再びボビーが、
マーケットで絵本を売るようになってから、
彼がマーケットで知り合いになった様々な人が
我が家には入り乱れ出入りするようになっていた。
彼はとても人懐こい性格で、
誰とでも屈託なく話すから、
あっという間に国籍も性別も多様な知人友人が出来た。
その中でも忘れられない人たちがいる。
彼はチベット人、彼女は中国人だった。
彼らはチベットのティンシャや鋳型のお経など、
チベットの品々を売っていた。
私も時間のある時は、マーケットに遊びに行っていたので
彼らとは顔見知りだった。
彼女は不思議と私の事をたいそう気に入ってくれて、
私と友達になりたいと言うのだった。
私は戸惑った。
全く理由がわからなかった。
まだスイスに来たばかりで
ドイツ語も片言しか話せない彼女と筆談したりした。
でも、友達になりたいと思う程、
意思の疎通ができたわけじゃなかった。
そのうちボビーが二人を勝手に招待した。
私はその週末は仕上げたい作品があったので、
大学へ行くつもりでいたのに。
勝手に約束したボビーに文句を言ってみたが、
もう来るはずだと言うので、渋々お茶だけ付き合う事にした。
ほどなくして、嬉々として彼らはやって来た。
私に丸い鋳型のペンダントトップをプレゼントに持って。
そして、将来の彼らの子供の名前を
私に一緒に考えて欲しいと言うのだった。
彼らの真意が本当にわからなかった馬鹿な私は、
そんなに真剣に受け取れず、軽く流して
さっさと大学に出掛けて行ったのだった。
その後、何年も経ってから
何かの機会に彼らの事を思い出し、はっとした。
チベット人と中国人のカップル‥
彼らの先には、
一体どれくらいの困難があるのだろうか‥
彼らは私の大きいお腹を見て、
日本人とアフロキューバ人の家族を見て、
夢を見たのではなかったのか‥
全く違う2つの国の男女が家族になって、
仲良く暮らして行くという‥
私は後悔した。
滅多にしない後悔をした。
なんでもっと、話しを聞いてあげなかった。
なんでもっと、彼らの気持ちを察する事ができなかった。
なんでもっと早くに彼らの持つ厳しい状況に、
思い至らなかったのか‥
私は本当に大馬鹿だと、未だに思う出来事である。