中国ドラマ 春花秋月その後物語 5 | **arcano**・・・秘密ブログ

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秦流風と冷凝の息子清流は炎輝から知らせを聞き蕭白の邸へ急いだ。

雪蘭とは赤子の時分より筒井筒の関わりである。
稽古場でも共に学ぶ雪蘭には誰もが一目置くほど華麗で繊細な容姿とは逆に猛々しい一面もあった。
冷凝の武芸場には医師である夫李漁の補佐をこなしながら風彩彩も師を務めている。
精神面に於いても年齢に似合わず落ち着き払う雪蘭を見てきた。
どんな事が起きてもどこか捉え所のない雰囲気で同じ子を持つ母としていつ何時でも取り澄ました雪蘭を心配もしていた。
 
その、子供らしくない雪蘭が戦いの後父母である春花と秋月を目にするや安堵し号泣するのを見て胸を撫で下ろした。
 
『やはり子供なのだな…雪蘭も。』
冷凝と風彩彩は見舞いの後部屋を後にし、彩彩とかって知ったる邸の庭を歩いた。
ふと目を留めると薄紫の桔梗が風に揺れている。
 
『それにしても、春花さんは天真爛漫で思った事を口にする性格。雪蘭の奥ゆかしさはどこから?という事はもしかして雪蘭は上官秋月に似ているのかしら。冷凝はどう思う?』
 
『いや、流風に聞いたが秋月はかなり歯に絹着せぬ性格で大胆に春花どのに迫っているのを見たと…大体あやつはかつて敵対していたこの鳳鳴山荘にも平気で好きに出入りしていた。不届きにも程がある。その事を踏まえても秋月が大人しいなどは思えない』
 
『確かに…』
2人は庭に通る風に春花の居た季節を思い出していた。
 
『しかし、あの無謀さは春化殿に通ずるものがある。単独で実践もないのに男達に立ち向かっていくなど・・・』
 
『私の為に秋月を騙そうとしたと聞きました。』
 
『蒲公英の毒の時だな・・・本当に無鉄砲だった』
 
『けれどおかげで救われました』
 
『そうだな。やはり大胆不敵なところは2人にそっくりだということか。性格は静かだがな。
所で春花殿は産後間もなく体力がかなり落ちている様だが…お子は・・桃雨は大丈夫だったか?』
 
『あんな事があったにもかかわらず怪我もなく元気で今緑袖が見ているようです。春花さんが守っていたとはいえ全く元気で。
雪蘭や炎輝とは違った意味であの子もまた随分と強大な力を備えているかもしれませんね』
 
その受け継がれた力のためにこの先に降りかかるであろう何某かについて2人は憂えた。
 
『母上!雪蘭は?雪蘭は何処に…あ、彩彩先生こんにちは』
 
背後から現れた息子に驚く冷凝。
彩彩は頼もしく成長した清流に笑顔で会釈を返した。
 
『清流。稽古はどうした?ここは蕭白盟主の邸。子供のお前が気軽に出向いて良い場所ではない』
 
凛とした顔立ちは母親によく似ている。一拍の呼吸も終わらぬ内に清流は答えた。
 
『雪蘭が怪我をしたと炎輝に聞きました。稽古場にいた皆も心配しています。
心配で稽古に身が入らぬ故私が代表して見舞いにやって参りました』
 
『…清流は父上に良く似て弁が立ちますね』
 
笑う彩彩に冷凝は眉を顰めた。
 
『仕方ない。千華軒だ』
 
『千華軒?盟主の部屋に?何故です?』
 
『盟主が急ぎ運んだのだ…』
 
『…急いだからって何故…盟主の部屋なんだ』
 
『何をこだわっている?しかし雪蘭は目を覚ましたぞ。もう大丈夫だ…何もお前が行かずとも…』
 
『いえ、雪蘭の無事な顔を見るまでは安心できません。では、見舞って参ります。』
 
礼をし進もうとしながら清流は足を止め振り返る。
 
『あ、、それから母上。先程の話ですが…』
 
『ん?』
 
『盗み聞きではなく母上達の声が大きかったせいで聞こえたのですが、雪蘭はおとなしい訳ではありません。本当は良く笑うし泣きもする。普通の娘です。だが常に力を制御するのに大変な苦労をしています』
 
