中国ドラマ春花秋月その後番外 胡蝶の夢2 | **arcano**・・・秘密ブログ

**arcano**・・・秘密ブログ

韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
bigbang winner ikon ユンウネちゃん、李宏毅君 趙露思ちゃん、藤井美菜ちゃん応援しています。
※アメンバー申請は暫くお休みします

秋月は谷を見渡しながら蝶瑶の報告を聞き、感じ取っていた違和感に確信を持った。


『邸に戻る…』


『はっ……』


『お前はどうする?蝶瑶。』


『え?あの…私は…部外者で…此処から先は秋月様の領域で…葉顔洞主もくれぐれも不用意に立ち入らぬ様にと…あ』


洞主となった葉顔は任を解いた後も蝶瑶が警備を続ける事は想定内であったのだとそれを見越して放任されていた事に気付き顔を上げる


『であろう?経験に勝る学びはないぞ…』


『はい。ご迷惑でなければ私もお供させて頂きたいです…』


『……』


秋月は無言で背を向けると。蝶瑶は遅れを取らぬ様に急ぎ後を追った。


谷へ向かいながら徐々に足取りは重くなる。


『何だか…いつもと森の様子も違ってみえますね』


『……』


『異世界の様だ…』


蝶瑶は湧き出す恐怖心を振り払う様に呟いた。

先を急ぐ秋月も訝しながらも進み行く。

しかしその肩や背、とうとう足にまで重い重力がのしかかったように動きを封じられた。


まるで目には見えない壁があるかの様に先に進む事を阻まれた。


『な、なんですか?秋月様…足が…動かな…』


狼狽する蝶瑶

そして何処からか何者かがこちらに向かう気配を感じる。


『!?』


当たりを警戒する秋月

掌に風を巻き起こし気配に向けて放とうとする。


『久しぶりだな…上官秋月洞主…』


立ち込めた霧が集まり塊となりやがてもやもやと蠢きながらそれは人の形を形成し秋月の前に現れた。

そして対峙した秋月に向かい不敵な笑みを浮かべた。


『いや、そうか今はもう洞主ではなかったな』


『お前は…傅…楼?』

普段は沈着冷静な秋月も流石に驚きの声をあげた。


『ははは幽霊でも見たような顔をしておるな。まぁ間違いではないが…』


『…何者だ?傅楼の姿に化けた狐か?妖か?』


『流石に動じる事はないな…私は狐でも妖でもない…かつては江湖の覇権をめぐり争った仲ではないか』


『………』


『信じぬならそれでも良い…ただ1つ…許してもらいたい事があって会いに来たのだ』


『許してもらいたい事?…』


『…1つだけ叶えたい事だ…死してなお見苦しいと思うかも知れぬが…』


『………』


『信用できぬのは無理もない…信じぬならそれでも良かろう。妖の戯言でもどう受け取られようが構わぬ。とにかくお前に1つだけ…頼みたいのだ』


『………』


『?秋月様…この方は…』


『…かつてこの伝奇の谷を治めた谷主。傅楼だと本人は言うておるが』


『……傅楼…確か随分と前に妻遊絲と共に亡くなったと…確か文献では長生果争いだったかと…』


『……』


傅楼は若者の発言に眉を顰めた。秋月はどちらにも応えはしなかった


『で?願いとは何だ?』


『秋月様…そんな安易に信じるのは危険です…』


『……話を聞くのと願いを聞き届けるのはまた別の話であろう?聞いても得もなさそうだが損もない』


『ははは。相変わらず無駄のない男だ。大した事ではない。ただ、時々で良い家族であの谷の端にある大岩に参ってはくれぬか…』


『??大岩とは……時々我が洞主もふらりと行かれますが…何があるのです?』


『…墓という訳ではないが…の様なものとでも言おうか…春花はよく彼処に傅楼の奥方遊絲に花をたむけに行っておったが…葉顔は恐らく雇晩の為に行って……雇晩は謀反人故墓がない。だが春花が…ああ、確か雇晩はお前の親戚だったな』


『はい…』


『傅楼…何故今そんな事を言い出したのだ。春花も子供達を連れて行っておった筈だが…』


『…罪に苦しむ妻を見たくないのだ。出来れば救いたい』


『???』




『私達夫婦は子を持てなかった。それに関しては私は後悔してはいない。袁掌門の度重なる折檻や飲まされた毒によって望めなかったがそれでも良かった。だが、遊絲はそうではなかった。私に…家族をつくってやりたかったと悔いておった…妻の願いを叶えてやれもせず、命も絶たせた…最後まで守りきれなかったのだ』


