東京ディズニーシー内のマーメイドラグーンにおけるメイン施設ともいえるマーメイドラグーンシアター。
一年間の休止期間を経て今年4月にリニューアルし、演目は「アンダー・ザ・シー」から「キング・トリトンのコンサート」へと変わりました。
それを先日観に行ってきたのでその感想です。
けっこう辛口なので、あ~トリトンのコンサート良かった~って人はたぶん楽しい気持ち台無しになると思うんで読まないでください。
まず観てみてどうだったのか簡潔にいえば、正直ガッカリでした。
どこにどうガッカリしたのか書いていきます。
◆出演パペットが大幅に減った
旧版ではさまざまな人形といいますか、人力で動かすパペットのようなものがありました。
序盤ではヒレをはためかせて泳ぐ魚たちやフランダー。
中盤ではアゴを大きく動かして喋るウツボの2人や、関節ひとつひとつが動くアースラの両手、波打つ触手。
終盤のクライマックスではクラゲやハリセンボンなどといったいろとりどりの魚たち。
目立たない色のタイツを着た役者(つまり黒子)が動かすこれらの出演物は、単純に主役が歌って踊るだけではない、美しいミュージカルとしての完成度に貢献していました。
が、新版ではこれらの出演物というか人形の類はほとんどが完全リストラ。セバスチャンとフランダー(上空からではなくセバスチャン方式に変更されました)は生き残ってはいるものの他の魚達などの人形はいなくなることになりました。
その代わりに使われるようになったのが、シアター上空に円形に配置された鏡型のモニター。このモニターにさまざまな映像が映し出されることで賑やかさや彩りを表現する方式に変わりました。序盤では姉たちの歌う映像、終盤では原作にも出てきた演奏する魚達の映像が映り、いなくなった人形たちの分をカバーしています。
…と言いたいところなのですが、全然カバーできてねーよというのが本音です。
旧版では目の前の円柱状の空間を泳ぎまわる魚達のおかげでまさにちょっとしたミュージカルを観に来ている感があったのですが、すべてモニター映像になってしまったことにより、目の前で繰り広げられている感じは大幅に減少しました。
『人件費のかかるものは無くして、代わりに映像やプロジェクションマッピングメインにして経費削減を計る』という企業努力の一環だとの話も聞いたのですが、それならそれで全面ぐるっとモニターにするくらいのものが見たかったです。
◆アースラがトリトンになった
ご存知の通り旧版では壁から出てくる巨大人形としてワリオみたいなアースラのでかい顔がありました。顔の筋肉ひとつひとつが細かく動くその様はラスボス感たっぷりで、演出もあいまってかなりのインパクト。ある意味アリエル以上にシアターの主役でもありました。ディズニーシーのラスボスは誰かっつったらたぶん『ファンタズミック!』のマレフィセントだと思うんですが中盤の強ボスというかdisc1の最終ボスはアースラだろうくらいの迫力がありました。顔だけじゃなくて別稼動の両手と触手もありましたしね。
が、そのアースラはリニューアルに伴い綺麗さっぱりいなくなってしまい、代わりにキング・トリトンの全身人形が姿を見せるようになりました。
ものが変わること自体は決して悪いことではないし新鮮なのですが、このトリトン人形からはいまひとつアースラほどの魅力が感じられなかったというのが正直なところです。全身の人形であるせいかそこまで大きさや迫力も無いし、細やかな動きをするああいった人形はすでに『シンドバッド』にたくさんあるしで、インパクトは少なめ。別のパペットでありながら体の一部である両手や触手の効果もあったアースラと違いトリトンは人形だけで動いているので、比べてしまうとどうしてもショボく感じてしまいます。トリトンの怒りが起こす波が映像として鏡に映るなどの連動仕掛けはあるんですが、アースラの迫力に比べるといまひとつ盛り上がりません。アースラからトリトンに変わったから悪い、というのではなく、張り巡らされていた色んな仕掛けがパワーダウンしてしまったという感じです。
ただし単純に「トリトンじゃなくてアースラがよかった」と思う瞬間もあって、それはシアターではなく夜の水上ショー『ファンタズミック!』を観ている時。中盤の山場でもあるヴィランズ登場シーンにてリトルマーメイドからアースラが出演し、あの印象的な歌とドスの効いた声を披露する瞬間です。シアター旧版を観たあとの場合はこのシーンにてシアターのアースラを思い出し感動が上乗せされたりしましたが、新版を観たあとの場合は、アースラというキャラがシーに登場するのがここのみ(絵とかはありますが)となるので、非常にもったいないです。リトルマーメイドを知らなくても旧版→ファンタズミックと観ることでちょっとした連動があったのですが(マジックランプシアターとかもそうですね)、新版になってその楽しみも無くなってしまいました。
◆ストーリーに起伏が無くなった
旧版では主に3つのシーンに分かれていて、静かな美しさのあるパートオブユアワールドの序盤、恐怖のアースラの中盤、大団円の終盤…と、わかりやすい構成になっていました。シナリオ的に言えば、「海を出て地上に行きたい…」→「行かせてやろうか?ただし条件つきでな!」→「やっぱりみんなといる!海最高!」みたいな感じで、まあこう書いてしまうとなんだそりゃって感じもありますがストーリーとしてわかりやすく盛り上がりがありました。中盤のアースラのシーンがあるからこそクライマックスのアンダー・ザ・シーの楽しさや幸福感が強調されていて、「暗いシーンから楽しいシーンへ」「不安な迷いから笑顔のダンスへ」「怖い歌から賑やかな歌へ」と、いろんな面で起伏があったんですね。