『清流?どうした急に…』
 
『本当の雪蘭はか弱く強がりだ・・・』
 
冷凝と彩彩は目を見合わせた。
 
『では失礼いたします。母上、もし良ければ雪蘭はうちで静養させて下さい…私が面倒見ますので…では』
 
『なんだ?あれは』
『冷凝分からない?』
 
『近頃まったく考えが読めぬ』
首を傾げる冷凝を見て笑う彩彩
 
『どうやら息子は…雪蘭の事が好きらしい…』
 
柱の影に隠れていた秦流風は登場と共にその手に持った扇子を開いた。
 
『流風!盗み聞きか?親子揃って無作法な』
 
『盗み聞きではない、女子の噂話の声が小さくないのは神代から変わっておらぬものだ』
 
『ふふ。本当に親子そっくりですね…好きな女子に一直線という所もですか?』
 
彩彩の言葉に流風は大きく頷いた。
 
『でまかせを言うな!清流が一途だとしたら私に似たのだ。しかしまさか清流が雪蘭を好いておると?
いくらなんでもまだ早いだろう。まだまだ武芸に励む段階だぞ』
 
3人は駆け出した息子の背を微笑ましくも案じながら見送った。
 
『しかし…良く見ているな清流は』
 
『雪蘭の事ですか?』
 
彩彩に流風は頷いた。
 
『ああ、先程雪蘭の落下を見つけ駆け付けた時、周辺にあった木々が吹き飛んでいた。恐らく力が奥義並に解放されたのやもしれん。力を抑える事が難しい程雪蘭の潜在的な能力は凄まじい。長く兄妹の様に育った清流と雪蘭だが…清流の恋は少々難しいかも知れぬな』
 
冷凝は急に押し黙った。
 
『冷凝、なにかあった?』
 
『いや…確かに雪蘭は時に爆発的な力を出す。内緒にしていたが…清流が雪蘭の暴走を抑える為に大怪我をした事があってな』
 
『そんな事が?いつだ?』
 
『稽古中だ。親善試合の相手が他派の格上で終了の合図を無視して倒れている炎輝をなぶろうとした。私が止めに入ろうとした瞬間に強い波動で相手が吹き飛んだ…1人や2人ではない。相手の一派もろともな…しかし雪蘭は止まらず誰も手も出せなかった。私でさえ近付く事が難しかった。』
 
『それで?』
 
『外で稽古していた清流が静かに入って来てな、雪蘭の腕を引き身体を抑え暴走を止めたが…清流は大怪我だ。泣きながら雪蘭は何日も見舞いに来たが…大人になれば力を抑える術を知ると教えたんだがな…今思えばそれ以前から力の暴走はあったのかもしれぬ…清流は妙に落ち着き払っていた』
 
『そうですね。あの時は私も外で稽古を見ていたのに突然酷い重力で立つ事もままならなかった…雪蘭はここで私達に武芸を叩き込まれ、千月洞の技も術も知識もある…確か千月洞洞主は…』
 
『ああ、私の従妹だ。あの葉顔が術の師でもある…言わば陰と陽の気があの小さな身体に根付いているのだろう。並大抵の事ではなかろう』
 
『成る程…雪蘭の背負う業は深いという事か…』
 
『……』
 
大人達は負の因縁が負を呼ぶのではないかと不安に襲われる。
古くは千月洞の前身、星月教の南星河を蕭家初代盟主が謀り、滅した因縁から始まった。
記憶に新しいのはあの蕭白の父蕭原と秋月の母、上官恵の因縁だ。
全てが繋がり絡み付く負の因縁に憂う大人達を他所に、清流は雪蘭の元へ急いだ。
 
