電視観望においてAZ-GTiと後継機/廉価版のAZ-GTe(*1)はまさに革命的な存在だと思います。軽量コンパクト、低価格、十分な性能で電視観望が身近なものになりました。AZ-GTiの登場が、電視観望を始める大きなきっかけとなりました。
電視観望を始めて1年半、活用できそうな望遠鏡についてもいろいろ分かってきたので、AZ-GTi(またはAZ-GTe)に搭載可能な鏡筒について調査してみました。
電視観望では架台とカメラは重要ですが、鏡筒は安価なものでも結構使えます。眼視や天文写真とは異なり、はっきりクッキリした見え味を追求するというよりも、多少粗くてもライブで動画を楽しむことに重点を置くからだと思われます。僕も、たまたま持っていたAZM-90を転用して電視観望に使っています。とは言っても、良い鏡筒の方が当然良く見えると思うので、電観望用に新しいベストな鏡筒を準備したいと思い立ったのが調査のきっかけです。
AZ-GTi/AZ-GTeの搭載可能重量は5kgです。5㎏以下という制約があるので、使用できる鏡筒は限られます。若干重量オーバーのものも含め、光学系のタイプ別に表にまとめました。予算は10万円として、おおむね10万円以下で購入できる鏡筒に限定しています。(重量は各社様々は基準で公表されているため、概算値です。アイピース、ファインダーは含まず、鏡筒バンドやアリガタは含むイメージで記載しています。)
光学系 | メーカー | 品番 | 口径 | 焦点距離 | 重量 | 実売価格 | ||
シュミットカセグレン | セレストロン | C5 | 127mm | 1250mm(F9.8 ) | 2.7kg | 88,000円 | ||
シュミットカセグレン | セレストロン | C6 | 150mm | 1500mm(F9.9) | 4.5kg | 110,000円 | ||
マクストフカセグレン | スカイウォッチャー | BKMAK127 | 127mm | 1500mm(F12) | 3.3kg | 45,000円 | ||
マクストフカセグレン | スカイウォッチャー | BKMAK150 | 150mm | 1800mm(F12) | 5.6kg | 98,000円 | ||
ニュートン反射 | スカイウォッチャー | BKP130 | 130mm | 650mm(F5) | 3.66kg | 30,000円 | ||
屈折(SD) | ビクセン | SD81S | 81mm | 625mm(F7.7) | 3.6kg | 110,000円 | ||
屈折(SD) | ビクセン | SD103S | 103mm | 795mm(F7.7) | 5.4kg | 190,000円 | ||
屈折(ED) | ビクセン | ED80Sf | 80mm | 600mm(F7.5) | 4.8kg | 90,000円 | ||
屈折(ED) | ビクセン | ED115S | 115mm | 890mm(F7.7) | 4.4kg | 240,000円 | ||
屈折(ED) | スカイウォッチャー | BKED80 | 80mm | 600mm(F7.5) | 2.47kg | 88,000円 | ||
屈折(ED) | スカイウォッチャー | EVOSTAR72EDII | 72mm | 420mm(F5.8) | 1.9kg | 47,000円 | ||
屈折(ED) | SVBONY | SV503 | 80mm | 560mm(F7) | 3.95kg | 59,000円 | ||
屈折(アクロマート) | ビクセン | A81M | 81mm | 910mm(F11.2) | 3.5kg | 52,000円 | ||
屈折(アクロマート) 屈折(アクロマート) |
ビクセン
|
A105MII SE102 |
105mm 102mm |
1000mm(F9.5) 500mm(F5) |
3.8kg 4.0kg |
85,000円 42,000円 |
||
屈折(アクロマート) | ケンコー | SE120 | 120mm | 600mm(F5) | 4.9kg | 45,000円 | ||
屈折(アクロマート) | スカイウォッチャー | BK150750 | 150mm | 750mm(F5) | 6kg | 83,000円 |
まずは、シュミットカセグレン、マクストフカセグレンです。この光学系は焦点距離が長いのが特徴で、拡大率を上げて惑星などを観望するのに最適です。一方で、高拡大率ゆえに、視野が狭くて暗いため、星雲などのディープスカイ(リッチフィールド)には不向きとなります。口径150mmだとマクストフカセグレンのBKMAK150は重量オーバーとなりますが、シュミットカセグレンのC6は4.5㎏と搭載可能な重量です。口径面でC6がベストでしょうか(少し予算オーバーですが)。一方でディープスカイ用としても活用したい場合は、焦点距離が長すぎるのでレデューサーが必要となります。アイピースにねじ込む数千円程度のレデューサーもありますが、安価なものは周辺像の収差が大きくなるので、純正品の「CELESTRON レデューサー 0.63x SCT用」が安心です。C6にこのレデューサーを使った場合は、焦点距離が1500×0.63=945mmとなり、まだ少し長めではありますが、ぎりぎりディープスカイ用に使えるかといったところです(*2)(*3)。また、(ニュートン反射ほどではないものの)シュミットカセグレン、マクストフカセグレンともに、観望前には外気と温度順応させる必要があるので注意が必要です。
