2019年に東京都美術館で「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」を観て以来、ずっと欲しいなと思っていたものの高くて躊躇していた辻惟雄さんの「新版 奇想の系譜」を、ちょっとお得に購入できるチャンスがあったので購入しました。
江戸時代に活躍した奇想の画家として、岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳の生涯と画業を豊富な絵画とともにに紹介するこの本。
因襲の殻を打ち破り、自由で斬新な発想で描かれる彼らの絵画に共通する性格を表す言葉として「奇想」というタイトルをつけたそうですが、実際に絵を見るだけでも他とは違う斬新さを感じます。
しかし、そうした感覚的なものだけではなく、一見よくわからないようなところについても、どういう風に奇想なのかということを具体的に解説されているところが非常に面白く、より一層彼らの作品についての理解が深まります。
また、本書は元々1970年に発刊されたものですが、この新版は2019年発刊ということで、1970年の原文はそのままに、新たに分かったことなどを”その後の〇〇”という形で新たな絵画とともに補足されていて、古さを感じさせない工夫が凝らされているところもよかったです。
そして、何より美術展の図録などと同じようにB5版で絵が大きいのがいいですね。
安価な文庫版も出版されているのですが、こちらを買ってよかったです。
この奇想の系譜で取り上げられた6名の絵師は、それまでそれほど注目されていなかったか、あるいは忘れられていた存在でしたが、50年後の現在では、一大ブームを巻き起こした若冲を除けば、誰もが知るというところまでは至っていない感はあるものの、それぞれにたびたび大規模な展覧会が開かれるなど、注目されるようになっており、そういう意味では本書の果たした役割は非常に大きなものだったのだと思います。
江戸絵画の世界には、北斎、広重といったところから入ることが多いと思うのですが、そこから興味を持ったとして「他には?」となった時に、お勧めしたい名著です。