ニッポン景観論 (集英社新書)/集英社- ¥1,296
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いやぁ、本当にお恥ずかしい。
頭上に蜘蛛の巣のように張り巡らされた電線。
コンクリートにガチガチに固められた山、川、海。
周囲の環境に全くなじまない奇抜な建築物。
過剰なまでに乱立する看板。
雑多な建物が入り乱れて立つ混沌とした都市景観。
ブルーシートなどでカラフルに彩られた田園風景。
杉だらけの山。
日本の醜悪な景観を写真と文章で皮肉たっぷりに紹介したこの本。
著者は、アメリカ生まれ、日本在住の東洋文化研究者のアレックス・カーさん。
古民家再生や景観に配慮したまちづくりなどのプロジェクトも手掛けている方ですが、もう、なにもかもまったくおっしゃるとおり。
私が、最近、つくづく感じている日本の景観のおかしさをすべて指摘されています。
外国出身の方にこんなことを指摘され、景観の再生に手を煩わせているというのが、何とも恥ずかしく情けなく感じますが、現役世代の日本人にとっては、生まれた時から今のような景観が日本のスタンダードなわけであり、それに対して何の疑問も持たないというのが普通かもしれません。
私もそうでしたが、年を重ね、テレビや写真などで見るヨーロッパの町並みや風景、あるいは日本にも少なからず残されている古い街並み、田舎の原風景、手つかずの自然などの美しい景観を見れば見るほど、触れれば触れるほど、日本の景観が奇妙で醜悪なものであることを強く感じるようになりました。
特に最近、増加している外国人観光客の方々の目にはどういう風に見えているのだろう? と考えると、”醜い景色ですみません...”と恥ずかしくなってきます。
どうしてこんな景観が広がってしまったのか...
そこには様々な問題が含まれていると思いますが、地区全体であるとか、町全体であるとか、そういうスケールで景観を考えるということが不得手というか、無頓着というか、ともかくできていないというのが大きいのかなと感じます。
著者は、これからは国土の大掃除の時代というふうに言っていますが、本当にそのとおりだと思います。
成長から成熟へと社会構造が変化する中、新たなインフラを作ることよりも、放棄された建物や作りすぎた人工物を取り壊し、本来の自然や古き良き伝統や文化を活かした美しい景観を取り戻す、そういった公共事業の形が求められているのではないでしょうか。
個人的に今年の新書大賞に選びたい一冊です。