中国ドラマ 春花秋月その後物語 4 | **arcano**・・・秘密ブログ

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伝奇谷の周辺は深い森、断崖に囲まれている。
すり鉢の様な地形で外敵は森で惑わされ、この途方もない断崖で絶望する。
 

春花の希望は【安全より平穏な日々が欲しい】であった。

そのどちらも秋月は念頭に置きそれを実行している。
傅楼の妻游絲が愛した花畑をこの断崖から眺めるにつけ、かつて魔教を二分した伝奇谷の谷主傅楼の気持ちが理解でき、ただただ愛する為に生きた強き者であったと改めて尊敬の念
 
春花が子供達と歩いているのが見える。ただただ脇目も振らずまっすぐ歩く雪蘭、前後左右動き回り好き勝手に行く炎輝。そんな2人に翻弄される春花は衣を翻し游絲の花畑を舞っている天女の様に見え秋月は目を細めた。
 
『相変わらずでございますね』
 
『葉顔か?…ああ春花は相変わらず子供達に振り回されておる。それをこうやって見るのが楽しいのだがこんな所から覗かれていると分かったら怒るだろうな』
 
『はい。皆さまお変わり無いようで安心しました』
 
『最近では何故か蕭白が流風と共に訪ねてくる…周辺を見回ると言う名目だが嫌な奴だ。我が子達と楽しげにしているのを見ると苛立つものだが、あのままもし春花と蕭白を結婚させていたらもしかしたらあの子供達に囲まれているのは奴だったかも知れないな』
 
 
『いいえ、【今】が全てです。もしもの未来はないかと…』
 
『ふん。そうだな。で?今日は千月洞で何か?』
 
『…いえ、それが…洞主の交代案が星主達の間で出ております』
 
『葉顔洞主がしっかりと治めればよかろう』
 
『はい。ですが…この所雪蘭様は功力が日に日に強まっているようです。それを星主達が知り洞主を本筋に戻すのはどうかと…これには私は異論ありません。ですが…』
 
葉顔の言葉に眉を顰めた秋月は一瞥する。
 
『本筋とは?洞主は血統ではなく力だ』
 
『血統も力も兼ね備えた者がいればどうでしょう?』
 
『言うようになったな。しかし雪蘭には洞主はさせない。炎輝も同様。師として補佐はするがそれ以外の関わりは持たぬと春花と決めたのでな…それとも、洞主の荷が重いか?』
 
『いえ、そのような事は…』
 
『葉顔、お前はこの10年よく洞主として千月洞を率いてきた。強さだけではここまで続かぬ。以前お前に言った事を覚えているか?
【情を捨て強くなれ】そう言ったな?だが間違っていた。いや、知らなかったのだ。情と力には関わりがある。』
 
『因果関係があると?』
 
『そうだ。元は正道だった傅楼の強さは妻を守る為のものだろう。幼馴染の游糸を救う為に師である袁掌門を倒した。掟に背いた咎で魔教に身を落としたが魔教において伝奇谷は小さな力ではなかった…あそこまでにしたのはやはり守るべき者の存在だ。
弱味だと思っていたものが実は力の根源だったのだ。お前が持っている千月洞に対しての情が同じ事であろう?
それ故にここまで長く統制が取れていたのだ』
 
『それは…誤りです。私は…千月洞に情があった訳では…ありません。私が守っているのは…』
 
秋月は静止を命令するように片手を上げた。
『葉顔……それ以上は聞くまい』
 
秋月は葉顔のそれ以上の言葉を遮る。
 
『……も、申し訳ありません…ただ、私の力も限界があります。不穏分子をどこまで抑え付けられるか…生まれながらに器をお持ちの方には理解が得られないのでしょうが…』
 
『弱音か?だったら洞主を退き次の器に渡せば良い。』
 
『………』 
 
『夜間、周辺の警護には感謝している。時々雪蘭を相手に武芸を見てくれているのも知っている。だが血生臭い環境に家族をあの子を置きたくないのだ。あの上官秋月がいつの間にか只人になってしまったのか。そう笑われても全く口惜しくもないむしろ喜ばしいほどだ』
 
