中国ドラマ 春花秋月その後物語 3 | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
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秋月と春花の日々は穏やかで、それまでの激動が嘘の様に緩やかに時は流れていた。

魔教と正道の争いは人々の記憶から遠ざかるほど平和な日々が続いている。
その間に2人の間に生まれた雪蘭、その3年後のうだるような暑い夏に生まれた炎輝と秦流風冷凝夫婦の息子清流、李漁と風彩彩の娘明明は幼馴染として育った。
子の戯れる声の愛らしさを噛み締めるように見つめる姿は、あの泣く子も黙る魔教の頂、千月洞の長だったとは到底思えない変貌である。
しかして平穏な日々ばかりではなかった。
大なり小なりの起伏があるのが世の常である。
春花が2人目の子炎輝を宿していたある長雨の日、それは起こった。
功力を失った秋月の代わりに千月洞洞主となった葉顔は、主人を失った伝奇谷の残党をも抱え文字通り魔教は統一されていた。
ただ、正道と魔教という正邪の隔たりは既になく、新たな江湖の姿があった。
正道の頂点、鳳鳴山荘の盟主蕭白はある書簡にて真実を人々に伝達した。
それにより大きな変動が起きていた。
医聖の死から始まり伝奇谷の谷主傅楼の死、風彩彩の父風掌門の死の真実が冷掌門によるもので全ては命長らえる『長生果』を巡る我欲による争いであった事、当時の正道の各掌門達もその争いにより殺し合い命を落とした事、全てが医聖の弟、八仙府の朴が持つ優秀な兄への怨恨と我欲の所以であった事が白日の元に晒された。
父親の所業を隠したまま、門下達に慕われ簫白から厚遇される事に負い目もあり、又夫や子を得た事で益々心に曇りが在りながら生きる事へ抵抗感が生じた風彩彩と冷凝が盟主となった蕭白に人々に全てを知らせる様に依願した。
蕭白も又父親と上官恵の事実に同じ想いを持っていた事もあり承諾した。そしては自らもそれを合わせて公然としようとした。
しかし秋月は蕭原と母恵との事を広め鳳鳴山荘の名を今更悪戯に汚す必要もないと書簡にて一蹴した。
秋月にとって過去は変わらない事でこれから先傍に春花がいれば母親の汚名を濯ぐ事は大事ではなかったのだ。蕭白の願いを聞かないことは秋月のささやかな嫌がらせでもあった。
何かにつけ簫白に秋月は大人げなく振る舞い度々春花に指摘される。秋月にはそれすら幸福でしかない。
 
長雨の降る昼下がり、蕭白は決心し共もつけずに鳳鳴山荘を後にした。
 
目指すは秋月の元へ。
秦流風達の話によると秋月と春花は今伝奇谷の近くに住んでいる。葉顔の働きかけにより秋月は千月洞の良い相談役として又薬の知識も豊富な為立場は違いながら重要な人物である。その常に湧き上がる支配的な雰囲気で功力が無い事を誰もが失念する程だった。
 
『相も変わらず…嫌味な存在だ』
と冷凝は仲間内の茶の席でその変わらぬ絶大な存在感を持つ秋月について洩らしていたがそこには以前のような憎しみや怒りの感情は見えなかった。
冷凝も風彩彩も良くも悪くも正道精神を叩き込まれた育ちである。我欲に塗れ道を踏み外した父親達を愛しこそすれ失望も抱いていた。
全てが平穏を取り戻しあの混沌の日々が人々にとって夢物語になりつつある中、春花は思い悩む2人に親の罪を子が背負わずとも、真実に目を背けず心に留め置く事でこれから起きるかも知れぬ負の連鎖を止めれば良い、命ある限り真っ当に生きていけば良いのでは?と何気なく発した言葉に心が晴れたと蕭白に伝えた。
蕭白も春花ならそう言うであろうと納得した。
 