『……それで?』


『秋月様…これは罠ですよ…』


蝶瑶は耳打ちをするが秋月は僅かな表情も変えなかった。


『春花殿は優しく心温かで明るく妻に接してくれた…遊絲も心を開いていた…時々花を手向けてくれているのは感謝している。ただ妻は…自ら命を絶った事からある一定の場所から離れる事が叶わないのだ…』


『??』


『私と同じ場所には来る事ができない。私はある条件の元で妻の場所まで行き来する事が出来るのだが…妻は生きていた時の苦悩をそのまま足枷として今もなお苦しみながら泣いておる…それは念となり自縛するのだ…この場から離れる事叶わず彷徨う魂となる…』


『??…自ら命を絶った?』


事情の分からぬ蝶瑶は文献と違う事実に首を傾げる。秋月は仕方ないという風に溜息を吐いた。


『あの時……春花は遊絲を救おうとしたが…遊絲は既に絶命していた傅楼を前にし夫の居ない人生など無意味だと自らの手で死を選んだ…

あの頃妻の命を救う為だけに生きた谷主の思想は疑問だらけであったが今なら理解できる…』


『しかし…秋月様、家族で慰めに参れとは…もしかして陥れる罠では…一網打尽に命を狙われておるかも知れません』


『……』


心配する蝶瑶を睨みつける傅楼は諦めた様に笑った


『こんな頼みをするのはおかしな話だ…だが…頼めるのは上官秋月。其方しか思い浮かばなかった…』


『もしも…家族で参れば何が変わるのだ。ただ遊絲夫人の慰めになるだけか?』


『自ら命を絶った者は徳を捨て不徳を得る。しかしその死を悼み供養の気持ちを持つ者に触れる事でその最大の犯した罪の贖罪になるのだ…そうすれば遊絲は苦しみから解き放たれる…それ程に罪深い事なのだ。だが妻は何も悪くない…私が守れなかっただけなのだ』



『……分かった』


『!!!し、秋月様っ』


『蝶瑶。この傅楼は…本物だ。死しておるが目の前にいる。』


『な、何故わかるのですか?』


『この男の願いは自身の事は1つもなく、全て妻の為の願いだ』


『たしかにそうですが…』


『生きておる時も死した後も…願う事はただ妻の事ばかりで相変わらず変わっておらぬ』


秋月の言葉に傅楼は笑った。


『其方に分かって貰えるとはな…変な気持ちだ…』


『傅楼。お前の選択は正しかった。こんな事は私しか理解できぬだろうよ。およそ鳳鳴山荘の襄白など頭が硬すぎるからな』


『はは…有難う…変な気持ちだが其方とは似たような魂を感じるのだ』


『似た魂?秋月様とですか?それはどういう部分がでしょうか?我が千月洞元洞主秋月様はそれこそ絶世に妖艶なるお姿ですよ?そちらは…その…失礼ながら無骨で…およそ美男子とは程遠い…』


蝶瑶は大胆な失言に気付かず思ったままを素直に口にする。


『……現洞主葉顔は部下の教育が疎かになったものだな…』


『許せ…傅谷主と似ておるなど…私は光栄だ』


『何?』


『え!?』


『春花は傅楼遊絲夫妻を理想の夫婦と慕っておった。今も尚そうだ…そして私はその夫の其方と同じで妻以外目に入らぬ』


『確かにそのようだな』


『成る程…勉強になります』


蝶瑶の生真面目な返答は場を和ませる


『……後継教育も大変な様だな…』


『ああ、今は伝奇谷の部下達がこの蝶瑶と肩を並べて千月を支えておる』


『そうか……蝶瑶と申したか。身勝手な主であった私が言うのもなんだが部下達をよろしく頼む…』


『はい…分かりました』


何処からか冷たい風が吹き始め立ち込めた霧は晴れていく


『どうやら時間が来た様だ……秋月…どうか……頼む遊絲の心を……救……くれ』


かつての谷主傅楼の姿は晴れた霧と共に霧散した。


胡蝶の夢3へつづく