春花秋月その後番外 愛とは2 加筆修正済 | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
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『李漁よ…必要なものを持っていけ。奥には薬草があるから勝手に持ち出せばよい』

李漁は書斎らしき部屋の奥に更に小さな扉がある事に気付いた

『ああ、この奥が洞になっていて氷室の役目をしているんですね。毒を保存する為です?』

『毒も使いようで薬になる事も知らぬ医者か…弟子のデキの悪さに医聖も嘆くだろうな』

『……』

『李漁どの、必要なものを分けてもらうのだ、失礼は控えよ』

流風は深く考えずに思った事を口にする李漁に苦言を述べる。

『…はい』

『気にせずとも良い。妻に触らせぬと言う夫に自尊心を傷つけられたのであろう?しかしそれは普通の事ではないか?流風。どうだ?冷凝が己以外の男に触れられて許せるか?』

『……確かにあまり良い気分ではない』

李漁は不本意な答えに首を傾げる。

『では李漁よ、お前は風彩彩が他の医者に罹ったらどうだ?』

『…確かに…言われてみれば今まで気にならなかったが、それなら女子の医師が育てば良いな…』

『そういう事だ』

『しかし少しばかり驚きました。秋月殿は思っていたより育児に協力するのですね…どの家も大抵は女がする。秋月殿は千月洞の洞主だった程だがそういったものも自らやるとは…珍しい。ひょっとして千月教というものがそういうものなのですか?』
医師としての素朴な疑問を投げかけた。

『私以外に春花を助ける者がいぬからな。それに…千月の教えも何も父の記憶もない…父親はどうするものかもどういうものかも分からぬ』


『ああ、そうでしたかそれは私も同じで母しかいません。父代わりは医聖でしたがそれも物心ついていました。私を育ててくれたのは母親しかいませんね』

『育ててくれる母がいたなら良かったではないか。私は千月洞の氷谷に育てられた…言わばあそこの氷が母親みたいなものだ。』

『秋月殿はしかし、上官恵が…』

『ああ、あの女は私を生みはしたが育てたというのは間違いではないか?
思う通りの言われた通りの事が出来ぬ間は牢に閉じ込め何日も食事もない。術を磨き四方八方からの攻撃を常にかわすべく緊張を解かず、刺客を送られ誰も信用できぬ事を叩き込まれた。
お陰である意味強くはなった…育みはしていないが…ああ、しかし確かにお前達が思う【残虐で卑劣な千月洞の洞主上官秋月】を育てたのはあの女かもしれぬな……ん?流風?何だその顔は』

『………母親にそんなむごい扱いを受けてきたのか?』

『さぁ、むごいかどうかは分からぬそれが普通だったからな…蕭原が死んだ時、あの李剣凌が汚名をそそぎたいと言っていたが…汚名も何もその通りの女だと本音としては思っていた』

『ん?確かに李剣凌殿の話があったが…あの時あの場にいたのか?いや、蕭白の一大事だお主自ら様子を見に来る事もあるだろう…それにしても長く疑問に思っていたが今の話を聞いて春花殿がお主を愛した理由が分かった。それに、お主が春花殿を命を賭しても救った理由もな』

『…流風殿誠ですか?私には分かりませんが…白盟主を選ばず秋月殿を選んだのはてっきり命を救ってくれた恩義かと思っていましたが誤りであったと?』

『………』
秋月は李漁の無礼な発言に何も言えなかった。
違うとは思いたいが言い切れる程の自信はない。
散々疑念や嫌悪の言葉を受けてきた。そんな春花が何故傍に…思わない日が全く無いわけではなかった。

『春花殿が【恩義】で人生を決める事は恐らくあるまい。李漁殿は春花殿と付き合いが短い故知らぬのだ…その点私は春花殿を見てきた。
彼女は初めから白盟主を好きだったし、盲目的というべきかそれは記憶喪失の不安からなのか花家の家族を失ったからなのかは分からぬがそれは純粋に蕭白を想っていた。その事は勿論秋月殿も分かっておろう?』

