疲れた。
勿論、何にと言われても困る。
悩みなら幾らでもあり、それは人間関係だったり、学校のことだったり、恋愛のことだったり、お金のことだったり、未来のことだったり、現在のことだったり、過去のことだったり。
悩みは不安は星の数。でも、一つ一つあげていたらキリがないし、気も滅入る。
だからとにかく、そういうのを全てひっくるめて、だ。
そういうのを全てひっくるめた上で一言で現すと、要するに疲れた、なのだ。
「疲れたなぁ」
遙か中空に浮かぶ半月――これがまた中途半端だ――を、何とはなしに見ながら、ボクはそう呟いた。
「だが、疲れるということは、ある種充実の裏返しじゃないのかい?少年……お嬢さん?」
アマガエルの声が聞こえてボクは視線を地面に落とした。
ちょこん、という表現がどうしようもなく似合うポーズでアマガエル伯爵はボクの方を見上げている。ところで、このアマガエル未だにボクの性別がどちらかわかっていないのか。自分だって両生類のくせに。
「疲労は充実だけから来るものじゃないよ…」
今、ボクは泥のように疲れている。中学や高校は体育会系の部活に入っていたけど、充実から得る疲労はもう少し爽やかだ。気持ち良いということでも良い。
でも、そんな機微を言ったところで伯爵は一笑に付す――別に悪い意味で、というわけじゃないけど――だけだろうから、ボクはあえて話題を逸らす。
「でも、本当、嫌なことばっかりだよ。学校は馬鹿な奴らが馬鹿なことばっか言ってのさばってるし、本人達は自分の馬鹿さ加減に気がついてないし。バイトはこんな時間までこき使われるし、この後帰ったら来週提出のレポートもしあげなくちゃいけないし、っていうか、もう帰ったら12時過ぎるんだけど、マジありえねーわ」
あ、しまった。軽く話題を逸らすつもりが。
なんか言い始めたら止まらない。
「それでバイトで稼いだお金だって生活費やらなにやらで消えていくし、そもそも貯めたって使うところないし、暇があるわけでもないし。昔の友達となんて会えるわけないし、学校卒業したからって、今勉強したからって就職できるとも限らないし、じゃあ、ボクは今なんのために努力してるのかサッパリわからないし、あー」
アマガエルがゲコ、と鳴いた。
「本当、なんのために生きてるんだろうなぁ」
「それは幸せになるために決まってるじゃないか、お少さん」
たぶん、少年とお嬢さんが融合したんだけど、意味がわからない。
「や、そういう綺麗事はいいよ、今は」
ボクは大きく一つため息をついて。
「中学生や高校の時はさ。一生懸命勉強して、大学に入って。努力をしたら、した分だけそれが返ってくると思ってたよ。実際、部活だってそうだったしね」
ボクは一拍おいて少し考える。
「でもさ、なんか今は努力なんて報われないんじゃないかって思えてきた。頑張ることなんて無意味だ。だって、ボクはきっと来年も、再来年も、5年後も10年後もきっと同じ事を言ってる気がするよ。今の悩みとは違うかもしれないけど、結局、ボクは同じように……」
「同じように?」
「同じように、人間関係で悩んで、仕事で悩んで、恋愛で悩んで、過去を振り返って、現在は苦痛で、未来は不安で。一生、そんなことの繰り返し。それを繰り返すために生きていく気がするよ」