千華軒の戸は開放されていた。
 
『雪蘭!!大丈夫か?』
 
『清流?』
 
部屋には雪蘭の父母である秋月と春花、それから邸の主蕭白が雪蘭を囲んでいた。
こちらを見つめる雪蘭の目は赤く、濡れた頬に清流は何故か胸が痛んだ。
 
『な、な、雪蘭どうした泣いてるのか?どこか痛むのか?ひどい怪我なのか?』
 
駆け寄る清流に秋月は眉の端を上げる。
我物に意識下の異物混入を敏感に感じ取るそれは父性の成す直観によるものである。
 
『………』
 
『清流…来てくれたの?大丈夫よ。それよりも白盟主にご挨拶は良いの?』
 
『あ、そうだ。失礼致しました。白盟主、こんにちは。お騒がせして申し訳ございません。
秋月様と春花様。お久しぶりです秦流風が息子、秦清流でございます。』
 
『まぁ、清流?ここ半年で随分背も伸びて…いつも炎輝を相手してくれてありがとう。炎輝は清流が好きでいつも後ろをついて回って…私はとっても楽になったけど貴方は大変でしょう?』
 
春花は微笑んだ。
その表情は時折見せる雪蘭のものとよく似ていて清流は目を見開いた。
 
『どうした?春花の顔が面白かったか?』
 
『え?私が面白い?』
 
『あ、いや…違います。雪蘭と似ててびっくりしてつい…』
 
『見惚れたのか?春花も雪蘭も私のものだ。あまり見るな減るであろう…』
秋月は春花の前に立ち清流に威嚇した。
 
『相変わらず仲が良い・・・』
 
蕭白は視線を外した。
それを確かめ秋月は、春花を腕に引き寄せる。
 
『ちょっと!子供の前で恥ずかしい。清流にまで威嚇して…蕭白もいるのにふざけすぎにも程があるわ』
 
『そうかな?清流には手解きを、蕭白盟主には威嚇を…これは私がふざけているのか?』
 
顔を近づける秋月に春花は仰反る。
 
『……』
 
『あはは…清流の顔!母上と父上はいつもこうだ…驚いたか?』
 
雪蘭は声を立てて笑った。感情を表に出さぬ雪蘭の笑い声は鈴の音のように高く澄んでいた。
秋月や春花、幼き頃より遊びに付き合ってきた蕭白すら驚くが清流だけは気に留める事はなかった。
 
