備しました。低倍率の観望では、視野が広い方が迫力を感じられるため、できるだけ視野角が大きいアイピースを選択したいところです。アメリカンサイズ(31.7mm径)のアイピースだと見かけ視野50度程度が限界ですが、2インチサイズ(50.8mm径)だと70度前後まで広がります。SE120はせっかく2インチアイピースに対応しているので、2インチを選択しました。適度な長焦点の2インチアイピースとしては、NLVWの他に、テレビュー Nagler Tyupe5 31mm、Masuyama 32mm、国際光器 PHOTON 32mm 、SVBONY SV136 34mmがあります(*4)。 

↓今回使ったアイピース、左からNLVW 30mm、ビクセンSLV 2.5mmとSE120に付属のアイピース(PL25mm、PL10mm) 


電視観望と違って、画像を載せることができませんが、観望した結果を記載します。いつも通り、自宅の庭からの観望ですので、光害が強く、あまり良い環境ではありません。 

まずは最高倍率、「SE120+SLV 2.5mm」の観望結果です。高倍率が要求されるのは、惑星や月のクレーターの観望です。短焦点なので高倍率は不得意な鏡筒ですが、土星は付属のPL10mmより大きく見えて、細部が確認できそうな雰囲気ではありますが・・・先ほどと同じくシーイングが悪いため何とも言えません。雲の隙間から月のクレーターを観察すると、小さなクレーターもはっきり見えます。色収差も月のエッジの部分では若干見えますが、真ん中部分では分からないです。 

つぎに最低倍率、「SE120+NLVW 30mm」の観望結果です。低倍率では、ディープスカイ(リッチフィールド)における星雲や星団が観望対象となります。と、ここで想定外のことがありまして、NLVWは焦点が合いませんでした。天頂プリズム有りだとドローチューブを縮めても光路が長すぎて合焦せず、逆に天頂プリズムを外すとドローチューブを最大まで伸ばしても短すぎて合焦しません(*5)。2インチ延長筒が必要で、すぐには試せないため、急遽、手元にあった「SVBONY SV136 34mm」を使いました。

↓SVBONY SV136 34mmだったら、付属の天頂ミラーとの組み合わせで合焦しました

このアイピースは視野角が大きいのですが、周辺部の像が少し歪みます。でも、2インチアイピースのおかげで実現できた実視界4.1度(*6)の広がりのある景色はやはり迫力があります。短焦点鏡筒の本領発揮といったところで、宇宙空間に浮いて星を眺めているような錯覚に陥ります。低倍率なので色収差もありあません。裸眼ではあまり多くの星が見えない自宅の庭ですが、望遠鏡を通すとこんなにたくさんの星があったのだと改めて気付かされます(*7)(*8)。オリオン大星雲もしっかりと確認できます。 

ということで、眼視に関しては十分楽しめる鏡筒なのではないかと思います。今後、この鏡筒を電視観望で活用していきたいと思います。



*1 SE120はケンコーブランドで販売されていますが、製造は台湾のシンタ社(Synta Technology)です(OEM品)。ケンコーのウェブサイトによると、日本で最終チューンアップして出荷しているとのことです。 

*2 望遠鏡の倍率は「鏡筒の焦点距離÷アイピースの焦点距離」なので、焦点距離の短いSE120はディープスカイなどを低倍率で観望するのに向いています。惑星や月を高倍率で観望したい場合は、焦点距離の長い「SE120L」を選択するべきです。また、アクロマートレンズですので色収差(特に青ハロ)が出ます。色収差は焦点距離が短いほど悪化するので、短焦点であるこの鏡筒は不利です。カメラを使った観望は眼視よりも青ハロの影響を受けやすいので、この鏡筒はカメラを使った観望には向きません。眼視向けといえます。 

*3 暗闇での人の瞳の直径は約6mmです。直径6mmの大きさしか光を受け止められないため、射出瞳径が6mm以上の場合、一度に瞳の中に光が入ってきませんので、はみ出た分が無駄になってしまいます。つまり、アイピースの焦点距離を長くしていっても、射出瞳径が6mmを超えてしまうと、視野は広くなりますが、暗くなってしまいます。また、SE120は屈折望遠鏡なので関係ありませんが、対物側に遮蔽がある反射望遠鏡の場合は、射出瞳径が6mmを超えると、像の中央部に遮蔽の影が出てくるという問題も発生します。 

*4 焦点距離30mm程度の2インチアイピース一覧(価格順) 。Masuyamaは超広視野の割には安価ですし、SVBONY SV136もコスパ高いです。 

 

メーカー 品番 焦点距離 見かけ視界 実売価格
テレビュー Nagler Tyupe5 31mm 31mm 82° 91,000 
マスヤマ Masuyama 32mm 32mm 85° 35,000 
バーダープラネタリウム HYPERION-ASPHERIC 31mm 31mm 72° 27,000 
ビクセン NLVW 30mm 30mm 65° 22,000 
SVBONY SV136 34mm 72° 10,000 
国際光器 PHOTON 32mm 32mm 70° 入手不可?

 (HYPERIONはアメリカンサイズにも装着可能ですが、その場合の見かけ視野は55度です。)
 
*5 SE120はドローチューブの長さが60㎜程度、天頂ミラーの光路長が120㎜程度です。フランジバックの調整幅が天頂ミラー「なし」で0~60mm、「あり」で120~180mmなので、60~120mmの範囲にすることができません。60㎜の延長筒を用意すれば60~120mmに対応できるため、0から180mmまで隙間なく調節が可能となります。

*6 今回使ったアイピース(SVBONY SV136 34mm)の見かけ視界が72度、倍率が17.6倍なので、実視界は72÷17.6=4.1度 となります。 

*7 ディープスカイを観望する場合、淡い天体を観測することになるため、光害の少ない場所に遠征するのが一般的です。空の暗い場所に移動して観望すれば、もっとすごい光景が見られると思います。(一方で、月や惑星は明るいので光害の影響は受けにくいです。) 

*8 わざわざ望遠鏡を使って低倍率で観測する意味ってあるの?倍率が高ければ高いほど、いろんなものが見えるんじゃないの?と思われるかもしれませんが(僕も昔はそう思っていました)、低倍率だから見えるものがあります。 
瞳の直径は約6mmですが、例えば望遠鏡の対物レンズが直径60mmの場合、面積が100倍なので100倍の光を集められます。その対物レンズで集めた光が瞳に入ってくるので、望遠鏡を使うと見える星の数が増えます(裸眼では5等星程度が限界のところが、もっと暗い星まで見えるようになります)。もっと口径が大きな望遠鏡だと、星雲なども白い煙のような形で観察することができます。しかし、ここで倍率を上げてしまうと、像が暗くなっていきます。引き延ばして観察しているので、像の「大きさ」は大きくなっても「明るさ」が下がっていき、暗い天体は見えなくなってしまうのです。というわけで、低倍率での観望もおすすめです。 
(瞳の直径=7mmとしている場合もありますが、この記事では6mmで統一しています。)