幾度となく彼女は若盟主の折れそうな心、傾いだ気持ちを立て直すべく手を差し伸べてくれたのだ。
 
父の死で心許なくなった時も、父と上官恵の真実に真の義に疑問を持った時も簫白に寄り添いそして進むべき道を指し示してくれた。
その春花の思い遣りや優しさを義の名の下に利用したのは紛れもない自分自身だった。そう思う度に胸が疼く。
内心にある蠢く絶望に蕭白は為す術もない。手を差し伸べてくれた春花はもういないのだ。
 
草木の覆う山道を歩いて進み行く深い森は城壁の様に主を守護しているのだろう。鬱蒼とし新参者の侵入者を容赦なく拒絶する。
 
あたりを見渡すが今来た道も分からなくなり、空を飛ぼうにも何か別の力に掻き消され通常よりも強い重力が体にかかっている。
急激な不安が襲う。これもまた侵入者への警告なのだろう。心理的な揺さぶりは日頃心身共に鍛錬を積んできた蕭白でなくては立ち向う気力は起きなかっただろう。
 
『なんだ、この森は…』
 
思わず口に出すと脇に差した激しく鳳鳴刀が震えた。
 
『だ、誰だ!』
 
一際大きく風に揺れる大樹がある。
地面に張り出した根の重なりに目を凝らす。
近付くと幼き子どもが転がっている。
その傍に毛を逆立て唸り声を上げる犬は白銀の毛をしている。
 
『無事か確かめるだけだ…そう威嚇するな』
犬は鳳鳴刀を見つめると唸り声を止め今度はじっと見つめた。
白はそっと手を伸ばすと幼子は息はしているようだった。
上を眺めると折れた枝の端がぶらぶらと揺れている。
 
『あの高さから落ちたのか?…怪我は?しかし、こんな山奥でこんな子供が?』
 
揺さぶっても目を覚さぬ幼子を捨て置く事も出来ず取り敢えず抱き抱えるとそのまま進む。
銀の毛を風に靡かせた白銀の犬が誘導する様に振り返りながら先を進む。意識のない子を連れこれ以上分からぬ場所を行く事は憚られたが刀が何かと呼応している。鳳鳴刀がここまでざわつくのは初めての事でいつに増して警戒しつつそれでも歩を止める事なく突き進んだ。
 
奥に分け入ると深かった山が突如ぽっかりと穴が空いたように開け花畑が広がる。雨に濡れそぼる深い森とは真逆に、其処は雲一つない晴天の空が広がっていた。そして小さな川を越えた向こうには邸があった。霞に包まれ釈然としないまでも幽玄なる景色に驚いた。
『なんだここは…桃源郷か?』
 
その瞬間に微かに悲鳴が耳に届く。
 
『!!?』
 
たちまちどこからともなく一陣の風と共に邸の中から外へ風圧に飛ばされた黒い人影が数名折り重なった瞬間を目撃した。
 
『なんだ?何が起きてる?おい、もしや危険があるやも知れぬ。子を見守っていてくれるか』
 
言葉を理解したのか傍の切り株に寝かされた幼子を守護するように白銀の犬は座した。
 
蕭白はすぐさま小川にかかる橋を渡り倒れた男たちの元へ向かう。
吹き飛ばされ折り重なった男達は呻き声を上げている。
入り口から中を覗くとそこには倒れた春花を抱き上げた上官秋月の姿があった。
 
『ああ、これはこれは鳳鳴山荘の盟主蕭白様か?随分と手荒な訪問の仕方だな』
 
『貴様・・もしかして上官秋月か?』
 
『変わり果てた姿に私の顔も忘れたか?』
 
暗黒の艶めいていた秋月の髪が白髪に変わった事を蕭白は知らなかった。
しかして秋月の持つ地の底からの波動は変わりなくピリピリとした緊張感が漂う。
その人間の精神に働きかける能力は功力によるものではなく、元々生まれ持った力であったのだと納得した。
 
