規約変更が一部の区分所有者に特別の影響を及ぼすとき | 行政書士・マンション管理士の「問題解決への道しるべ」

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アークスター法務事務所 代表の金澤義則が相続、時効援用、マンション管理など様々な問題について語ります。

マンション、区分所有建物関係で非常に興味深い判例を見つけました。
建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第31条第1項に関するものです。

【区分所有法】
(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

(なお、国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型)第47条第7項にも同趣旨の規定があります。)

【判例の事件名・事件番号】
平成28(ワ)2475  団地管理組合総会決議不存在確認等請求事件(本訴,承継参加),未払管理費等支払請求事件(反訴)
令和2年4月13日  札幌地方裁判所 
です。
【判例のリンク】(裁判所のホームぺージです。)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=89846

【判事事項の要旨】
 団地の管理組合が,その総会において,管理組合規約のうち管理費等の負担割合に関する定めを変更する決議をしたところ,団地を構成する商業棟や敷地の共有持分を有する原告らが,同決議は,原告らの権利に「特別の影響を及ぼすべきとき」(建物の区分所有等に関する法律31条1項後段)に該当するにもかかわらず,原告らの承諾なくされたものであるから無効であると主張した事案において,同決議は原告らに特別の影響を及ぼすべきときに当たるから無効であると判断された事例(本訴)

 複合用途、団地型の区分所有建物ですが、管理規約の変更による一部の区分所有者の管理費増額(不利益変更)が適法か否か、区分所有法第31条後段の規定の対象となるか否かが争われました。判決では、
『以上のとおり,旧規約における団地管理費等の負担割合を定める方法は,新規約におけるそれと比して合理性を欠いていたものとはいえず,本件規約変更の必要性及び合理性が高かったとはいえない一方で,従前原告らは,団地管理費等に係る本件規約変更によって実質的な利益を得ていないにもかかわらず,本件規約変更前と比して大きな負担の増加を強いられることとなり,その均衡を失しているものといわざるを得ない。』
と判断して、規約変更を無効としています。
要するに、
変更前も、変更後も、両方ある程度合理性あり。
従って変更の必要性度合いが高いとは言えない。
にもかかわらず、一部の者が、何らの利益は増えていないのに、費用負担だけ増えるのは不適切
ということですね。

本件は、多数の議決権を持つ者が、少数の議決権しか持たない者に対して、一方的に管理規約の変更を行い、管理費の増額を押し付けたもの。そう喝破すればこの判決の妥当性もすっきり飲み込めます。

僕自身、以前はマンション管理会社に勤務して、管理組合の運営支援をしていました。
また、現在はマンション管理士として、種々の相談や助言業務を行っています。

正直にいうと、マンション管理会社の社員としても、マンション管理士としても、議決権多数派の意向に沿って動く方が会社の利益、自分の利益(業務受託)につながる。そのためには議決権少数派の権利なんてどうでもいいと思ってしまうのも頷けます。

マンション管理会社は営利法人なので、そう考えてしまうのもある意味仕方のない事かも知れない。マンション管理士だってお金が欲しいのは当たり前。管理組合から業務委託契約を結んで欲しい。でも士業である以上、自らの利益以上に、高度な倫理観を持ち、公平・公正な社会を実現するための配慮が求めらると思います。

僕が所属する一般社団法人 日本マンション管理士会連合会には倫理規定があり、
(利益相反の禁止) 
第20条 マンション管理士は、依頼者等と利益相反が生じるとき、又は自己の中立性を損なう可能性があるときは、その旨を告知のうえ、役務の提供をしてはならない。 
(正当な利益の実現) 

第22条 マンション管理士は、公平な第三者としての良心に従い、依頼者等の正当な利益を実現するよう努めなければならない。 
2 マンション管理士は、業務履行の結果、依頼者又は自己にとって不利益となる事態が想定されることとなっても、この事実を歪曲、隠蔽してはならない。 

と定められています。
 議決権多数派に阿り、自らの業務委託契約獲得に資するため、議決権少数派(一人の個人の場合もあります。)に不適切な負担を強いる規約変更を推奨したりしてはいけないと思います。
 マンション管理士の依頼者というのは、決して理事会メンバーでも、議決権多数派でもありません。管理組合全体が依頼者です。管理組合には議決権少数派も含まれます。全体の共同の利益のために助言し行動することが求められると思います。

皆さんはどう思われますか?