文明の生態史観 (中公文庫)/梅棹 忠夫- ¥780
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先日亡くなられた梅棹忠夫さんの代表的著作です。
この本には、表題の「文明の生態史観」を中心に、自らのアジア諸国の見聞を通じて、各地の文明を比較・研究した成果が収められています。
これらの論説の中核をなす「文明の生態史観」は、それまで、アジアとヨーロッパ、西洋と東洋、という漠然とした分け方をされていた文明史観に新たな視座を与えました。
その視座とは、ユーラシア大陸を横長の楕円形に例え、その東の端と西の端に近い部分に垂直線を引き、その垂直線の外側に当たる部分を第一地域、内側に当たる部分を第二地域として区分けするというものです。
具体的には、第一地域には西ヨーロッパや日本が該当し、第二地域には、それ以外の地域が該当します。
このような区分けをしたうえで、両地域の違いについては、まず、第一地域が、中緯度の温暖な気候と豊かな土地に恵まれ、第二地域の文明を吸収しながらも、その破壊と征服を免れ、ぬくぬくと順序立てて進化・発展してきた地域であるとしています。
これに対し、第二地域は、広大な乾燥地帯であり、古代文明発祥の地でありながらも、その土地に住まう民族の暴力的な性質が、破壊と征服を繰り返してきたために、近代にいたるまで順序立てた進化・発展を遂げることができなかった地域としています。
世界を二分するという意味では、従来の考え方とたいして変わらない、いや、むしろ、ヨーロッパと日本を同じ分類とする点には乱暴さすら感じます。
しかし、それぞれの国に違いはあるが、その主たるものは文化の系譜によるものにすぎないと指摘しているように、表面的な文化の差異にはとらわれず、地理的条件・気候条件と人間との相互作用によって生み出され、進化・発展する生活様式や社会構造というところに着目すると、この区分けが決して的外れなものではないことがわかります。
この「文明の生態史観」は、その後の世界史観、とりわけ世界の中での日本の位置づけ、つまりは日本論といわれるような分野に大きな影響を与えました。
この論説が発表されてからもう50年以上経ち、第一地域と第二地域の様相も、グローバリゼーションが進む中で随分と様変わりしてきました。
しかし、この論説が今なお決して色褪せていないように思えるのは、50年や100年の文明の進化では変わることのない、根源的なところを突いているからなのかもしれません。
世界を知る上で、その基礎となる視座を与えてくれる非常に意味深い一冊です。