これは『ファンタズミック!』でもそうで、お姫様の幸せなひとときからヴィランズの活躍シーンへ行き最後に打ち勝って大団円を迎える、という起伏があります。こういうのはショーに限ったことではなく映画でも小説でも漫画でもなんでもそうですがストーリーの基本でもあります。
ところがシアターの新版では、序盤のトリトン王の怒りのシーンこそあるものの、その後すぐに和解し、最後まで幸せな歌のシーンが続きます。
美しく楽しい歌とダンス。それはもちろん見ていてすばらしいものなんですが、それを盛り上げる前準備が無いので、なんというか……つまらない。
ストーリーの起伏が薄くなった=アリエルの感情の変化も控えめなものになりました。旧版では地上への憧れを歌ったあと、アースラの誘惑を受け、それを振り切り、ショーを観に来てくれた人間(観客)たちに感謝しながら大団円…という流れになっていて、アリエルというキャラクターを好きになるつくりになっていました。が、新版では地上への憧れを歌ったあとトントン拍子ですぐに人間(観客)たちに気づいてパパとみんなに感謝しながら大団円…という流れ。海を取ろうか陸を取ろうか迷い悩み悲しむシーンが全く無いので、アリエルというキャラクターの魅力が伝わりにくいものになってしまっています。
活き活き動いていたパペットが映像になってしまったこと、ラスボス感あふれるアースラがいなくなったこと、そして何よりストーリーがつまらなくなってしまったこと。この3つが大きな不満でした。
◆良かったところ
リニューアルして良くなった箇所ももちろんあります。
まずはアリエルの泳ぐ範囲が広がったこと。ステージ上の円柱空間だけではなく観客席の奥のほうまでグイーッと来てくれるので、そこは非常に良いなと思いました。
また、泡の演出もすごく良い感じ。ようはシャボン玉を沢山出してるだけなんですが、たぶん下から上へ空気でも流しているのか、無数のシャボン玉がステージ上空へ登っていきます。その様子がまるで海中で泡が立ちのぼる光景のようで、海中世界感は旧版より増している印象でした。たまに泡が観客席のほうに来たりもして、喜んでるお子さんなどもいましたね。自分も喜びました。
ただし焼け石に水というか、7減って1増えたようなものなので、『前のもいいけど新しいのもいいね!』とは言いづらいのが本当の気持ちです。
ただし焼け石に水というか、7減って1増えたようなものなので、『前のもいいけど新しいのもいいね!』とは言いづらいのが本当の気持ちです。
◆評価は人それぞれ…ではなくその時それぞれ
散々こき下ろしましたが、それだけ新版にはガッカリしたということです。正直に言うとリニューアルなんてして欲しくなかったくらいです。リニューアルという名の改悪だと思っています。
ただし、ものの感想というのはその人その時々のさまざまな要因によって変わるもの。つらい時に明るい映画を見て元気をもらい良い印象を持つこともあれば、めちゃくちゃ期待してしまったせいでハードルを上げてしまい実際見て拍子抜け……など、状況や精神状態によりそのもの本来の評価とはいくらでも変わってしまうものです。
なので自分も気づかないうちになんらかの要因で新版への評価を下げてしまっているのかもしれません。
過去に覚えのあるのは映画『メリダとおそろしの森』で、初見は想像と違ったため超ガッカリでしたがこういう話なんだと把握してから2回目観たらめちゃくちゃ良く見えて泣いたというものでした。
マーメイドラグーンシアターにおいても、旧版のようなものをまず予想して「トリトン王が怒ってアリエルのコレクションをぶっ壊したあとに和解とかするのかな?」と想像していたフシがあるので、そういったシーンが無かったせいで勝手にガッカリしていたりするのかもしれません。2回目観に行ったらめちゃくちゃ好きになってしまう可能性もあります。あくまで明るく楽しいコンサートというコンセプトを把握した状態で観るとまた違ったりすると思いますので。
なのでこの記事内に書いた感想文は、未来永劫変わらぬ確固たる主張ではなく、2015年6月19日の心境であって、今後いくらでも変わる可能性があるということを付け加えておきます。そんなもん全部そうですけどね。
ただし今現在の心境としては本当に「これはねーよ」が本音。
旧版の公演が終了した時には「ああ終わっちゃったなあ」くらいの気持ちでしたが、新版を観て改めて「アンダーザシーもう観れないんだな…」と実感し、ものすごい喪失感に襲われています。
そんなキング・トリトンのコンサートでしたが、また観に行きたいかどうかと訊かれれば、モチのロンでまた観に行きたいですね。
ただし今現在の心境としては本当に「これはねーよ」が本音。
旧版の公演が終了した時には「ああ終わっちゃったなあ」くらいの気持ちでしたが、新版を観て改めて「アンダーザシーもう観れないんだな…」と実感し、ものすごい喪失感に襲われています。
そんなキング・トリトンのコンサートでしたが、また観に行きたいかどうかと訊かれれば、モチのロンでまた観に行きたいですね。
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↑旧演目、アンダー・ザ・シーが観れるおそらく唯一のソフト。フル収録ではなくダイジェスト&音声解説入りではありますが、貴重な1枚だと思います。