『……ああ、私にとっては愚かな妹でしかない』


『蕭白を追いかけ、未来の夫だと思い込み…誰の言葉もすぐに信用する…私と言う兄に守られていなければ春花は簡単に餌食になる所だ』

流風は扇子を広げながら笑う。

『はは…面白い。春花殿はそなたがついた【兄】という嘘に頼っておったのだな。
毎回何かあるごとに事を裏で糸引きつつお主は春花殿をいつも助けてきた。お主が絡んだと思う事に目星をつけていたのだが恐らく風彩彩殿の蒲公英の毒もそうであろう。あの解毒薬はお主が春花殿に渡したのでは?』

『如何にも……だがそれがどうした?…春花が初めて自ら私を呼んだのだ。
蒲公英の解毒を欲しがっていたが蕭白の為ならば聞かなかった。だが春花は自分の為だといった。』

『やはり魔教に通じる女子だったんですね春花殿は…どうやって魔教の頂とも言われる秋月殿を呼び出したんだ?』

『自らを木に縛りつけた。困っていれば私が助けに来ると思ったのだろう』

『だが、実際には?』

『ああ、見ていた。愚かしくも愛らしい短慮な所だ。しかしあざとさもある。千月洞の毒を酒に盛って私に飲まそうとした。
それ程蕭白を救いたいのかと腹も立った。私の信用を裏切った春花を憎みもしたが…』

『しかしお主は結局憎み切りもできずに解毒を渡したではないか。それどころか春花殿が疑われぬように配慮もした…それが情ではなく何だと言うのだ?』

『……そうか…情に動かされぬと思っていたがそれも情なのだな』

秋月にはこれまで感情を動かす事がなかった。
それが何という名の感情でどこからくるものなのかさえ知る由はない。
誰からも教えられず生きてきたのだ。


『李漁殿。彩彩殿と出会えたのは秋月殿が解毒薬を春花殿に渡したからだぞ。それがなければ今の彩彩殿はいない』

『………』

『それにしても千月洞に出入りしましてや解毒薬を持ち出そうなど…大胆な事だ…白盟主があの大胆さ、無邪気さ真っ直ぐな所に惹かれたのも頷ける』 

『妹の良い部分は余り知られたくはないがな…』

『秋月殿は嫉妬心が強いようだ』

李漁は驚いた

『嫉妬?蕭白に?私が?あり得ぬ』

『いや、蕭白にだけでなくこの私や此処にいる李漁殿に対しても春花殿の事は知らせたくないと思ったのであろう?愉快な事だ上官秋月ともあろう者が、人の心を操る魔教の長が嫉妬心も分からぬとは…白盟主に恋をする春花殿は見ていたくはなかったのではないか?』

『………そう言われれば妹が蕭白の名を呼ぶのは仕方ない。ただ気分が悪かった。愚かな妹は蕭白と会話する時妙に輝く…頬を赤らめる姿もいちいちと苛立ったものだが』



『それが独占欲からくる嫉妬心だ…秋月殿も1人の男だな。そうか、だから結婚式の時たった1人共も従えずに乗り込んできたのか、長生果に目もくれず春花殿を連れ去った。2人の結婚はさぞ焦ったであろう?』

『………記憶にない』

『記憶にないほど怒り狂っていたと…確か長生果の為に人を集めたんではなかったですか?』


秋月は余計な口を挟む李漁を睨む
流風は溜息をついた。

『まぁ、そう思われても仕方がない。結婚の儀を口実にして諸悪の源、長生果を皆の前で消滅させる算段であった。それが…あんな事になろうとは』

『蕭白が選択を誤った……春花は謀に利用される事を嫌う。蕭白が春花の心を離した理由の1つだ…私はその隙を突いただけだ』

『白盟主は最後まで渋っていた。春花殿を本当に愛していたからな…素直に喜ぶ彼女を傷付けたくないと…だが武林の平和の為に渋々了承したのだ』

『だが、それは結果的に春花と正義を天秤にかけ、正義を取ったという事であろう?』

『そうなる。我々は勘違いしていたのだ…そなたが、上官秋月の目的が長生果ではないとは言い切れなかった…だが目的は春花殿だったのだな。花嫁を盗まれた後に蕭白盟主の本当の悲しみを知って胸が痛んだ…』

