暴走する脳科学 | Archive Redo Blog

Archive Redo Blog

DBエンジニアのあれこれ備忘録


暴走する脳科学 (光文社新書)/河野哲也
¥777
Amazon.co.jp

近年、神経疾患、精神疾患の治療、エンハンスメント(能力増強)、マインド・リーディングと、めざましい発展を続けている脳科学について、
  • 脳研究によって、心の働きがわかるようになるのか。
  • そもそも脳イコール心と言えるのか。
  • 脳を調べることで心の状態を読むことは可能か。
  • 人間の行動は脳によって決定され、自由などは幻想にすぎないのか。
  • 脳研究が医療や教育、犯罪捜査、裁判などに応用されることは、どのような社会的インパクトを持ち、どのような倫理的問題が生じるだろうか。
といった5つの素朴な疑問を提起し、こららの問題について哲学的・倫理学的観点から考察しようという本です。


本書では「拡張した心」、「社会的存在としての心」、「脳の可塑性」といった概念・考え方が全体を通しての考察のベースとなっています。

簡単に言ってしまうと、心は脳の内部のみで成立する内面的なものではなく、脳・身体および環境、社会との相互作用によって構成され、変化するものであるという考え方なんですが、このような概念は哲学的な視点なくしては見いだせないものかと思います。

脳の内へ内へ、分類された心的機能へと目が向いてしまいがちな脳科学においては見失いがちな考え方であり、そこに、脳科学が個人をコントロールするテクノロジーとして権力によって利用されてしまう危険性が潜んでいるということを著者は指摘しています。


タイトルから受ける印象ほど苛烈な批判を展開しているわけではありません。

しかし、上記のような危険性を指摘した上で、脳科学の健全な発展には、哲学的・倫理学的観点からの考察や議論が十分に行われる必要があること、また、一般社会の人々にも科学技術リテラシーを高める努力が必要であるということは強く主張しています。


確かにこのような概念を踏まえて脳科学を見つめると、随分と違った印象に思えてきますし、そこにはえも言われぬ不安や恐ろしさのようなものも感じます。

脳科学だけに限らず、医療や環境問題など幅広い分野において、流される情報を鵜呑みにせず、一歩引いて物事を見つめることの重要性を改めて感じさせられました。


哲学的な内容ではありますが、よく整理された論述構成で非常に読みやすい本です。

脳科学に興味のある方にオススメの一冊です。