街場のメディア論 (光文社新書)/内田 樹- ¥777
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もう少し、小難しい文章を想像していたのですが、非常に読みやすい本でした。
というのも、大学2年生を対象とした講義から文章を起こしたものだからなんですね。
テーマは「メディアと知」。
キャリアというものの意味から始まり、新聞、テレビ、著作権、電子書籍など、メディアの在り方の本質的な部分を、教科書的な話ではなく、独自の視座を持って鋭く突いていく内容で、
「ああ、なるほどなぁ。」
「そうそう、そうなんですよね。」
と、自分にはなかった視点や発想に素直に感銘したり、自分でもぼんやりと感じていたことを明快に表現しているところに共鳴したり、胸をすく思いをしたり、非常に印象深い内容でした。
具体的に書きだすとキリがないし、また100%伝えきる自信もありませんが、特に印象に残ったのは、本の話です。
読書離れ、電子書籍、著作権...
出版を巡って最近度々話題となるこれらのトピックは、出版危機という言葉に結びつくわけですが、著者は出版危機に関する議論にはいずれも読み手に対するレスペクトが欠如していると言い切っています。
本を書くということは、一人でも多くの人に自分の考えや感じ方を共有してもらうこと。
本を買う人ではなく、本を読む人に対して書くものであり、そうして出来上がった本は商品ではなく、読者に対する贈りものである。
そして、この贈り物を受け取り、「ありがとう」と言う人が現れて、はじめてその本に価値が内在しているということが事実となる...
ところが、今の出版ビジネスモデルでは、本=商品、読者=消費者という前提のもと、本には著作権という形ではじめから一定の価値が付与され、読者に受け渡される時点で遅滞なく対価が支払われるものとなっています。
このように、本の本来的な価値を忘れ、出版を商取引のビジネスモデルに基づいて考えている限り、出版危機(と言われているような現象)は解消しないのではないかというのが著者の考えるところなわけです。
思えば、出版危機を声高に叫んでいるのは、そんなビジネスモデルに組み込まれた人ばかり。
我々読者は、ただ読みたい本があれば読む、なければ読まない。
ただ、それだけのことで、危機でも何でもないわけです。
出版業界の行く末は、本の本来的な価値と、ビジネス的な価値のギャップをどのように埋めていくか、というところに掛かっているのかもしれませんね。