『春花はもっと辛かったぞ…ずっと泣いていた…面子を潰されたあやつを思い涙するなど笑止。人を集める事に利用された事にも傷付いていた』

思い出せばあの時感じた様に苛立ちが湧き上がる。

『……秋月殿は…何をおいても春花殿なんですね?美しいとは思いますが心奪われる程の絶世の美女だとは思えないのに…白盟主や秋月殿の心を奪うなんて…もしかして本当は花小蕾ではないのではないですか?昔花家の家に出入りしていた医師の友人は一度出戻った春花殿の様子にとても小蕾様と思えないと、同一人物だろうか?と家人が噂していたと言っていました』

『あぁ、そうであろう。本当の花小蕾は恐らくもう居ない。本当の花小蕾は春花とは真逆の女だ…医聖の元で目覚めた女は全く別の人間だった。葉顔があの女の息の根を止めたか確かめにいき、横たわる小蕾が目覚めた時は驚いた。これも面白いと様子を見て記憶の無い事も利用できると近付いたが…まさか中身があんなに人間味があるとはな』

『ああそれで兄妹と?確かに小蕾殿の記憶喪失前と後は人が違うと耳にしている…だがそんな事があるのか?』

『死んだ人間の骸を操る針があるくらいだ。魂の入れ替わりが起きてもおかしくはない…外側などただの入れ物だ。春花は春花だ…愚かで素直で…だが人の痛みが分かる、他人の痛みに我が事の様に傷つき、そして思い遣る優しい女子なのだ…
彼女の温もりは離れ難い。肌は柔らかで甘くて美味だ』

『…び、美味とは…また…』

李漁も流風も気まずさに俯く

『?美味とは美味ではないか?流風は冷凝を甘美とは思わぬか?』

『か、甘美…とは…ま、まあそりゃあ…』

扇子を激しく振り回す流風を秋月は笑った


『雪蘭を間に入れて向かい合うあの幸福はこれまで知らなかった感情を生む。胸が熱くなりそれと同時に喪失が怖くなる…得体の知れぬ感情だ。雪蘭を守る様に抱いて眠る春花を見ると誠の母とはこういうものかと、己と我が子との差に絶望と羨望が生まれる。そして2人をこの胸に抱きしめて眠るのが至上の幸福だ』

『幸せなんだな…秋月殿は』

『……それを思えば蕭白盟主も医聖の元で目覚める以前の花小蕾殿だったら心は奪われなかったかも知れませんね…心を奪われなければあんなに生気を無くす事もなかった。あの場所で八仙居で春花殿と出会ってから始まった長い旅路が未だ白盟主の中で終わりを遂げてはいぬようだ。
心を強く奪われたからこそ、その喪失した痛みが大きい』

『春花殿は秋月の中に孤独に涙する心を見つけ、心配し想うようになり愛した。お主は春花殿の無垢な心に触れ人の温もりを知り、そして手放したくなかった。それが愛だ』

『幸せとは何だと思ったが…春花の存在によって心が満ち足りたものになる。訳のわからぬ感情で厄介だ…』

『お、あちらの部屋では雪蘭と清流が泣き始めたぞ…早く戻らねば冷凝に怒られる…女子は子を産むと何故ああも強くなるのだ』

『冷凝は元から気が強い…今に始まった事ではなかろう?』

秋月の言葉に李漁と流風は思わず笑った。

『おい!男ども何をしている!奥でコソコソと、女子ばかりに家事をさせるな』

冷凝の叱責がこだました。