『いや、そなたは余り変わっておらぬ…この黒き衣の者達は私ではない…秋月殿を訪ねてやって来たがこんな所に出くわしてこちらも驚いている…で?何があったのだ?』
 
秋月は白を一瞥すると腕の中で依然意識のない春花の頬にそっと触れた。
それは硝子の細工に触れるかの様に優しく壊れ物の様に触れる。其処には蕭白には眩しいほどの愛しかなかった。
 
『ん……あ…』
 
覚醒した春花の姿にそして鼻孔を擽る懐かしい春花の甘い香りに蕭白の心が微かに揺れる。
秋月は白の一瞬の心の機微を感じ取りながらもその目に春花以外入る余地がなかった。
 
『春花?大丈夫か?結界が消えたので急ぎ戻ったが…何があった?』
 

ようやく目を覚ました春花は意識の定まらぬ中で秋月を見つめた。
『何も…ただ…突然男達がやって来て私がいるせいで魔教の均衡が崩れたと…』
 
『…残党か…』
 
『残党とは…もしや伝奇谷の?』
伝奇谷の残党は秋月に恨みがあると秦流風に聞いていた。
 
『…分からぬ…千月洞の星主達の中にも未だ前洞主が出入りする事を良く思わぬ者もいよう。葉顔の様に良い洞主ではなかったからな。憎悪を持つ者が居ないとは言い切れぬ。かつて顧晩がそうであったように…』
 
意識がようやくはっきりとした春花は秋月と会話している声に聞き覚えがあった。
 
『え?!蕭白!』
 
飛び起きると秋月から離れ蕭白に駆け寄る。
秋月は腕の中から突如消えた温もりに苛立ちを覚え眉を顰めた。
不機嫌に己に背を向ける春花と春花を見て喜ぶ蕭白を睨む。
 
『春花!!感動の再会より雪蘭はどこだ?結界が解けたという事は意識を失っている!』
 
『雪蘭は雪月と表で遊んで…ま、まさか…男達が雪蘭に何か』
 
『…意識のない幼子なら先程森で…白銀の犬が傍にいて…』
 
『それは犬じゃなくて狼よ。で、雪蘭は何処に?』
 
『安全な場所に寝かせている。こちらだ』
 
急ぎ駆け出すと切り株に寝かせた子を指さした。
 
『雪蘭!!』
 
秋月と春花が子を抱きしめた。
 
『その子供はもしや…』
 
『ああ、我が娘…雪蘭だ』
 
『だが結界が消えたと言うのは…』
 
鳳鳴刀が激しく震え始める。主の白の抑えも効かぬ程強く震えた
 
『な、なんだ?どうした突然…』
 
春花の胸で幼子はゆっくりと目を開く。
 
『……ん…お母様。あ、お父様も…雪月はどこ?』
 
白銀の狼雪月は駆け寄り主である幼子雪蘭の手に額を擦り付けた。
 
目を覚ました雪蘭は父親の美貌と母親の大らかで華やかな風情を受け継いだように目も醒める美しさを持っている。
幼子特有の丸みを帯びた額に艶やかな前髪がかかり、黒目がちの瞳は長い睫毛で覆われている。
その瞳はゆっくりとこちらを向き白を凝視した
 
