区分所有法第31条第1項に関する判例 平成10年11月20日最高裁判決について | 行政書士・マンション管理士の「問題解決への道しるべ」

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前回に引き続き、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第31条第1項の規定

『規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
に関する最高裁の判例です。(下線は筆者)
判決文は次のリンクから。(裁判所の裁判例検索のページのリンクです。)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62792

1階が店舗、2階から上が住居という複合用途のマンション。1階店舗の為に分譲当初より設定されていた駐車場を、その後の総会決議による規約変更で消滅させて良いかどうかが争われた裁判。もちろん、駐車場専用使用権を設定されていた1階店舗区分所有者はその決議に承諾していません。

最高裁の判決ではまず、次のとおり区分所有法第31条第1項後段の適用について示されています。
『法三一条一項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。』

大胆に簡略化して言うならば、
規約変更の必要性・合理性 < 不利益の程度 
であれば、規約変更は認められない。逆に
規約変更の必要性・合理性 > 不利益の程度
であれば規約変更が認められるということですね。
もちろん、「受忍すべき限度を超え」ているかどうかは最終的には裁判所の判断になります。

そして判決では本件につき、次のとおり判断されています。
『本件区分所有関係についての前記諸事情、殊に、(1)被上告人は、分譲当初から、本件マンションの一階店舗部分においてサウナ、理髪店等を営業しており、来客用及び自家用のため、南側駐車場及び南西側駐車場の専用使用権を取得したものであること、(2)南西側駐車場の専用使用権が消滅させられた場合、南側駐車場だけでは被上告人が営業活動を継続するのに支障を生ずる可能性がないとはいえないこと、(3)一方、被上告人以外の区分所有者は、駐車場及び自転車置場がないことを前提として本件マンションを購入したものであること等を考慮すると、被上告人が南西側駐車場の専用使用権を消滅させられることにより受ける不利益は、その受忍すべき限度を超えるものと認めるべきである。したがって、消滅決議は被上告人の専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものであって被上告人の承諾のないままにされた消滅決議はその効力を有しない。』

これも大胆に簡略化すると、
(1)分譲当初から1階店舗には営業用等のため駐車場専用使用権があった
(2)これがなくなると1階店舗の営業に支障がでる可能性
(3)2階から上の方々は駐車場が無いことを前提としてマンションを購入している
これらのことから、
規約変更の必要性・合理性 < 不利益の程度
となって規約変更は認められませんでした。
この判決を参考にすると、変更前(分譲当初)の規約に相当程度の合理性がある場合、規約を変更する必要性・合理性は当然低くなり、一部の方に不利益をもたらす規約変更は難しくなるという事が言えると思います。ある意味当たり前ですが。
無秩序に多数意見による規約変更が認められ一部の区分所有者への不利益変更が許されてしまうなら、少数派は多数派の収奪の対象となってしまう。数による暴力を防止するために区分所有法第31条第1項後段の規定はあるのですが、残念ながら、これを理解していない(故意に軽く見ている?)専門家がいるのではないでしょうか。その方が(多数派に取り入った方が)自分の仕事になると考えられますからね。
でも、それが専門家として正しい姿勢だとは僕は思いませんが。