4/30(月)3日目
3時に起床。のはずが,なかなかすぐに起きない二人。10分程して,朝飯を食って、5時20分行動開始。雪は,締まって昨日の事を思えば断然歩きやすい。トレースは,二人程度歩いた形跡がある。昨日の二人は,降りてしまったので,他に先をいくパーティーがいた事になる。1時間で独標の取付き。
独標は、直登ルートと,トラバースルートがあるという。千丈沢側にきれいなトレースがついている。時間的な不安もあって,トレースを追う事にした。
直登は,次の機会にしよう。(あるかどうか解らないが?)
さすがに,独標のトラバースは,長いし,かなり急な所もある。昨日こんなところを無理して行ったら,おそらく落ちていただろう。
確実にアイゼンを蹴り込み,両手のアックスを突き立てて一歩ずつ進む。
高度も3000m近いので,10歩も進まないうちに息が上がってくる。もう,2回息をして,一歩がやっと出る程のスピードでないと動けない。
ようやくトラバースを抜けたようで,上に上がって行くとレースに従って行くが,どうも下に降りて,トラバースを続けている形跡もある。ルンゼ状を登るが,途中から氷化してきて,アイススクリューを使った形跡もあるので、それ以上直登するのを諦めて,岩に登って上部を伺うが行き詰まってしまった。
さらに上部に抜けれそうにも思うので,ロープを出して偵察にいく。氷化したルンゼは,右にあり,その左を登ってみるとハングした岩にアングルハーケンが打ってあり,ディージーチェーンがかかっている。それで,支点をとって、右に出て,登って行くとルンゼの上に出る事が出来た。ヨメを引き上げて,一旦クライムダウンして,自分のザックを担いで登ると言う面倒な事をして何とか難所を抜ける。しかし,まだ安心は出来ない。雪面を右斜上して行くと,その下の方に,トレースが見えた。15m程降りるのだが,ここからなら,クライムダウン出来そうなので,トレースに戻る事にした。
二股に分かれていたトレースを間違えなければ,1時間は稼げただろう。
結局独標を越えるのに3時間を費やした。
ようやく独標を抜けると,槍ヶ岳も見えてきた。直線距離は,1キロもないのにどれだけ遠い事か!
北鎌平手前の稜線に日大の文字が入ったテントが雪に埋もれてつぶれていた。
北鎌平で,別のパーティーと遭遇する。どうやら,今年の1月の遭難騒ぎのメンバー達。残置の回収に槍から降りてきたそうだ。掘り起こすのに,3m程掘っていた。
これで,この先はしっかりトレースが保証されていると思うと少し安心。トレースのないルートに足を踏み入れる自信がない自分がいる。
くの字に蛇行した稜線は上下を繰り返し、トラバースと、急登を繰り返し,体力の消耗が激しい。2873m地点で,10時半。既に5時間の行動。
槍もかなり近くなってきた。後ろを振り返ると,登ってきた稜線が少しだけ低く見える。天気は,薄曇り。太陽の直射がないので,雪の状況はまだしっかりして,高度のせいか,気温もそれ程上がっていない。後少しと思ってもまだ半分だろうか?もっとボッカしておきゃ良かったと,体力のなさに反省しつつ,ゆっくりと一歩ずつ前に進むしかない。
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1時に最後の休憩を終えて,二人で,後2時間あれば頂上だ!と言い聞かせて出発。少し,風が出て来て,雪が舞い出したが,天候の急変はない様子。
トレースをたどり,急な雪面をダブルアックスで登って行く。トレースどおりに行けばなんとかなると思っていたら,途中で二股になっている。そのまま左上するか,右に急傾斜のトラバースをして右に抜けるのか?右と言い張るヨメ。左も気になるが,少し右回りに行く方がルートは優しいと聞いたような気がする私。結局トラバースして右の登って行くと雪壁は,急傾斜のまま岩に突き当たり行き詰まる。残置のハーケンも、シュリンゲも見当たらないし立ち往生。いや,雪壁のセミ状態の二人。何とか岩に登って凹角を抜けるしか手はないし,また,空荷になって私が偵察に行く。あばらのように突き出た岩は,ホールドには優しいが,どれが崩れてもおかしく無いような不安がある。何とか上のテラスに出ると、左側の雪面にトレースが見えた。ホットした二人は,トレースに合流する為にまた,急傾斜のトラバース。下には何もないので一切見ないでいや,忘れて行動する。
一つ上のテラスにつくとシュリンゲのかかった支点があった。もう頂上も近い!これを登り切ればおそらく終了だ!途中にハーケンが一つだけあったが,他にはない。ナッツぐらい持ってくりゃ良かったと思いつつも,一手ずつ確実に登って行く。最後の凹角をのっこすと祠が見えた。一人だけ,頂上いた人が,はしゃいでいる私におめでとうと言ってくれた。それからヨメを引き上げて,二人で喜び合った。二人が揃うのを待ってくれていた様子で、写真を撮ってくれて,ようやく完登の喜びが湧いてきた。本当に祠の裏に出ると頂上だった。3時20分。今日も10時間行動か!
薄く霞む空気だが,風も強く無く、周りの山を全て見下ろす風景は,八ヶ岳や,劔も見える。久しぶり快感だ。
本当に長かった北鎌!疲れた分だけ,緊張の分だけ感動も大きかった。
ハシゴを使って降りるのは,今まで以上に緊張し,沢山の人の踏み跡でぐさぐさになっているのでさらに緊張する。重いザックがさらに重くなった様な気がするが,もう槍の肩の小屋はすぐそこにある。
今日は,ここのテン場に泊まって,明日上高地に下山する事とした。
晩飯も作る気力が失せて,小屋食を奮発し,ビールで祝杯をあげたが,疲れ切った体には,350ml缶一本で充分だった。
5/1日(火)4日目
朝は,少しゆっくりして,日の出を楽しむ。周りは,大型のカメラを構えた山岳写真家たちが陣取っている。槍の右側から明るくなってオレンジ色の朝日が昇ってくる。雪が染まり周囲の山のシルエットも薄い紫に。岩登りのゲレンデでは味わえない喜びがある。
上高地まで、7時間程かかる長くてちょっとだるい下山だが,大きなカールは,降りるよりシリセードで,ドンドン滑っていく。もう踏み跡だらけなのでいちいちお尻が痛いが,きれいな尻トレースに乗ると気持ちが良い。下着まで濡れてしまったが,横尾に着く頃には乾いてしまった。
槍平ロッジで行きに話をした小屋のお兄さんに報告。気持ちのいい笑顔を返してくれた。