『………はい』
 
『私達がお前の邪魔になるなら遠慮なく言え。春花がいれば私はどこでも生きていける…』
良くも悪くもこの上官秋月という男は誰に縛られる生き方をしてこなかった。
【鳳鳴山荘の心法を盗め】【簫家を滅せよ】という母の怨念さえ最終的には春花への愛で虚しさを感じ手離す事ができたのだ。
無垢で純心に勝るものは何もない。ただただ春花さえいればいいのだという実に単純で明快な願いに従順だ。
 
無言で葉顔は一礼した。
洞主の座は渡しながら師弟としては秋月が師であり、葉顔がその考えに背く事はなかった。
それから数年の間は平穏が保たれた。
しかし盛者必衰が世の常。初めは些細な諍いがやがて大きな負の感情を生み、抑圧された環境が負の感情を急激に育ててしまう。
江湖の平和も長い間に歪みが生じ緊張感のあるものとなっていた。鳳鳴山荘の絶対的な力も又絶対ではなくなりつつある。
 
『春花様。お迎えに上がりました秋月様よりご伝言でございます…』
 
邸に迎えに来た男達は礼儀正しく名を名乗った。
それ故に春花は秋月に禁じられているにも関わらず戸を開けた。
そして急ぎの伝言を書簡にて渡される。
 
『これは…?え?』
 
書簡を開くが中には何も書かれてはいなかった
 
『何も書いてなく見えるけど?。それに兄上は今日は千月洞に行ってるけど何の伝言なの?あなたどちらの星僕さん?』
 
『はっ本当にあの上官秋月の奥方か?こんなに簡単に引っ掛かるとは…』
 
『引っ掛かる?え?まさかこれ罠なの?』
 
そのとき、部屋の奥で昼寝から起き泣き出した子に一同が気づく。
春花は生まれたばかりの子の元へ急ぎ魔の手が伸びるのを防ごうとした。
 
『赤子か?雪蘭様と炎輝様だけじゃなかったのか丁度いい…』
 
『子供たちを知ってる?私を誰だと?』
 
『上官秋月の奥方春花殿だろう?』
 
『え?知ってるの?』
 
『江湖中で知らぬ者がいるとでも?…』
 
『で、でも何故こんな事を…』
 
異変に普段は雪蘭を守護する銀の狼雪月が気付いた。
今日は警備が手薄になる為に念の為雪月を置いて行ったのだ。
雪月はその遠吠えで合図を送る。
千月洞の秋月、葉顔にもその遠吠えで異変の知らせが届いた。
 
『秋月様…これは?』
 
『しまった。今日は雪蘭と炎輝は鳳鳴山荘にて刀術を習いに風彩彩の元へ行っている』
 
『しかし、千月洞の星僕に警備をさせております』
 
『葉顔、信じすぎるのは良くないぞ。』
 
『ま、まさか警備の星僕が?』
 
『無い話ではない』
 
『春花様は産後間もないのでは?あまり動けぬ事を知っている者なら…やはりどこかの星僕やも』 
 
秋月は千月閣から伝奇谷へ急ぐ。
 
鳳鳴山荘にいる雪蘭と炎輝にも雪月の遠吠えは届いた。2人は物心をついてから身を守る為の刀術を習いに時折鳳鳴山荘で過ごしていた。
冷凝や風彩彩は武芸の何も出来ぬ春花から武芸の身のこなし、頭脳の才、気品全てが揃った雪蘭が生まれた事をいつも不思議がっていたが今日この日の行動は正に母春花の精神を受け継いだ者だとようやく溜飲を下げる事になる。
 
『姉上、雪月の遠吠えが…』
雪月の合図に炎輝は鍛錬に使っていた木刀を思わず投げ落とした。
動揺する弟とは逆に落ち着き払う雪蘭は的確な指示を出す。
『炎輝。お前は蕭白様にこの事を伝えて。私は急ぎ母上の元に向かいます。恐らく父上も葉顔先生も向かっているはず。』
 
