最後の将軍―徳川慶喜 (文春文庫)/司馬 遼太郎- ¥500
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司馬遼太郎が、徳川幕府300年の歴史に幕を下ろした最後の将軍、徳川慶喜を描いた作品です。
坂本竜馬が立案し、徳川慶喜が実行した「大政奉還」。
歴史の授業で習ったとおり、明治維新を成功させ、日本がアジア諸国の中でいち早く近代化にに成功したのも、この大政奉還という大英断あってのことです。
司馬さんが「最後の将軍」に先駆けて書き上げた名作「竜馬がゆく〈8〉 」 の中でも1つのクライマックスとして大政奉還が描かれています。
ところが、今改めて読み返して見ると、1巻近いページを割いて描かれている大政奉還の発案から実現に至るまでの過程の中で、最終的にその決断を下した徳川慶喜はほんのわずかしか描かれていません。
当然と言えば当然かもしれません。
将軍と無位無官の志士、あまりに身分の違う両者には全く接点がありませんでした。
両者の間を取り持ったのは、土佐藩家老後藤象二郎であり、幕府大目付永井尚志です。
坂本竜馬を中心に描く以上、どうしても徳川慶喜を詳しく描くことができなかったのでしょう。
しかしながら、大政奉還を実行したのは徳川慶喜その人にほかなりません。
司馬さんとしても徳川慶喜を書きたい衝動は抑えられなかったようで、「竜馬がゆく」の連載終了直後からこの「最後の将軍」を書き始めたようです。
”アナザー・ストーリー・オブ・大政奉還”、今風に言えば”スピン・オフ”。
「竜馬がゆく」の副読本として興味深い作品です。
ただ、小説としては何とも言えない物足りなさを感じました。
司馬さん自身が徳川慶喜という人物を捉え切れていないのか、あるいは徳川慶喜という人物自身が捉えどころがないのか...
という印象を持ちつつあとがきを読むと、司馬さん自身も書き上げた後にそのような思いを持っていたようです。
どうも歴史上の重要人物ではありますが、小説としては扱いにくい人物のようですね。