ニュートン反射は候補があまり無く、BKP130のみ挙げています。焦点距離が650㎜と短く、ディープスカイ向きです。惑星などを高倍率で楽しみたい場合は、バローレンズで焦点距離を延ばすことができます(*3)。ただ、口径130㎜はニュートン鏡としては小さく、斜鏡で遮られる分を考慮すると、集光力は屈折の口径100~110mm程度に相当すると思われます(*4)。ニュートン鏡は観望前に外気との温度順応が必要というデメリットがあるので、屈折の口径100~110mmを選んだ方が良いのではと思います。一方で、ニュートン鏡には色収差がありませんので、後述するアクロマート屈折よりも良い像が期待でき、コスパは最高です。また、BKP130は接眼部ドローチューブが金属製(頑丈なので、重量のある一眼カメラなどを接続した撮影に耐えられる)、デュアルフォーカサー付きなど良い点もあります。
次に、屈折SDです。候補としてはSD81Sしか無く、もうワンサイズ大きいSD103Sは鏡筒バンドなどを含めると重量オーバーです。SD81Sは、同じ口径80mmのED80Sf(こちらの方が安価)との違いをよく考えた上で選択する必要があります(大きな違いは、フォーカサーが大きなカメラにも耐えられるラックピニオン式か、主に眼視用のクレイフォード式かという点。電視観望では軽いカメラを使うのでクレイフォードでも大丈夫ですが、一眼カメラでの撮影も考えているならラックピニオンの方が良いです。その他、付属品などに違いがあります。また、ビクセン製品全体に共通することですが、品番末尾の「f」は海外生産を意味しており、「f」の付く品番は日本製ではありません。)。
次は、屈折ED。EDはSDよりも軽量で、ビクセン製では80mmのED80Sfに加えて115mmのED115Sまで搭載可能となります。口径重視でSDよりもEDを選択するというのもありでしょう(ただし、ここまでの値段を出すなら、タカハシのフローライトアポクロマートなどの高級機も視野に入り、もっと選択肢が広がっていきます)。80mmでは、ED80Sfの他に、スカイウォッチャーのBKED80、SVBONYのSV503があります。BKED80は日本メーカー(ビクセン)のED80Sfより少し安いだけで、あまり魅力を感じませんが・・・BKED80はデュアルフォーカサー付きで、ED80Sfはデュアルフォーカサーが無い代わりにフリップミラーが付属、という違いがあります。SV503は低価格ですが、デュアルフォーカサーがしっかり搭載されています。ただし、アイピースとファインダーが付属しません(望遠鏡も2本目以降になると、アイピースやファインダーはダブるだけなので、その分安くしてくれた方がありがたいとは思いますが)。また、ディープスカイ用と割り切って、コンパクトなEVOSTAR72EDIIも焦点距離が短く(=視野が広くて明るく)良いと思います。
最後に屈折(アクロマート)を見てみます。ビクセンのA81M、A105MIIは焦点距離が長く、ディープスカイには向きません。一方で高倍率の惑星をターゲットにするなら、もっと焦点距離が長いシュミットカセグレンやマクストフカセグレンの方が有利です。電視観望用としては少し中途半端なスペックです。ケンコーSE120は、AZ-GTに搭載可能な屈折タイプの鏡筒としては、(僕が調べた中では)最大口径になります(口径150mmのスカイウォッチャーBK150750は重量オーバーで残念ながら搭載不可)。コンパクトさを重視するなら口径102㎜のSE102が候補になります。ただし、SE120、SE102にような短焦点アクロマートは、カメラを使用する電視観望では青ハロなどの色収差が避けられません。レンズ枚数が少なくて済むアクロマートは、鏡筒が軽くなるので大口径のものが搭載可能となりますが、口径の大きさに見合った像が得られるかどうかは別問題です(*5)。
以上、重量オーバーのものを除けば、候補が14種類あります。どれにしようかな?といったところですが、僕はケンコーSE120にしました。理由は以下の通りです。
①電視観望では、惑星よりディープスカイを重視したい(=短焦点)
②惑星にもそこそこ対応できるように、できるだけ大口径にして解像度を上げ、バローレンズで拡大する(=大口径)
③庭に出てすぐに見たいので温度順応は避けたい(=屈折)
④光害のひどい自宅の庭でしか使用しないので、常にQBPフィルターを使用するつもりでありアクロマート独特の色収差は消える(=EDは不要)(*5)
人それぞれ観察したい天体や観測地の状況が違うので、ベストな選択肢は千差万別です。
僕のように光害のひどい場所でしか観望しないという人は少ないかもしれません。また、ディープスカイと惑星を1本の鏡筒で対応するのは無理があります。置き場所と費用が許せば、「惑星用にセレストロン C6、ディープスカイ用にビクセン ED80Sfの2本立て」みたいな選択が良いかもしれません。この記事がベストな鏡筒選びの手助けになればうれしいです。
*本日時点(11月6日)の情報ですが、KYOEIさんでケンコーSE120とSE102が特価で販売されています。先日注文したところ、納期は12月とのことでした。
*2 焦点距離が長いと視野角が狭くなるのでディープスカイ用には適しません→過去の記事参照
*3 焦点距離を伸ばすにはバローレンズを、縮めるにはレデューサーを使用します(参考記事)。バローレンズは2倍、3倍、5倍など種類が豊富で、安価で高性能なものがたくさんあります(参考記事)。一方、長い焦点距離を縮めるのに使うレデューサはー0.5倍程度しか種類が無い上に、安価なものを使うと極端に画質が悪くなります。バローレンズやレデューサーを使用すると必ず画質は落ちますので使わないに越したことはありませんが、使うならバローレンズの方が手軽で良いと思います。(つまり、長焦点をレデューサーで縮めるより、単焦点をバローレンズでの延長する方が有利と思います)
*4 ニュートン反射、シュミットカセグレン、マクストフカセグレンは、対物側に遮蔽物があるため、集光力が落ちます。また、レンズの透過率より、鏡の反射率の方が低いため、(増反射コートでもしない限りは)反射鏡は不利となります。これらを勘案すると、反射式の口径を屈折式と比較する場合、口径に0.8を掛けた程度が実質的な口径となります。
*5 過去の記事参照 ① ②