『?』
 
『知らない人だぞ?雪蘭見てはならん』
 
『違う違う!もう!又そんなこと言って。お母様のお友達よ?雪蘭ご挨拶は?』
 
小さく舌打ちをする秋月の心子知らず、雪蘭は母の言葉に頷くと愛らしい笑顔で小さな手を振る。
 
『春花殿のお子であったか…そうとは知らずに…大きな木の下に倒れていたので放っておく事もできなかったが…』
 
『ふん…幼女誘拐だぞ』
 
『ちょっと!蕭白は連れてきてくれたのよ!ありがとう蕭白』
 
感謝する春花を尻目に秋月は娘を抱き上げる
 
『娘よ、お前…また木に登ったな?』
 
『……』
 
『昼寝か?』
 
『……』
 
幼子は小さく頷いた。
 
『まぁ!寝てたの?木から落ちて気を失ったのではなく?』
 
『木から落ちる?そんな事が起きる訳がない。雪蘭は私以上の功力が生まれながらに備わっている…』
 
『寝たから結界が解けたの?』
 
『まあ、そう言う事だ』
2人の会話に蕭白は顔色を変えた。
 
『ちょ…ちょっと待て…この辺りの重力はまさか』
 
『ああ、惑いの森にしているのは雪蘭だ…私にはもうそんな力はないからな…せいぜい風圧で輩を飛ばす程度だ。夜は葉顔が千月洞の者達を警護に送ってくれるが…で?用向きはなんだ?こんな下らない世間話をしに来たのか?』
 
『あ、いや…父蕭原と上官恵の事だ…そなたには断られたがやはり全てを詳らかにすべきだと思う』
 
『そうすればお前の負い目が和らぐからか?』
 
『あなた!』
 
春花の呼び声に懐かしさと悲しみが襲いくる。かつて春花に『あなた』と呼ばれたのは他ならぬ蕭白本人である。
今、その言葉は秋月のものとなりこうして白の心を見えない棘で微かな傷をつける。
 
『いや、そう思われても仕方ない…だが…』
 
『正道と魔教の戦いの直前に一度死んだ身だ…今更汚名を濯いで何になる?蕭原も上官恵も死んだ。お前にとっての父は尊敬すべき父で良いではないか。人は側面だけではない。多様な面があるものだ』
 
『しかし…それでは・・』
 
『いいか?簫原はあの女にとって、そしてその恨みのせいで私にとっても憎悪の対象だった。しかし民にとっては?お前の母親にとっては?良い夫、良い父だったのではないか?それで良いではないか。今更それにどんな意義があるのだ』
 
『間違いは正さねば・・傅楼の様に要らぬ恨みを買う可能性があるではないか。彩彩は最後まで掌門の死が傅楼のせいだと思っていたんだ』
 
頭の固い白に溜息を吐く秋月。何処までも平行線の2人はそもそも真逆の性質である。考えも行動も互いに相容れる筈はなかった。
 
『蕭白。この人はもうそう言う事には拘らないみたい。だから良いの。ここでゆっくり過ごして行けたらそれだけで…良いの』
 
秋月は気持ちを代弁する春花を見つめ、春花の目も秋月を見つめている。
何人も横から入ることの出来ない一部の隙もない程互いが唯一無二の存在だと思い知る。
 
『そう言えば、白盟主は秦流風から聞いたが見合いの話も次々と断っているそうだな…』
 
『……』
 
『まさかと思うが春花にまだ気持ちが残っている訳ではあるまいな』
 
『何を言い出すの!ある訳ないでしょ!白は忙しいのよ?』
 
『……全くないとは…言えないが…』
刀を強く握りしめた。
 
『え?』
 
『ようやく、春花が・・いや春花殿が幸せにしているのを確かめにくる決心がついたくらいには…なったようだ』
 
『……蕭白。私幸せよ?この人こんな風だけど一生懸命大事にしてくれてるわ。だから蕭白も大事な人を早く見つけて幸せになって欲しい。それが私の願いよ』
 
『ああ、そうだな…だが今はまだ…武林が落ち着いてからにしよう…しかし、今日の奴等はまたやって来ぬとは限らないぞ…もし何かあれば我々鳳鳴山荘で匿う事もできる』
 
『……必要はないが…覚えておく』
 
春花との再会は蕭白にはまだ胸の奥に痛みが残るものだった。だがこの再会により蕭白の心は飛び立つ鳳凰の如く空に羽ばたこうとしていた。
 
その後4につづく