『ああ、父上のように明け透けと物を言うのは母上が嫌いがるのだが…私もどちらかと言えば心の内は秘めないでいたい』
 
『清流は秘めた心などないじゃない。いつも明け透けで冷凝先生が怒っているじゃない』
 
『そう言う雪蘭は秘めすぎだ。まあそれでも私にだけは明け透けでいるから嬉しいけど』
 
明らかに2人の空間になっている。
 
『清流と雪蘭は仲が良くて嬉しいわ』
 
春花は疑いもせず無邪気に2人の仲の良さを喜ぶ。
秋月はそんな気になる筈もなく、蕭白もまた口を閉ざした。
 
『あの…蕭白盟主、もし良ければ雪蘭の体が動くなら我が秦掌門邸にて静養させたいのですが…父や母には了解を得ています。雪蘭のご両親は如何でしょう?』
 
『何も今無理に動かさずとも大事を取ってからでも良いのではないか?』
 
蕭白は提案する。
 
『しかし、ここは白盟主の部屋では?この雪蘭が寝ている床もそうではないですか?私はそれが……嫌な気になるのです』
 
真っ直ぐな目で胸の内を明かした。
 
『ほう、秦流風の息子にしてはなかなか良い所突くな。ここに滞在するのは私も虫が好かぬ。それには賛成だが心配はいらぬ。
雪蘭は今日連れて帰るつもりだ…良いな?雪蘭』
 
『あの…父上。質問してよろしいですか?』
 
『なんだ?』
 

 
『私は…家に帰らない方が良いのではないですか?』
 
『何故そう思う?』
 
『千月洞のいざこざもですがそれにより私の制御できない力のせいでこれを欲しがる者達が又いつ襲ってくるかも知れません…未熟で情けないですが…』
 
『それは私も考えていた。秋月殿、春花殿が宜しければこの鳳鳴山荘で過ごしてはどうだろうか…』
 
『蕭白…』
 
『それは一時的にですか?』
 
『雪蘭?どう言う意味だ?』
 
『はい。出来れば此処にずっといる方が良いのではないかと…』
 
『こちらは構わぬ。春花殿が使っていた部屋【春芳斎】が空いている』
 
『ふん…花小蕾が逃げる時に火を着けた堂だろう。縁起が良くない。他の部屋は無いのか?』
 
『ちょっと!あの火事が花小蕾の仕業だって蕭白は知らないのよ』
 
夫婦はこそこそ耳打ち話をする
 
『??縁起が良くないか?確かに一度燃えたものだからな。では別の部屋を急ぎ作らそう…それで良いか?』
 
『一度燃えただけではない、結婚するつもりだった女子にまで逃げられたではないか』
『余計なことを言わないの!』
秋月の口を手で塞ぐ春花
 
『はい…それから白盟主にお願いがございます』
 
『なんだ?』
 
『はい。白盟主。私を妻にして下さい』
 
『!!!!』
 
『!!!!』
 
『なっっな、なんと?』
 
『雪蘭?どうしたの?何故そんな話を…』
 
清流は言葉も出なかった。
 
『はい。こちらに住むだけでは影響力はさしてありません。鳳鳴山荘の荘主である蕭白の妻ならばこの江湖の誰もが手出しはできぬかと…』
 
『馬鹿を申せ!許さぬ!』
 
秋月は怒りを露わにした。
 
『蕭白盟主。誰か決まった方がいらっしゃいますか?それとも何か困る事でも?』
 
『…!?』
 
『いや…それは…決まった者もいないが、誰とも所帯を持つつもりは実はないのだ…この血を継続させる事にも意義を感じない』
 
まだ母上を想っているのですか?』
 
『せ雪蘭?!』
 
『もしもそうであっても私は良いのです。江湖武林の長の妻が魔教の元洞主の娘。この看板さえあればそこに夫婦の情愛があるか無いかはどうでも良いのです。ただ、私は蕭白盟主を尊敬しています。それでは足りぬかも知れませんが…』
 
『何を申すか!夫婦の情愛?まだ年端のいかぬ16の娘に何がわかるのだ』
 
秋月は怒りで拳を握りしめた
 
『この平和が守れるならばそれで良いのです』
 
『雪蘭…なんでそんな…うちに来れば良いじゃないか。うちなら師の母上も父上もいる…炎輝だってしょっちゅう来てるんだ…なんでそんな事になるんだ…』
 
『清流…でも何かあったらおじさまや冷凝先生にご迷惑をかける事になる…』
 
『蕭白盟主だって同じだろ?』
 
『白盟主なら…私が言っている言葉の意味が分かってもらえる筈』
 
『清流、落ち着いて…雪蘭も…今はショックで正常な思考ができないのよ。あなたも興奮しないで頂戴』
春花は清流の背を摩る。
 
『……雪蘭、そなたの考えは良くわかった。それを踏まえてどうすれば良いか父上や母上とよく相談しよう。』
 
蕭白だけは静かに雪蘭の話を受け止めた。
 
『雪…お前がそう決めたのならもう俺はお前の前には現れない…もう…好きにすれば良い』
 
清流は雪蘭に向けて怒りの気を放ち浴びせ部屋を後にした。
しかし清流の放った怒りの気は雪蘭に届いた時既に別の気へ変化していた。
それが深い悲しみの気だと気付き、雪蘭は清流の絶望を知った。
放った己の言葉がどれ程のものだったかと罪悪感に苛まれた。
 
『雪蘭…ともかく、今日は帰りましょう?』
 
雪蘭は首を振った
 
『どうして?何故なの?』
 
『私が力を制御出来ないために母上を酷い目に遭わせてしまった…だからきちんと力を抑えられるようにならないと家には帰らないわ』
 
『そんな…』
 
雪蘭の覚悟を決めた様子に誰も考えを覆すことはできないと悟った。
 
 
その後物語6へつづく