現代若者気質について② [金曜日担当:管野] | 教育研究所ARCS - 独断的教育論 -

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教育現場のプロ3人衆による本音トーク


いっときマスメディアなどが若者 ―主に男性― を評して「草食系」と呼ぶことが流行しました。


草食系男子の誕生です!!


今や、すっかり定着した感のある草食系若者という言葉。しかし元をたどればその歴史は意外と古くない。


ウィキペディアによるとこの言葉が最初に使用されたのは2006年。コラムニストの深澤真紀という人が命名したのが最初。続いて2008年に大阪府立大教授の森岡正博氏が「草食系男子の恋愛学」を刊行しベストセラーとあります。


どうもこの頃から「草食系」というワードが一気に流布したようです。


で、この2人によれば「草食系」の定義は次のようになります。


「草食系男子」とは


恋愛に縁がないわけではないのに積極的ではない、肉欲に淡々とした男子。(深澤)


新世代の優しい男性のことで、異性をガツガツと求める肉食系ではない。(森岡)



つまり、もっぱら恋愛という男女関係の場において従来より消極的で、ギラついた欲望(笑)に乏しい男性のことと言えます。

(それにしても肉欲って言葉……すごくないですか(汗))


そしてこの言葉が出た当初は、新しい時代の男女のあり方を感じさせるキーワードとして肯定的なトーンで語られたようです。


すなわち、草食系男子とは心が優しく旧式な男らしさ(マッチョ?)に縛られず、女性を求めることにおいても欲望に追い立てられるのではなく、他人を傷つけることを恐れる若い(新しい)世代の誕生というわけです。



しかーし!!

この肯定的トーンは長く続きません。


やがて2010年頃から「草食系」とは、温室育ちで元気のない「ゆとり世代」の若者の代名詞として男女を問わず若者一般を指し示す言葉に変質していくのです。


要するに「草食系」は初めは肯定的な意味あいに使われていたが、次第にネガティブなトーンに変わっていったということです。


前者は、フェミニズム的観点あるいは男女平等的観点から肯定的受容的に迎えられ、後者は「近頃の若者はなってない」的な観点から語られるようになったという次第。


ひどい例だと「草食系だから女性にモテない」(笑)などもあります。


こうして同じ一つの言葉である「草食系」が全く正反対のトーンで語られることに注意して下さい。


本来「草食系」は悪い意味ではなかった。


しかし流布するにつれ「近頃の若いモンは困ったものだ」「元気がなく、積極性もない」「何しろ草食だもんね…!」という使われ方へ変貌した。



ということです。



前回の記事でも触れましたが、私は「近頃の若いモンは」という若者攻撃には全く与するつもりはありません。


従って「草食系」という言葉を現代の若者に特有の弱点や欠点を表す意味には使いません。


せっかく新しい世代が生まれ次の時代の先取りを感じさせているのに、新しいが故に理解できない古い世代が彼らの足を引っぱっている図を私は思い浮かべてしまうのです。



ですからこの「草食系」と称される若い世代がどういう特徴をもち、どこへ向かおうとしているのか興味を持って温かく見守っていきたいのです。


そう考えて改めて若い人たちを見てみると、「草食」という言葉は現代の若者の一つの側面を良く表していることに気づきます。



まず、最初の定義にもあるように若者たちは以前に比べ

心が優しくなった

と感じます。


少子化が進み生活も昔よりは豊かになった。

物質的な渇望感は今の若者にはあまり見られません。

大事に育てられ、モノを取り合う生存競争からも免れています。


つまり焦ってガツガツする成育環境で育っていない


これは心理学者マズローの「欲求の5段階説」で言う、低次の欲求(生理的欲求、安全欲求)が満たされた状態といえます。(下図参照)



つまり人間は生存を脅かす環境や社会的に不安定な状況にいるときほど欲望にかられ、その行動が一見アクティブに見えますが、満たされているときは平和で優しくなるのです。


私も最近、塾に来る生徒やアルバイトの大学生を見ていて「昔に比べて皆おだやかで優しくなったなア」と感じます。


もちろんこれはこれで危惧するときもあります。


大人しくて反抗しない。素直で聞き分けがよい。議論や意見のぶつかり合いを避ける。なので、本音の部分で熱く語り合うのに時間がかかる


これらは裏返せば、冷めていて覇気がない、エネルギーに乏しい。つまり元気がないという、先のネガティブな若者論に近づいてしまいます


ですがそれは表面的見方であって、一見エネルギーに乏しく元気がなさそうでも、ひとたび明確な目標や指針が示されると、俄然やる気が出て頑張り出すところは昔の若者と何ら変わりありません。


それどころか、妙な野心(功名心)やエゴイスティックな衝動がない分、そのエネルギーは純粋で持続性がある。


大勢で議論するのは苦手でも、一人ひとりとじっくり腰をすえて語り合えば自分の夢や希望もきちんと話してくれる

それが必ずしも自分の利益にならないことでも、いったん納得すれば骨身を惜しまずガンバる所がある


日常的に若者と過ごしている「若者ウォッチャー」の私には、その無償の行為はすばらしく、感動的でさえあります。


震災以降、ボランティアにいそしむ若者も増えて来ました。


今の若者は一昔前のように大げさなスローガンや、大言壮語はしませんがその代わり身の丈に応じた範囲で誠実に動くのです。


皆が一斉に同じ方向へ駆け出すのでなく、自分の本当のやりたいことは何か他人の評価や常識に左右されず足元をしっかり固めて行動する人が増えています


ただ、彼らは心優しく、優しいが故に親や恋人友人を傷つけるのを恐れ内向する人もいる。閉じこもってしまうのです。そこは残念。


だから  若者よ 草食と呼ばれることを恐れるな


いつの世も若者は世間からレッテルを貼られてきた。


君たちは自信を持って自らの道を歩んでいけば良い

その先にはきっと新しい国の形、新しい人間のあり方が見えてくるはずだ。


だから若者よ。

口やかましいオッさんやオバさんの声など気にせず、しっかりと前を向いて進んでいけ!