50年近く前に書かれた作品なのに、最近、書店の新刊・話題書のコーナーに平積みされているのを見ることが多く、ちょっと読んでみようかと手に取りました。
無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壺。
思わぬ形で作者の手許から離れていったこの壺は、様々な形で人から人へと渡り歩き、手にした人々の人生に小さな変化をもたらしていくのですが、この壺の透明感のあるつややかな肌に映し出される人々の人生の諸問題は、現在でも共感できるものばかり。
普遍的とも言えるテーマであるがゆえに、話自体にはさほど古さを感じさせず、また、重苦しさも感じないため、今でも十分に楽しめる作品でした。
あと、全体的に登場人物の言葉遣いがきれいで、古き良きといいますか、いい意味で昭和で、この点については、今だからこそ魅力的に感じられるのかもしれません。
特に青い壺をきっかけに戦前の華やかだった夫との暮らしを思い出し、一人延々語り続ける老婦人の話し様はまるで噺家のようで、どこか滑稽さも感じつつも、印象的でした。
そして、作者は十数年後にこの壺に再会するのですが、そこに至るまでこの壺の美しさや価値が人々にどのように見られてきたか、どう扱われてきたかということを通して、美とは何かということについても考えさせられます。
個人的にはさほど魅力を感じない青磁。
しかし、見る人が見れば非常に美術的価値の高いもので、だからこそこの物語では青磁の壺なのかなと。
壺と再会した後に漏れた作者の心の声は深いです。
