最近ニュートンを読んでいます。ニュートンといっても、科学雑誌の方ではなく、科学者ニュートン本人の伝記です。ニュートンといえば、名前だけはだれでも知っている、科学界の超大物。高校生や理系の社会人の方ならば、一歩進んで「万有引力の法則」や「微分・積分」など、彼の業績を知っている人もいるでしょう。
私はといえば、「万有引力」は知っていたものの、せいぜい「木からりんごの実が落ちるのを見て、引力を思いついた人」程度の認識しかありませんでした。しかし、塾の授業カリキュラムでニュートンを扱うことを決めてから、ちょっと調べてみると、これがまたおもしろい。過去の偉人の例にもれず、変なエピソードもありますし、彼が発見した法則のスゴさもなんとなく分かるようになりました。しかし、そんな遅まきながらの勉強をするなかで、最も感慨深かったのは、エピソードでも法則でもありませんでした。それは「時代」です。
アイザック・ニュートンは1642年にイギリスで生まれました。1600年代半ばといえば、日本では江戸時代が始まって40年ほど。戦国時代の殺伐とした雰囲気も薄れ、徐々に「天下太平」の時代に向かう頃です。では、ヨーロッパはどうだったでしょう?
皆さんは、「17世紀」と言われて、どんな世界をイメージしますか? 私も自問してみましたが、なかなかイメージが浮かびません。一つ前の16世紀であれば、大航海時代・ルネサンス。一つ後の18世紀であれば、産業革命やアメリカ独立戦争、フランス革命と、人類史のターニングポイントが目白押しです。ひるがえって17世紀を考えてみると、なんとも地味。輝かしい二つの時代に挟まれた谷間の時代です。
しかし、この谷間こそが重要なのです。ニュートンやデカルトなど、現代科学の礎を作った学者たちは、実はこの17世紀に生まれ、活躍しているのです。
世界史的には、17世紀は「危機の世紀」と言われています。ヨーロッパは小氷河期に突入し、気温が低下。その結果農作物は不作になり、人々は食べ物を求めて争い合うようになります。実際に「30年戦争」という、第1次世界大戦以前の最も大規模な戦いといわれた戦争は17世紀に起こっています。他にも、17世紀の記述はとにかく戦争に次ぐ戦争。殺伐としています。しかし、この大混乱の時代は、大混乱であるがゆえに、これまで当たり前に信じられてきた常識や秩序が破壊され、新しい何かが求められた時代でもありました。そんな時代に生まれた人々が、「新しい何か」を作り出します。それが「合理性」であり「科学」であったのかもしれません。この17世紀、人々は生きるために戦いました。その結果、軍事技術を皮切りに様々な生存のための技術が急速に進歩していきます。そして、新しい何かを求める戦いの結果生み出された考え方が、技術と結びついたとき、18世紀という近代が始まります。18世紀に始まった産業革命は人々の生活を大きく変え、アメリカ独立戦争とフランス革命は人々の権利意識を大きく変えました。その結末に現代があるのです。
地味でよく分からない17世紀は、16世紀の繁栄が準備し、18世紀の爆発的な発展の基礎となった、非常に重要な時代なわけです。
偉人たちについて学ぶとき、その人のやったことを学ぶのは当然ですが、その人が生きた「時代」そのものに目を向けてみると、いろいろと大きな発見があるかもしれません。だれか気になる人物がいたら、是非その人が生きていた「時代」についても調べてみてください。おもしろいですよ!