雪の日におもう [月曜日担当:庄本] | 教育研究所ARCS - 独断的教育論 -

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教育現場のプロ3人衆による本音トーク

28日、関東地方に大雪が降りました。ここ20年で最大の積雪とのことで、ニュースはその話題一色。うわさでは、一部で食料品の買い占めが起こったとも言われています。

 私はといえば、その日も普通に仕事。職場に出社していました。外はまさに「吹雪」。視界を遮られる雪と、すべる足下。普段ならば一瞬でたどり着くはずの最寄り駅が、ひどく遠く感じられます。傘を持つ手はかじかみ、足のつま先はぬれて感覚を失い、と、久しぶりに体力を試される一日でした。


 そんな吹雪の中を歩きながら、わたしはいつものように歴史におもいをはせていました。日本史や世界史には、よく「戦いの名前」が出てきます。日本では「関ヶ原の戦い」や「桶狭間の戦い」「壇ノ浦の戦い」、外国で言えば「アウステルリッツの戦い」や「イッソスの戦い」「トゥール・ポワティエの戦い」など、思い返せばきりがありません。

しかも、高校レベルの知識で出てくる戦いは、どれも歴史の流れを大きく変えた致命的なものばかり。にもかかわらず、みな覚えるのをいやがります。生徒たちが世界史をいやがる理由の一つは「人名や戦いのカタカナが覚えられない」ですから。

それは考えてみれば当然です。山のように出てくる戦いの名前など、ただの記号に過ぎません。「○○の戦いで20万人の兵士が衝突した」と書かれても、まぁそんなものか、と気軽に読み飛ばしてしまいます。

たとえば、ナポレオンのロシア遠征を考えてみましょう。19世紀初頭、西ヨーロッパのほぼ全域を支配下に置いたナポレオンは、最後に残ったロシアを下すため、何十万もの大軍を動員して攻め込みます。途中までは順調に進んだのですが冬がやってくると戦況が一変、軽装のフランス軍は寒さに次々と倒れ、最終的にはナポレオンの大敗北に終わりました。この戦いの結果、ナポレオンは大陸最強と言われた精鋭軍をすべて失い、一気に破滅への道を歩むことになります。

 吹雪の中で、ふとこのナポレオンのロシア遠征を思い出しました。たかだか1キロの道のりを歩くのにも難儀する、この「雪」という気候がいかに強烈なものか、今更ながら実感したのです。ロシアに攻め込んだフランスの兵士たちはどのような気持ちで雪道を歩いたのでしょうか。日本とは比べものにならぬ降雪量の中、背後からはロシア軍が追いかけてくる、その中を歩いた彼ら兵士のことを考えると、教科書上の「記述」に過ぎなかったロシア遠征がすさまじい実感を伴って迫ってくるのです


 歴史は「人の営み」です。そして、人の周囲の自然は今も昔も変わりありません。ですから、このような経験を通して、過去の人々の行動や思いが他ならぬ自分と「同じもの」であったことを実感できると、歴史はとてもリアルなものに感じられます


 授業の中で、この「リアル」を感じてもらうことができれば、生徒は必ず社会を好きになるはず。そして、生徒が自分でこの「リアル」を感じられるようになれば、必ず社会ができるようになるはず。

 思いもかけず授業のヒントを得ることができた、そんな雪の日でした。