『雪蘭?炎輝どうしたの?』
 
『彩彩先生、邸に不審者の奇襲があったようで、今雪月から合図が…今から行って参ります。炎輝には白盟主に伝えるように言っておりますので宜しく頼みます』
 
深々と頭を下げると庭に出て飛び出した。
その姿は正にいつかの秋月さながら華麗に飛翔した。
 
『え?ちょっと!雪蘭っ・・・』
 
『雪蘭がどうしたのだ?彩彩・・・炎輝も慌てて何処かに行ったが』
彩彩の声に冷凝が顔を出した。
『冷凝、すぐに秦殿を呼んで!』
平穏に久々の事件に鳳鳴山荘も騒然とした。
 
その頃、伝奇谷にある邸にて賊と対峙する春花。
生まれたばかりの子を背に隠した。
 
『何故、こんな事を?』
 
『何故?我が星主は傅楼に利用され上官秋月に殺された。しかし星僕の中から新しい星主が生まれた。にも関わらず洞主が代わり、腑抜けの葉顔洞主では力を試す事もできぬ。長く平穏な日々ばかりではつまらぬのだ。
葉顔洞主には退いてもらい、上官秋月に再び洞主として立ちあがってもらいたい。鳳鳴山荘ばかりに江湖を牛耳らせてなるものか…
上官秋月の足を引っ張る事ができるのはのはお前だけだと昔、顧星主が話していた。それを利用して秋月を討とうと誘われたが。あの時に裏切った者どもは皆一掃された。
お前さえ居なければ千月洞は再び江湖を手にする機会が訪れるだろう…分かるか?つまりはお前の存在が我々から導き手であった洞主を奪ったのだ』
 
『……それは…』
 
『百花刧の毒を全功力を使い果たして解毒する程の価値がお前のどこにあるのだ?』
 
『……』
 
『では、人質としてまずこちらの里に来てもらう…』
じりじりと春花に近付き背に隠した子ごと身体を持ち上げた。
賊達は早々に邸を後にしようとしていた。
 
『急げ…』
 
『な、なんだこれは…』
『うっ・・・体が・・』
賊達が襲い来る重力、殺意に近い怒りの念を感じ震え出した。
 
突如青空が暗雲に変貌し地が唸り出す。雷雲と共に凄まじい重力が賊達を襲い始めた。
 
『な、何だこの力は…』
 
我慢できず捕縛を解いた賊から逃れた春花はすぐさま我が子を抱きしめた。
しかし容赦なく襲う重力に足元から崩れ春花も逃げ出す事はできない。
 
『うぅっっ…雪…』
 
『は、母上っ…』
 
とぐろをまいた黒雲の隙間から飛び出したのは雪蘭である。
春花の前に立ち賊に対峙する。
 
『お、まえ…誰だ』
 
長い黒髪は荒れ狂う風に揺れた。
『雪…だめ…やめなさい』
 
賊達の誰もが立ってはいられなかった。
 
『・・・雪・・・』
 
『雪蘭っ力を止めろ!』
 
千月洞から駆け付けた秋月はその修羅場に驚く。
武芸に長けた男たちが何人もその場で蹲り、そして苦しんでいる。
雪蘭の足元で必死に子を抱く春花。
 
葉顔と共に現れた秋月を目にし賊達はどよめいた。
 
『す、凄まじい力だ…やはりこれは上官秋月の力か?功力が失われたのはやはり嘘だったのか?』
 
『お前達。鶴星主の手の者か?顧晩が粛清した筈だろう』
 
葉顔は鋭い視線を邸の周囲に集まった賊を見やる。
徐々に重力が重く掛かり手練れ達も葉顔すらも苦痛に顔を歪ませる。
 
『ち、父上…力が制御できない…』
 
秋月は氷蚕糸を伸ばし春花を縛ると引き寄せた。
『・・・・春花っ』
『・・・』
春花は微かに秋月の衣の裾を引く
『大丈夫か?』
『・・・・雪蘭を・・助けて』
秋月は今度は雪蘭を氷蚕糸で引き寄せる。
 
