「おかしいと思う?伯爵」
「お嬢さんが同性愛者なことがかい?ふむ、正直、両生類であるところの俺にはいまいち同性だ異性だという感情は理解できないがね、お嬢さん。
俺が思うに、お嬢さん自身が『おかしい』と思っているから、そんな質問が出てくるんじゃないかい?」
「だって……普通じゃないでしょ?」
「それはあくまで『マイノリティ(少数派)』だというだけだよ。まぁ、マジョリティを普通だとするならまた別なんだろうけどね」
「伯爵は、アマガエルのくせに言い回しが面倒くさい」
「そこで、難しいって言わないあたり人間様だよなぁ、ゲコゲコ」
「確かに、私自身が普通じゃないって思うから聞いてるけど。で、伯爵はどうなの?おかしいと思う?」
「そりゃ、おかしいに決まっているさ」
「…………は?」
「おかしいよ、お嬢さん」
「…………そこは、普通、『おかしくないよ』って言うところじゃないの?」
「言ったところで、それが一体なんの慰めになるんだい?思春期の興味本位なら、別にかまいやしないよ。その時は、いくらでも応援する言葉を、背中を押す言葉を言ってやるさ、お嬢さん。
だがね、
だが、だよ。
お嬢さんは、本気であの子のことが好きだという。どうして、軽々しく肯定してることができるというんだい。
相手はホモセクシュアルかい?仮に上手く言ったとしてその後の周囲の説得は?一生偏見の目を気にしないでいられる精神力は?なにより、
なによりだ、お嬢さん。
そんな風に偏見と逆風に晒されて、生涯『自分は間違っていなかった』と言える覚悟が。
お嬢さんにはあるのかい?」
「そんなの……やってみなくちゃ、わからないよ」
「そうだね。でも、世の中には、チャンスは一度しかないこともあるし、その一度のチャンスを不意にしたら、一生挽回できないこともある。そんなことは、確かにあるんだ。
勿論、お嬢さんの告白がそうだとは言わない。
でも、そうじゃないとも言えない」
「でも、ネットのみんなは、『おかしくない』『そんなことない』って言ってくれたよ」
「お嬢さん。一体、そんな言葉にどれだけの保証があるんだい?
それは、『この世界に、永遠に変わらない愛はあるのか?』という問いに『(どこかには)あるよ!』と応えるようなものさ。
責任も保証も何一つもない、ただの同意だと。
大丈夫、という言った人たちはきっと自分も経験があるか、お嬢さんを肯定して自分も肯定してもらいたいだけの薄っぺらい同意だよ。
そこに、これから訪れるであろう様々な弊害は一切無い。
そこで苦労するのは、彼らじゃない。お嬢さん自身だからね」
「でも、優しい人たちだよ」
「自分に責任が及ばないなら、いくらだって優しくなれるさ。
お嬢さんだって、もしその言葉に背中を押されて告白して、失敗したとしても『あの時、あんな風に言ったから』なんて言わないだろ?
勘違いしちゃいけないのは、誰かが認めたからといって、それがマジョリティから肯定されたわけじゃないということさ」
「……じゃあ、どうしたらいいのさ」
「自信と自覚を持つことだと、お嬢さん。少なくとも、誰かに聞かなきゃ不安だ、なんてあやふやな覚悟じゃ、どのみちなにも上手くなんかいかないよ、」