天地明察 | Archive Redo Blog

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DBエンジニアのあれこれ備忘録


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江戸初期、日本初の国産暦となる大和暦(貞享暦)を作成した渋川春海の半生を描いた時代小説です。

本屋大賞受賞作であるとか、映画化されるとかいうことで、書店でも注目の書籍として扱われていましたが、私の場合、そもそもこの本を読もうと思った理由は全く別のところにありました。

保科正之という人物を描いた作品がないものかと探していたら、この作品にたどり着き、正之本人が主人公ではないものの、内容も面白そうだったので、読んでみたという次第です。

保科正之は、徳川二代将軍秀忠の庶子でしたが、異母兄弟である三代将軍家光と四代将軍家綱に重用され、幕政においては武断政治から文治政治への転換を推し進め、自藩である会津藩においても現代における福祉や年金にあたる制度を整備するなどの善政を敷いた江戸時代屈指の名君と言われる人物です。

です...と言い切りましたが、実は私も最近そのことを知ったばかりなんです。

それは日本史をちゃんと勉強してこなかったということではなく、そもそも日本史の教科書でもほぼ触れられていないから知らなかったわけなんですが、おそらくほとんどの日本人がそうなのではないでしょうか。

なぜそれほどまでに知られていないのかを考えた場合、正之自身が将軍の権威を尊重するために自らの功績を誇らなかったということもあるとは思いますが、そんな将軍家や幕府を立てる姿勢が”会津家訓十五箇条”として会津藩の藩主・藩士に代々伝わり、幕末、佐幕派の中心として最後の最後まで薩長を大いに苦しめることにつながったことから、薩長中心の明治新政府が歴史上から保科正之の名を抹殺したのではないかという疑念すら沸いてきます。

この本の中での保科正之は、主人公を改暦という大事業へと導くキーマンとして存在感を示しており、その名君ぶりを示すエピソードなどもそこここに散りばめられています。

ただ、自分の思い描いていたイメージ通りではありましたが、それほど多く登場するわけではないので、かえってもっと読みたいという気持ちが強まってしまったようにも思います。

作者の沖方丁さんは同じくこの作品に登場する水戸光圀を主人公とした作品を書いているようですが、保科正之についてもいずれ主人公として描いてくれることを期待したいですね。

と、ほとんど保科正之について書いてしまいましたが、本筋についても、碁打ちとして禄を受けながら算術にのめり込み、様々な人々との出会いに導かれて、改暦という大事業を成し遂げるに至る渋川春海のまっすぐな生き方と成長の過程が読んでいて実に清々しい作品です。



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