『ち・・父上・・』
すぐさまその背の経穴を突く。
雪蘭の力の暴走は停止した。辺りに立ち込めた暗黒の空はみるみる元の青空に晴れ渡る。
 
『……』
 
春花の腕の中の赤子は無邪気に手足を動かしていた。
安堵し立ち上がると雪蘭に向きなおる。
 
『雪蘭、お前はどうだ?』
 
『大丈夫です。』
 
『では、母を連れて鳳鳴山荘に行けるか?』
 
『はい。ですが父上は…』
 
『父は後から迎えに行く』
 
そう言うと葉顔と賊達に向かった。
雪蘭の重力が解除され動ける賊達は立ち上がる。
 
『葉顔洞主!千月洞を上官秋月に返せ!』
賊達の声が響いた。
 
『私の弱味を突いてくるとは・・・命知らずな輩も残っていたのか葉顔』
 
『秋月様!千月洞へお戻りください』
『再び、江湖を!!』
 
『我が再び立ち上がりこの江湖の頂点に立ったとして、お前たちの命はその時既に無いが?』
 
『!!!!!』
 
秋月の身体から怒りを帯びた冷気が溢れだした。
 
鳳鳴山荘では炎輝から知らせを受けた蕭白と秦流風が準備を進め、いざ出発せんとしていた。
馬の背に鞍を着けている間に秦流風が見上げた空から煌めく光が流れ落ちるのを目にする。
 
『おい!アレはもしかして…』
 
鳳鳴山荘の山門の向こうに何やら落下したのが見えた。
駆け寄ると其処には春花と生まれたばかりの弟を連れて飛行してきた雪蘭が立ち尽くしていた。
母親と弟をその両手に抱え直立したまま気を失っていた。
 
『雪蘭!!おい!大丈夫か?春花殿は…大丈夫だ生きてる。赤子も無事だ』
 
流風の言葉に安心した蕭白は雪蘭に近付く。
『雪蘭…良く頑張った…もう大丈夫だ』
その声に我に返った雪蘭は長い睫毛に縁取られた美しい瞳に氷の珠の様な涙を流し倒れ込んだ。
 
抱き止める蕭白はその背を優しく撫でる。
 
『白…盟主…こ…こわかった…』
 
娘は白の腕の中で安堵し再び気を失った。
次に目を覚ました時、心配そうに見つめる蕭白の姿があった。
 
『白盟主…』
 
『雪蘭!目覚めたか。良かった』
 
『母上は…それと…』
 
飛び起きる雪蘭
 
『慌てずとも良い。春花殿も弟の桃雨も無事だ。そなたの父上も迎えにきているぞ』
 
『良かっ…た…』
 
『だが、たった1人で母を救いに行くなど…危険すぎる』
 
『え?』
 
『心配したぞ…』
 
白の手が伸び指先がそっと頬に触れた
 
『白盟主?』
 
雪蘭は大きく澄み切った目を瞬かせた。
 
『あ、いや…』
 
『…あの…?』
 
気まずい空気が流れている。
 
『娘が目を覚ましたようだが?』
秋月が音も気配もなく現れた
 
『ん?なんだ?この空気は…』
 
『いや…別に…春花殿はどうだ?』
 
『大丈夫だ。ただ、産後間もないのでな体力的にあまり無理ができない。その上に今日の事件だ…所で娘よ…何故顔が赤い?何かあったか?』
 
秋月は目に入れても痛くないほど可愛い娘の肩に手を置く。そっと赤くなった頬に触れる。
 
『いいえ…あの…ごめんなさい。力が制御できなくて…』
 
『気にするな…お前は私には十分すぎる娘だ。爆発的な力の開放は制御が難しい。それもこれからだ。お前はまだ16だからな』
 
『はい・・』
 
父と娘の会話に眩しさを感じる蕭白。
 
『雪蘭!』
 
『母上!!』
 
飛び込んできた春花が雪蘭を抱きしめる。
 
『どこも何ともない?』
 
『うん。あの…母上にまで辛い思いさせてごめんなさい』
 
春花は微笑むと涙を流す頬に張り付いた黒髪を手で払う。春花の目にも安堵の涙が溢れていた。
 
『あなたが無事で良かった…』